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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第三章
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第百一話 英雄たちよ、終焉に叫べ

リヴァイアサンを転移させた後、真っ先に動いたのはアリシアとグレイだった。

封印が完了するまでリヴァイアサンをこの場に留めるため、温存していた最後の切り札を解禁する。


「《神話を紡ぐ双煌(ディヴァインスペル)・真髄解放》!」


アリシアの体を光が覆う。同時に周囲の七体の天使たちも自身を光に変えてアリシアに集約されていく。

光の中から現れたのはレースの付いた、美しくも(おごそ)かな純白のドレス。アリシアの背中には三対の翼が生えている。そして頭上と翼の先端、背中に光輪が浮かんでいた。

両目を金色に輝かせ、双剣を握りしめるアリシアの姿は美麗にして優麗。しかし感じられる力は圧倒的だ。彼女から放たれる奇跡の光は天変地異の舞う闇夜の中でも強く輝いている。まさに『極光の神格者』と呼ぶに相応しい。


「《正義の天譴(アストレア)・真髄解放》ッ!!」


グレイもまた体に炎を(まと)う。炎は彼の体に沿うように何かを(かたど)ると、やがて剥がれて消滅した。

その下から現れたのは堅牢な鎧だ。赤、銀、金、黒の四色を基調とした美しい鎧。首元に付いた赤いマントは先端に黒い焦げ跡が見えた。鎧の合間から炎が溢れ、全身から火の粉が立ち昇っている。

これこそ彼の正義の体現。全身が彼の熱く輝く正義を表象している。アリシアと同様、太陽の如き輝きが闇夜を照らしていた。この燃え滾る正義こそ、彼が『天譴の執行者』たる所以である。


『──知っての通り、ここから私たちは封印が完了するまで耐えないといけない。私は今まで通りサポート。アリシア・エルデカとグレイ・フォーリダント、アラン・アートノルトは交互に前線に出て攻撃して。リフレイムの聖装士さん達は私の指揮合わせて攻撃して。タイミングと攻撃箇所は私が全部考えるから』


簡潔にシエルが策を念話で伝達する。先程と同じくローテーションを組んで戦線を維持する戦法だ。ただし、ここからはアラン、グレイ、アリシアと主戦力に据えたローテーションとなる。


「まず私が先陣を切りましょう。グレイ・フォーリダントは私の後をお願いします。アラン君は今の内に回復を!」


最初に前に出たのはアリシア。翼を羽ばたかせて一気に加速する。

その速度はまさに光速。気付いた時には彼女の姿がリヴァイアサンの体の末端にあり、リヴァイアサンの体の至る所が斬られていた。

そのままアリシアは止まらる事なく、何度も光速移動から斬撃をリヴァイアサンに見舞う。全身に余さず斬撃を叩き込み、リヴァイアサンの動きを妨害する。

だがリヴァイアサンは瞬時に傷を回復した。コンマ数秒で完治を果たし、アリシアに視線を向ける。アランと同様、今のアリシアは危険と判断していた。


「オォォォォォォォォォォォッ!!」


咆哮を上げた瞬間、アリシアの視界が歪んだ。まるで割れたガラスを何重にも重ねたように、彼女の周囲の空間の景色が屈折している。


(これは、空間の断絶ですか)


試しに空間の断絶部分に双剣をぶつけるが、境界が破れる気配はない。アリシアの行動範囲を制限していた。

リヴァイアサンはそこへ砲撃を見舞う。当然アリシアに逃げ場は無かった。砲撃は一方的に空間断絶を超え、アリシアを袋小路の状況に追いやった。

だが彼女は双剣を掲げ、落ち着いた声音で唱える。


「───《封印領域解放(インペリアルオーダー)》」


瞬間、鎖が舞った。特に何かを妨害するわけではない。ただ虚空から飛び出した大量の光の鎖が空間全域に張り巡らされる。らだそれだけで多くの砲撃が霧散した。


「ッ……流石に全ては消しきれませんか」


いくらか消しきれなかった砲撃が彼女の体を掠めたが、瞬時にアリシアは傷を治す。そして静かに空間の断絶部分に剣先を向ける。


「─主よ、この境界を縫い止めたまえ─」


空間断絶を光が覆う。如何なる理屈か、空間の裂け目が修復されていく。数秒で世界はあるべき形に復元された。

その光景を見ていたアランは過去を回顧せずにいられなかった。


(懐かしいな。奇跡によるあらゆる脅威の強制無力化。そして他人の技を完全に模倣し、さらに模倣した技を奇跡と合わせて昇華させる御業……いつ見ても馬鹿げてるな)


