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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第八章 王者・無双編

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771 裏の騎士団


「タイランッ」

「タイラン殿」


 レッキスとウィペットの声には歓迎の響きがあり、


「タイラン!」

「タイランか」


 ルフとシグルムの声には苦々しさが入り混じっていた。


「その柄に伸ばした手はどうするつもりだ? 抜く気か?」


 タイランの声にも固いものが含まれていた。

 出方によっては慈悲など持たない。

 そういう雰囲気が窺がえた。

 それでもルフは怯むことなくタイランを睨みつける。


「その気だと答えたらどうするんだ、アァ?」

「お前たちが試合に出る機会がなくなる」

「三人を相手にイキがるかよッ」


 凄んで見せるが三人ともまだ剣を抜いてはいない。

 ただ双方ともに頬や背中を伝う汗は感じていた。


「少なくともお前は消えるぞ、ルフ。オレはお前を真っ先に狙うからな」

「……チッ」


 ジリジリとした睨み合いが続いた。

 レッキスは内心、最前のように係りの者でも通りかからないかと願ったが、誰もこの場に現れる気配はなかった。

 それでも先に引き下がったのはジャーレム三兄弟の方だった。


「ケッ! 面白くもねえッ。いつだってテメェにはムカッ腹がたつぜ、タイランッ」

「気が合うな。オレもだ」


 三兄弟は静かにその場を後にした。

 足音も、目の前に居ながら気配すらもまるで感じさせない、静かな去り方だった。


「ふぅ」


 レッキスは大きく息を吐いた。

 認めたくはなかったが、あの三人が醸し出す威圧感は並ではない。

 実力は相当なものであるのは確かだ。


「すまんタイラン殿。貴殿には助けられてばかりだな」

「そうだったか? お互いだと思っているがな、オレは」


 ウィペットの礼にタイランは気さくな感じで答えた。


「久しぶりだな。息災か?」

「まあなんとかやっている」


 そうか、とタイランの目がようやく少し和んだように見えた。


「それよりも謝らなければならんな。奴らはクァックジャードの面汚し、汚点とも言える」


 タイランの口からこうもストレートに他者を貶める発言が飛び出したことに少なからず驚かされる。


「奴ら、君たちをここで消すつもりだったやもしれぬ」

「どうしてッ」


 レッキスの顔が驚きと怒りに赤く染まる。


「それだけ君たちを脅威に感じたんだろう」


 褒められたのかもしれないが、あまり素直にうれしいとは思えなかった。


「あいつら一体何なん? 本当にクァックジャード?」

「ああ。正真正銘クァックジャードだ。ただし、裏のな」

「裏?」


 含みのある言い方にいぶかしむレッキスだったが、ウィペットはすぐにピンときた。


「そうか。暗殺部隊か」

「その通りだ」

「あ、暗殺ぅ? クァックジャードがそんなことするん?」


 クァックジャード騎士団とは世界中の紛争を調停する役を担う高潔な集団である、というのが世間一般の印象だ。

 そのためにいかなる国、組織、勢力等に属すことなく中立を保っている。

 それゆえに当事者よりも交渉事は上手くいくことが多いのだが、やはり必ずしもそうはならないのが世の常。

 時には一方に味方することで万事が収まるケースも多々あり、それゆえに騎士はすべからく高い戦闘能力、知識、判断力を求められる。

 しかし中には総合力には欠けるが、ある一点に関しては突き抜けて優秀な者も出てくる。

 そうした者たちが裏方へ回りサポート役に徹するのだが、その極めつけが暗殺だ。

 そうあっても調停の足枷となる者を秘密裏に処理する部隊。

 決して表沙汰にはならないこうした動きも騎士団にはあるのだ。


「ジャーレム三兄弟はトップクラスの暗殺者だ。実力は折り紙つきだよ」

「そんな奴らがどうして大闘技会に出場するのさ?」


 レッキスの疑問はもっともだろう。

 タイランは言いにくそうにしている。


「奴らも、そしてオレも、同じ密命を受けている。詳しく話すことはできないが」

「この大会にアンタらのターゲットが参加してるんね」


 たまに察しがいいところを見せるレッキスにタイランは苦笑で返した。


「なるほど。出場戦士の外での私闘は禁じられている。もし期間中に殺されでもすればアーカムという国が動くことにもなる」

「ウィペットが言うことが正しいなら、試合中ならケリをつけられるってわけね」

「まあそんなところだ」


 タイランは否定しなかったが、三兄弟が参加する理由はほかにもあると見ていた。

 彼らの立場を鑑みるに大体の察しはついていて、そのことに勘付いている奴らはそれがまた気に食わないのだ。

 どうしようもない心の在りようについて、タイランは気分が重くなるのを耐えねばならなかった。


「ところでシャマンの容態が悪そうだが」

「ああ……すこぶるな」


 通路の壁にもたれた姿勢でシャマンは喘いでいた。


「毒らしいんよ」

「だと思ってな。良ければ使ってくれ。毒消しだ」


 タイランが薬の包みをレッキスに手渡した。


「ディバマント山に棲む薬師にもらったものだが良く効く。オレの全治三ヶ月も二ヶ月で完治させた」

「へぇ、ありがと。シャマンで試してみるよ」

「おい……」


 シャマンの突っ込みも弱々しい。

 大人しくウィペットの肩を借りて帰ろうとしていた。


「じゃあウチらはいったん引き上げるよ」

「レッキス」

「ん?」

「試合でのあの一撃は見事だったぞ」


 おもわぬタイランからの賛辞に一瞬レッキスは返答に窮した。


「あ、ありがと……でも葛藤もあるんよね」

「ん?」

「魔道具の能力を使って勝ったとしても、それって私のチカラなんだろうか、てね」


 いつだかどこかで同じような事を話した気がタイランもした。


「お前は拳法家だからな。余計にそう考えてしまうのだろう」

「そうかな」

「戦士が品質の良い武器、素材の良い武器、切れ味の良い武器を求めるのも同じことだと思うぞ」

「あぁ……」

「その魔道具を手に入れたのも、うまく使いこなすのも、すべて含めてお前の実力だよ。モノに頼りたくない時は相手も同じ条件の時だけに限ってもいいんじゃないか」

「……そうだね」


 天井を見つめながらレッキスは少し考えて、シャマンに肩を貸すウィペットの手助けに向かった。


「あんがと。アンタも試合ガンバッてね」


 ようやくレッキスの顔に明るい兆しがほの見えた。


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