嘗てのアランが敗れたアリシアの《真髄解放》。それは奇跡と呼ぶにはあまりにもデタラメかつ理不尽な能力。

彼女の全力を改めて見て、アランは実感させられた。まだ自分ではアリシアには勝てないのだろうと。


───封印まで残り8分48秒


再びアリシアが加速する。今のアリシアであっても単純な質量勝負では勝機は無い。証拠に先程も砲撃を封じきれなかった。

あからさまな高火力攻撃を放ってもリヴァイアサンにそれ以上の攻撃で潰されるのは『文字通り』目に見えている。故に回避と攻撃を合わせた戦い方を選んだ。


「グゥゥゥゥゥガアァァァァァァァァッ!!」


リヴァイアサンから伝播する魔力により、再び空間が異常を起こす。今度はアリシアとリヴァイアサンの間にある空間構造が変化した。

滅茶苦茶な空間構造は誰の目にも魔力や空気の流れから見てとれた。ものが突然進行方向を変えたり、別の場所に転移したりしている。マトモに直進することも叶わない状況だ。

リヴァイアサンはアリシアを近付けさせないつもりだ。加えて衝撃波や砲撃を大量に放出し、攻撃にも徹底している。

馬鹿正直に突っ込めば即死は必至。止まっても状況は進展しない。

だからこそ、


「見えてますよ。その未来は」


アリシアは全く速度を落とすことなく、乱れ狂う空間を駆け回る。

迫り来る攻撃は的確に迎撃と回避でほぼ完璧に凌ぎ、全速力で空間を突き進む。二十秒後にはアリシアの姿がリヴァイアサンの背部にあった。


「─主よ、天よ、この地に慈愛と天譴を!─」


天から大量の光の剣が降り注いだ。数にして十万本以上。だが一撃ごとの威力は小規模な隕石に匹敵する。

リヴァイアサンの体が大量の剣に斬り裂かれていく。背中に突き刺さったものもあった。


「オォォォォォグガァァァァァァァァァッ!!」


咆哮と共に煩わしそうにリヴァイアサンは体を旋回する。

リヴァイアサンにとっては少し暴れた程度。だが人類の尺度で測れば天災級の攻撃だ。拡散した衝撃波によって全ての剣が弾き飛ばされる。アリシアは予め纏っていた結界で衝撃波を防いだ。


その時にはリヴァイアサンの先頭部分が不自然に欠けていた。先程、アランに見せた空間接続による移動と同じだ。

予知に従い、アリシアはその場から退避する。直後にその場をリヴァイアサンが大口を開けて通り過ぎた。アリシアの真上に空間の接続点を繋いで移動してきたのだ。


「《聖剣よ、闇夜を砕け(ヴォーパルソード)》ッ!!」


双剣が極光を放つ。光はアリシアの十倍以上の大きさの大剣を模っていた。無論、その威力は先程の光の剣の十数倍はある。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


大気を切り裂き、アリシアは双剣をリヴァイアサンの背部に薙ぎ払う。この一撃ならリヴァイアサンの体を大きく抉り取るのも不可能ではないだろう。

だが、


「ガはッ…ァ…!?」


アリシアの動きが止まる。気付けば右の横腹が大きく抉られていた。


(何が、起こって……!?)


彼女の横にはリヴァイアサンの鉤爪があった。何もない空間から不自然に鉤爪が生えている。先頭部分と同じく空間を繋いで転移させたのだろう。

だがアリシアが最も驚いたのは、この攻撃が彼女の予知に映らなかったことだ。如何なる行動もアリシアは予知し、奇跡によって自動的に回避できる。リヴァイアサンはその全てを潜り抜けてきた。


(私の予知にも干渉するとは、どこまでも規格外ですね……!)


リヴァイアサンはアリシアに傷を治す暇を与えない。さらに繋いだ空間から二本の手を出現させ、鉤爪を振り下ろす。

ほぼゼロ距離。回避は間に合わないと悟ったアリシアは双剣で両手の鉤爪を受け止めた。

筋力で押し合ったのは初めてだが、やはりリヴァイアサンの筋力は次元が違った。アリシアの身体能力はリヴァイアサンと比べれば稚魚(ちぎょ)も同然。みるみる内にアリシアが押されていく。

さらにリヴァイアサンは砲撃で追い打ちをかける。空間接続を利用し、全方向からアリシアに砲撃を当てようとした瞬間。


『──全員、撃って!』


シエルの合図に従い、数多の攻撃が放たれる。リフレイムの聖装士たちの攻撃だ。全身を穿つ攻撃の数々に、リヴァイアサンは僅かに怯んだ。

ダメージにもならずとも、アリシアを救うには十分な隙が作れた。同時に彼らの攻撃に紛れて、一筋の劫火がリヴァイアサンの懐に突貫する。


「次は俺の相手をしてもらおうか!リヴァイアサン!」


超高速で割って入ったのはグレイ。彼は一瞬にも満たない間に大剣を何十回も振り抜いてみせる。次の瞬間にはアリシアを襲うリヴァイアサンの鉤爪が全て切り落とされていた。


「アリシア様、次は俺が相手をします。今の内に回復を」


「はい……お願いします」


血反吐を吐きながら、アリシアはその場から離脱する。グレイはすぐに追撃に動いた。


───封印まで残り7分30秒。


グレイは空気を蹴り、リヴァイアサンの体表を切り裂きながら駆け回る。音も光も置き去りにした斬撃が絶えずリヴァイアサンの全身を襲う。リヴァイアサンは何度も空間構造を変え、グレイを死角から攻撃しようとした。

しかし攻撃は中々当たらない。グレイは既にリヴァイアサンと同等の速度まで達している。迫る砲撃をそれ以上の速度で躱し、振り下ろされた鉤爪を弾き返す。全方位に衝撃波が放たれた時には一度距離を取って凌ぎ、すぐに距離を詰め直す。

執拗なグレイの攻撃にリヴァイアサンは怒りを溜めずにはいられなかった。グレイを攻撃するのではなく空間を操り、空間構造をシャッフルした。


「ッ!転移か!?」


グレイの視界が次々に変化する。一度ではなく何度も、空間ごと様々な場所に転移させられていた。この歪な空間の中では、グレイもリフレイムの聖装士たちもリヴァイアサンを狙えない。

リヴァイアサンはグレイが迷っている隙を突いた。グレイの転移先をピンポイントに狙って砲撃を口から撃つ。


「ッ……良いだろう!お前がその気だと言うなら!」


今更逃げる気はない。熱く(たぎ)る決意に比例し、彼の大剣がさらなる劫火を纏う。

覚悟を決め、グレイは全力で砲撃に突貫した。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


雄々しく叫びを上げながら、大剣を砲撃と激突させる。

衝突は拮抗している。だがグレイの身体能力を(もっ)てしても、グレイの大剣が徐々に押されていた。


「まだだ!力を貸せ《正義の天譴(アストレア)》!あの厄災を破るためにッ!!」


大剣がさらに燃え滾る。爆発的に向上する身体能力が、遂にリヴァイアサンの砲撃を押し返した。

行けると確信する。グレイはそのまま砲撃の中を突貫した。歪な空間構造の中でも正確に直進してきた事から、この砲撃の軌道を辿ればリヴァイアサンに辿り着けると考えた故の行動だった。


無論、容易なことではない。分散した広範囲攻撃ならまだ可能性はあったかもしれない。だがシエルのサポート、皇都からの後方支援があっても、この一点集中の砲撃を受け切るのは不可能だ。

砲撃の中で鎧が割れ、皮膚が焼かれる。それでも彼は止まらず我が道を貫き通した。

それがグレイ・フォーリダントのあり方。いつ如何なる時でも正義を貫き、守るべきものを守り抜く。

そのためなら彼はどこまでだって強くなれる。


「───通ったぞ!リヴァイアサンッ!!」


拮抗の末、遂にグレイは砲撃を突っ切った。

リヴァイアサンの頭上に飛び上がる。リヴァイアサンは空間構造を戻すと共に大量の鎧騎士を生成した。

実力は魔鎧騎士(フォカロル)と同等かそれ以上。グレイを迎え撃つべく魔鎧騎士(フォカロル)たちがグレイに襲いかかるが、


『──騎士を狙って!巻き添いは気にしなくていい。グレイ・フォーリダントの道を作って!』


横合いから放たれた攻撃が魔鎧騎士(フォカロル)たちを弾き飛ばす。シエルとリフレイムの聖装士たちの連携がグレイに大きな活路を与えた。


「お前たちの覚悟、無駄にはしないッ!」


大剣がさらに輝く。限界の遥か先に達した彼の攻撃力は、リヴァイアサンの防御力にさえ屈しない。

リヴァイアサンに接近したグレイは頭部に大剣を振り下ろす。ありったけを込めた一撃がリヴァイアサンの頭部の肉を抉り、内側の頭蓋骨さえ粉砕した。

砕けた骨の合間からリヴァイアサンの脳が露呈していた。ここを潰せば如何にリヴァイアサンと言えども大きな隙に繋がるはずだ。グレイは再び大剣を振り上げ、


「ッ……ア、がッは……!」


瞬間、体が硬直した。

原因は分かってる。反動だ。グレイは無限に自己強化が出来るが、瞬間的に大幅な強化を起こすと反動で体が動かなくなるという弱点がある。リヴァイアサンの砲撃と防御を突き破るほどの身体強化を瞬時に起こした負荷は当然大きい。

そしてこの場に於ける硬直は致命的だ。


「ガァァァァァァァァァァァッ!!!」


リヴァイアサンは体の修復よりグレイの抹殺を優先した。無防備のグレイがリヴァイアサンに攻撃に耐えられる確率は低い。

シエルやリフレイムの聖装士たちが彼を助けに動こうとした。だがそれより早く動いた者がいた。


「バトンタッチだ脳筋。あとは俺が引き継いでいやる」


グレイの視界がまた変わる。その時にはアランがグレイの襟を掴んで持ち上げていた。彼がグレイを転移させたのだ。


「まさかお前に助けられる日が来るとは……屈辱だ」


「ならこれでお前に助けられた分はチャラだ。さっさと後ろで回復しろ」


グレイをシエルたちの(もと)に転移させると、すぐにアランは攻撃を始めた。


───封印まで残り5分10秒。


アランが狙ったのは露呈したリヴァイアサンの脳。理想を集約させた魔弾をリヴァイアサンの頭蓋骨の隙間に投げ飛ばす。

着弾した瞬間、リヴァイアサンの頭の内側で大量の魔法が炸裂した。肉が吹き飛び、頭蓋骨がさらに抉れる。

しかしリヴァイアサンの脳に付いた傷は些細なものだった。


(脳まで硬いのかコイツ!なら肺や他の器官も同じか。本当にどんな肉体構造してやがる)


遠距離で無理なら直接叩くしかない。瞬間移動により頭蓋骨に降り立とうとするが、彼はその場から動けなかった。

空間に異常が起きている。リヴァイアサンが空間断絶をアランとの間に挟み込み、アランの干渉を妨害していた。


(意地でも弱点は狙わせないつもりか……!)


アランが攻めあぐねている内に傷口が塞がっていく。

だが脳への攻撃に拘る必要はない。アランはリヴァイアサンの顎下に瞬間移動し、リヴァイアサンの顎に先程と同じく魔弾を放つ。そして撃ってすぐに瞬間移動でその場から消え、今度はリヴァイアサンの背中に魔弾を撃った。

リヴァイアサンの全体を切り刻んだり、捻ったりするような大規模な理想は具現化する負荷が大きい。時間を稼ぐことを考えるなら、シンプルな魔弾や打撃を理想を込めて放つ方が適していた。その方が負荷が軽く済む。


───封印まで残り4分14秒


リヴァイアサンは砲撃や衝撃波を何度も飛ばしては、時折魔鎧騎士(フォカロル)のような生成物を使ってアランの足を止めにかかる。

だがアランは絶対に移動を止めなかった。魔弾を生成しては放ち、着弾も待たずに次の場所に転移する。

先の二人から学んだことだ。少しでもリヴァイアサンの前で迷いや隙を晒せば、すぐに致命的な負傷に繋がる。アランはとにかくリヴァイアサンの攻撃を警戒していた。


しかしリヴァイアサンもいつまでも攻撃されるだけではない。むしろリヴァイアサンは既に全力のアランと戦っている。有効な手段は理解していた。

体を旋回させながら渦を巻くように動き、加速する。さらに一度目と同じく体表には暴風や雷撃、水流を纏うことで防御を徹底的に固めていた。このまま加速を許せばアランの攻撃すら効かない絶対の防御が完成する。

無論、アランもリヴァイアサンがこの手段に出ることは想定していた。だからこそ、


『──シエル、繋げろ!』


『──りょーかい!』


アランはリヴァイアサンの目の前に移動し、両手を(かざ)す。彼の目の前に何枚もの空間断絶があった。リヴァイアサンと同じく、空間の壁を作ることで動きを妨げるつもりだ。


「ゴオオォォォォガァァァァァァァァッ!!」


リヴァイアサンは構わず突っ込んできた。

当然だ、リヴァイアサンとアランの空間干渉では規模が全く違う。上位互換の力を持つリヴァイアサンが怯む理由はない。

リヴァイアサンの牙が断絶面に触れる。途端に空間構造が歪み、空間断絶が消滅した。

次々にリヴァイアサンは空間断絶を踏み倒して突き進む。最終的にほとんど速度を落とすことなく、リヴァイアサンは全ての空間断絶を潰した。そのままアランに牙を届かせようとする。

だが、


「《空間接続(コネクト)》!」


シエルの空間接続が二人の間に入り込む。

それは本来不可能な接続だった。シエルの空間干渉力はリヴァイアサンを下回る。リヴァイアサンが支配する空間において、彼女が空間を繋げることは不可能であった。

だが今だけは例外だ。リヴァイアサンがアランの空間断絶を破壊するために空間を滅茶苦茶にした今なら、その(ひず)みを利用して空間を繋げられる。

結果としてリヴァイアサンは空間の接続点に突っ込んでしまった。その接続先は、


「オォォォォォォォォォォォッ!!?」


次の瞬間、リヴァイアサンは自分の体に激突していた。

リヴァイアサンの加速を止める方法は単純だ。リヴァイアサンを自分自身に激突させてやればいい。

同じ耐久度と速度で動く自分の体にぶつければ確実に止まる。アランが前線に出る前から、アランとシエルの間で考えていた策だ。

衝撃でリヴァイアサンの防御も剥がれた。リヴァイアサンが硬直している今こそ、大規模な攻撃を叩き込むチャンスだ。


「─貫けぇぇぇッ!!─」


彼の理想を体現するべく疾った魔法がリヴァイアサンの全身を穿つ。

不意打ちの攻撃は今まで以上の効果を発揮した。理想通りではないが、リヴァイアサンの全身の至る所が抉られている。


(怯んでる!このまま追撃を!)


アランは追撃に動く。魔弾、打撃、砲撃、圧迫、絶え間なく魔法を叩き込み、リヴァイアサンの動きを阻害する。

リヴァイアサンは動けなかった。否、動こうとしなかった。

リヴァイアサンの視線が向けられていたのはアランではない。海面に浮かぶ魔法陣だ。

注意深く魔法陣を観察している。その事実、そしてその意味をシエルはいち早く理解した。


(くそッ封印に気づいたか!)


リヴァイアサンが封印に気付けば間違いなく大きく移動しようとする。それを見越し、シエルはリヴァイアサンが封印魔法に気付かないよう魔法陣の気配を操り、誤魔化していた。

しかし今、シエルが空間を繋げるために力を注いだことで封印魔法の隠蔽が弱まった。そこでリヴァイアサンは気付いてしまった。自分が封印されようとしていることに。


───封印まで残り2分37秒


ここからは策を設けても仕方ない。ただ力尽くでリヴァイアサンを妨害し、なんとしても残り時間を耐え凌ぐ。


『──リヴァイアサンが封印に気付いた!ここからは交代も無し!全力で攻撃しまくって!』


アラン、グレイ、アリシア、そしてリフレイムの聖装士たち。全員が一斉に前線に出る。

聖装能力で束縛が出来る者はリヴァイアサンの束縛を、それ以外の者はリヴァイアサンの全身を各々攻撃し続けた。シエルはリヴァイアサンが空間接続で逃げないよう最大限の対策を施していく。

だが必死なのはアランたちだけではない。リヴァイアサンも同じだ。


「グウゥゥゥゥオオォォォアァァァァァッ!!」


リヴァイアサンは直感していた。自分が封印されるまでそこまで時間は残っていないと。

リヴァイアサンは持てる全ての力を解き放つ。一切の加減も余裕も捨てた正真正銘の全力。その力はあまりにも驚異的だった。

身に付いていた全ての束縛を容易く千切り、異次元の速度で前に出る。その速度はこの場で最速を誇るグレイですら追いつけない領域だ。

ほとんどの者はリヴァイアサンの動きに反応できなかったが、かろうじてグレイとアランが反応する。


「グレイ!奴を止めろ!」


アランが瞬間移動でグレイをリヴァイアサンの正面に転移させる。グレイは大剣でリヴァイアサンの頭部を押さえつけ、持ち堪えようとした。

だが膂力(りょりょく)が違いすぎる。強化されたグレイをもってしても押されていた。グレイは急激に自己強化を重ねるが、それでもまだ追いつけない。


「そのまま耐えてください!引き寄せます!」


続けてアリシアとアランが動く。アリシアがリヴァイアサンに大量の光の鎖を繋ぎ、アランが念力に似た力でリヴァイアサンを押さえ付ける。ここまでしてようやくリヴァイアサンの速度が大きく落ちた。


「おぉぉぉぉぉぉォォォォォッ!!!」


リヴァイアサンの勢いが低下した隙に、グレイはさらに自己強化を重ねる。

遂にグレイの攻撃がリヴァイアサンを動かす。全力で大剣を振り上げ、リヴァイアサンの先頭部分を打ち上げた。さらに極大の斬撃を放ち、リヴァイアサンをのけ反らせる。


「シエルは空間を削れ!この際無理矢理だがリヴァイアサンを飛ばす!アリシアはそのまま止めてくれ!」


「了解です!」

「おっけ!」


少しでもこの隙を長引かせるために、グレイとリフレイムの聖装士たちは攻撃を続ける。アランはリヴァイアサンの正面に移動して手を翳した。


───封印まで残り1分34秒


空間の景色が歪む。空間距離の短縮、座標変更。シエルとアランが空間を操作し、リヴァイアサンを突き飛ばそうとした。

だが事は上手くいかなかった。それは初歩的かつ致命的な失念。

その名は完全(アルティメット)無欠の絶対王者(オーバードーズ)》の過剰負荷だ。


「アッが……!」


アランの体は既に過剰負荷により限界を迎えていた。途端にアランの力が弱まる。

全員が焦った。この状況でアランが動けなくなるのは致命的だ。だが力の過剰使用による負荷は単純な負傷と異なり、回復に時間を要する。


───封印まで残り1分17秒


リヴァイアサンもアランが限界を迎えたことに気付いていた。リヴァイアサンにとっては絶好のチャンスだ。衝撃や砲撃を全方位へばら撒き、全ての障害を蹴散らさんとする。

このままではリヴァイアサンが逃げる。アリシアの鎖もあと数秒で砕けるだろう。全力を出したリヴァイアサンをグレイたちの攻撃で止め切れるとも思えない。

つまり詰みだ。アランは肩で息をしながら、限界に達した体で手を伸ばす。


「そんなの認められるか……このまま、終われるかよ!」


腕が震える。魔力も上手く練れない。このまま強引に力を使えば、返って体が壊れる可能性もある。


「諦めるわけにいかないんだよ!フィーネを導くと決めた以上、俺は最後まで立たなきゃならねぇんだ!」


それでも彼は魔力を練り続ける。

今までなら諦めていただろう。だが今回は違う。絶対に勝たなくてはならない理由がある。

だから、こんな大博打に賭けて出た。


「だから今だけでいい。少しだけで構わない。代償が必要ならいくらでも払ってやる。だから……!」


呼びかけたのは他の誰でもない自分自身。否、正しくはその内界にあるもの。

自身が今まで一度として扱えなかった、何一つ知ることさえ叶わなかった、アラン・アートノルトの唯一無二の才能に。


「俺に応えてくれ!俺に力を、貸してくれぇぇぇぇぇぇッ!!!」


半ば理解していた。こんな真似をしたところで聖装具が使えるはずがないと。その程度で聖装具が使えるようになるなら、今まで苦労していない。

そう頭では理解していながら、彼は求めることを辞めなかった。心の底から、未だ嘗てないほど強く願いの声を上げた。

そしてその声は────。






『はぁ……関わるつもりなかったけど。ここまで求められたら、流石に何もしないわけにはいかないね』


───虚しく掻き消えると思われたアランの声は、確かに何者かによって聞き届けられた。


『せっかく貴方が成長した。この機会を無碍にするのは惜しいし、仕方ないね。手伝ってあげるよ』


ソレは告げる。仕方ないと言いながら、声音からは感激と激励の意が感じられた。


『ほら、あと少しだよ。頑張って。貴方ならきっと───』






「───っ!?」


まるで時が飛んだような感覚だった。おそらく時間にして十秒弱。気付けばリヴァイアサンがアリシアの鎖を千切っていた。

リヴァイアサンが進行を開始する。反射的にアランはリヴァイアサンを空間干渉と物理的な圧迫で止めにかかった。

すると、


「ガァァァァッ!?」


リヴァイアサンの動きが止まった。全力を出しているはずのリヴァイアサンが、アランの手によって完全に止まっていた。


「んなっ!?」


驚いたのは自分自身に対して。

体にあった負荷が全て治っていた。それどころか魔力も回復し、魔力出力も大幅に上がっていた。

何が起きているのか全く分からないが、これ以上ない好機だ。攻めるなら今しかない。


「─ぶっ飛べッ!!─」


瞬間、リヴァイアサンが弾き飛ばされた。一瞬で大きく後退し、元いた場所まで戻された。


───封印まで残り36秒


リヴァイアサンは激しく驚愕していた。既に限界だった者から、自身の全力すらねじ伏せる馬鹿げた力が放たれたのだ。無理もない事である。

だが一番混乱していたのはアランだ。自分が起こした異常現象に驚いていると、アランの横にアリシアが来る。


「アラン君、大丈夫ですか!?それに今の力は……!?」


「俺もどうなってるか分かんねぇよ。ただ今は調子が良い。負荷も無くなった。このまま追い込むぞ」


「……っ!ええ、そうですね!」


アランの再起により戦線が持ち直した。全員が再び前に出る。

残り三十秒。あと少しだ。ここで全てを出し尽くすしかない。

全員が最後の猛攻撃を開始しようとした瞬間だった。


「グオォォォォォォォォォォォォォッ!!」


リヴァイアサンが天に飛び上がった。また逃げるつもりかと全員が思った。

だが違った。飛び上がったリヴァイアサンはその場に留まり、顔をアランたちに向けた。


「オォォォォォォォォォォォ……!」


深く唸るように息を吸う。するとリヴァイアサンの口元に急激に魔力が集約され始めた。

その量は言葉で表せるものではない。アランたちにも一体どれだけの魔力が集まっているのか感知できない程だった。


「最後に渾身の一撃で俺たちを消し飛ばそうってわけか」


「砲撃を止めに動いても良いですが、もし止められなかったら……!」


「ま、その時は皇都とか他の場所に砲撃が飛んで更地になるとか、海や地面がバカみたいに揺れて大津波とか大地震が起きるとかだね」


「いづれにせよ、あってはならない事だ。だからと言って、あの砲撃を迎え撃てるかという話だが」


全員が一ヶ所に集まる。彼らの思考は不思議なほどに一致していた。

どうするべきかは既に理解している。出来るか出来ないかで言えば、圧倒的に後者の確率が高い。それも承知の上だ。


「でも今はアラッチの調子が良い。そうでしょ?」


「そうだな。今ならあのレベルの砲撃にも対抗できる気がする。もちろん皆の協力は必須だが」


「どの道、封印時にはリヴァイアサンに重傷を負わせなければならないのだろう?なら……!」


「私たちも腹を括りましょうか」


アランが最前線に立つ。他の者たちは彼の後ろに立ち、アランの背に武具を向けた。彼らの武具から放たれた魔力や聖装能力がアランに集約されていく。


「───ッ」


アランは自身の力を含め、受け取った全員の力を調和させていく。

思い描くは究極にして最強の一撃。あの大厄災の攻撃すら打ち破り、明日を紡ぐ希望の咆哮。


(ああ……なんて暖かくて、力強いんだ)


受け取った力から皆の思いが伝わってきた。暖かく、そして力強い。不屈の覚悟と願いが感じられる。

一人ではここまで理想できなかった。仲間の想いを受け取った今だからこそ、ここまで高精度な理想が可能になる。


「受け取ったよ、皆の全部!」


アランは手をリヴァイアサンに翳す。彼の手元に光球が現れた。受け取った力と理想の集約により、光球は絶えず膨張していった。




両者一切の加減を許さない最後の激突。互いが持ち得る全てをこの瞬間、この一点に集約させていた。

賭けるは未来。人類が大地を歩むか、厄災が世界を海に沈めるか。

終幕を飾る激突の火蓋を切ったのはリヴァイアサンだった。


「グオォォォォォォォォォガアアアアァァァァァァァァァッッ!!!」


開かれた大口から嘗て無いほどの砲撃が放たれる。

隕石すら遥かに上回る終焉を呼ぶ咆哮。その規模は過去最大にして最強。当たれば街どころか国一つだって消し飛ばせるはずだ。

迫り来る終焉の結末に対し、アランもまた構える。

明日のために。守るべきもののために。己が信念のために。


『《究極結合(アルティメット)》───』


今日この日、若き英雄たちは終焉に挑む。


『───《紡げ、果てなき(エターナルフュー)開闢の物語を(チャードライブ)》ッッ!!』


瞬間、アランたちの乾坤一擲の一撃が炸裂した。アランの手元の光球から、同じく極大の砲撃が放たれる。

数瞬の後に互いの砲撃が激突した。同時に凄まじい衝撃が巻き起こる。世界を満たす天変地異や暗雲すら吹き飛ばし、ここに莫大な魔力と極光を撒き散らした。


『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!』


全員が声を上げる。喉が張り裂けそうな程に強く、雄々しく。

正真正銘の全身全霊。全員が自身の全てをアランに流し続け、アランはその全てを余す事なく出力する。

互いの全力の一撃は拮抗していた。だが時間が経つに連れ、その拮抗が崩壊の兆しを見せ始めた。


「グゥゥゥガァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」


リヴァイアサンの砲撃が少しづつ優勢に立ち始めた。

真っ当に考えれば当然のことだ。魔力量、出力、どの要素を取ってもリヴァイアサンが彼ら人間に劣ることはない。どんなに彼らが願おうと、気高い覚悟を抱こうと、現実が変わることはない。弱者の希望を強者は徹底的に踏み潰す。

誰もがこの絶望的な現実を叩きつけられた。勝率は無いと嫌でも理解させられた。

だが、諦めの言葉をこぼした者は一人としていなかった。


「負けるものかァァァァァァァァァ!!」

「勝つんだ!絶対に、俺たちがぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「我らのリフレイムを、民を……奪わせるものかぁぁぁぁッ!!」

「私たちは必ず、明日に進むんだぁぁぁぁぁぁッ!!」


──そうだ。絶対に諦めない。諦めてたまるものか。

守りたいものがある。叶えたいことがある。決して退けない理由がある。

だから手を伸ばすんだ。たとえ勝機がなくとも、この声や願いに意味がなくとも、その理想がどんなに馬鹿げていて、ご都合主義なものであったとしても。

それでも、それでも───!!


「俺たちは、勝ちたいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


魂から叫ぶ。反動で皮膚が裂けても、血が溢れても、誰一人下を向くことなく、その手を未来へ伸ばし続ける。

だから誰も気付かなかった。この場に姿無き者の声が紛れていたことに。



───なら行きなよ。貴方たちの望む『運命』を掴むために。



「グゥゥゥ、ォォォォッッ!?」


瞬間、リヴァイアサンは驚愕した。

結末は既に確定していた。リヴァイアサンが彼らの全てを打ち破り、世界に終焉を(もたら)すバッドエンド。それは彼我の圧倒的な力の差がある限り、決して覆しようのない終幕だったはずだ。

だが今、ここにあり得ないことが起きていた。

本来ならあり得ない結末、新たな『運命』がここに姿を現した。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァッ!!!」


アランたちの砲撃がリヴァイアサンの砲撃を急激に押し返す。

あり得ない。魔力量でも出力でも圧倒的に勝っている己が負けるなど。

リヴァイアサンは驚愕しつつも全力で押し返そうとする。だが結果は変わらない。見る見る内にアランたちの砲撃がリヴァイアサンの砲撃を押し返していた。


「…………ッ」


その時、リヴァイアサンの脳裏に蘇ったものがあった。

それは千年以上前の記憶。かつて己が見た、己が同格と認めた超常にして原点の力。

この力は────まさか。


『行ッけぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェッッ!!!』


そこで運命は決してしまった。リヴァイアサンが過去を回顧した。そのために意識を割いた時点で、リヴァイアサンの敗北は決まっていた。

英雄たちの乾坤一擲の一撃が全ての厄災を突き破る。天に届いた未来を目指す極光は、遂にリヴァイアサンを呑み込んだ。




***




「ッ……ガ……ァァ……」


砲撃が霧散する。アランたちの視界に映るリヴァイアサンは満身創痍だった。もはや抵抗する力は残っていない。

ならば、結末は決まった。


─────ッ!!!


遠隔からの超大規模な封印魔法の発動。海面を突き破り、無数の鎖がリヴァイアサンへ伸びる。鎖がリヴァイアサンの全身に絡み付いた。

途端にリヴァイアサンの力が弱り始める。あれほど莫大だった力が、今は全く感じられなかった。力も意識も体も魂も、全てが完全に封じ込まれていた。


「オォォォォォォォォォォォッ!!」


僅かな力でリヴァイアサンは鎖を解こうと暴れ回る。だが抵抗が意味をなす事はなく、リヴァイアサンは凄まじい速度で引き摺り下ろされる。

海の中に巨体が次々に沈んでいく。薄れゆく意識の中、リヴァイアサンが最後に見たのは、黒髪の少年だった。


「眠れ、海帝龍。お前の時代はもう終わったんだ」


静かに、冷酷に彼は告げる。その言葉がリヴァイアサンが聞き届ける最後の言葉となった。

巨体が完全に海に沈む。さらなる海の底、光無き世界の深淵まで落ちていく。

意識は既に絶えていた。ここにあるのは魂無き巨龍の抜け殻。

世界を支配した海の帝王は、永遠の眠りに付いたのだった。

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