772 三人の問題児と三人のサクラ
「Cブロック一回戦最後のカード! 風神門からジャーレム三兄弟チームの入場ダッ」
三人の灰色な鳥騎士が登場する。
場内は歓声に包まれるも三人はこれといった応答をしなかった。
「不遜な態度ですね。あれが目下の問題児ですか」
試合場を一望できる別室に内務卿デルフィーンの姿があった。
彼はイルカの戦闘怪人ケンプファーであるが、知能の発達が目覚ましく、この国の内政を一手に引き受けている人物である。
隣には大きな身体を軍服に包んだ会場警備の責任者ベリンゲイ将軍が立っている。
「免責特権を振りかざすクァックジャードとは厄介ですね」
試合場には対戦相手となる三人の女剣闘士が雷神門より入場しているところだった。
ピースウイングが実況席から三人の女を期待の新星としてほめたたえ、それぞれを〈高貴なる〉エピファニー、〈奔放なる〉ステラ、〈敬虔なる〉サットゥーと紹介している。
三人とも若く美しい女たちだった。
「線が細い」
その様子を見ていたベリンゲイがふと口走る。
「肌もきれいすぎる。この者たちは本気であの予選を勝ち抜けた剣闘士なのか?」
率直な感想にデルフィーンが含み笑いを漏らした。
「なにか?」
「いやいや、将軍の疑念はもっとも。あやつらはイベントに花を添えるためにこちらで用意した、いわばサクラですよ」
「む……」
ベリンゲイも亡国マハラディアにいた頃から軍務に身を捧げてきた一軍の将である。
武を重んじる気質は今も健在だ。
闘いの舞台にサクラという異物が混入することに少なからず嫌悪を覚えたのも当然だろう。
「忘れてもらっては困りますよ将軍。大闘技会は大きく外貨を稼ぐ一大イベントでもあるのです」
「ええ、まあ」
「観客を楽しませる仕込みの内のひとつですよ。彼女たちもね」
試合場では三人のサクラが愛想よく観客席に向かい手を振っていた。
「彼女たちの出自は?」
「売れずにくすぶっていた地下アイドルです。気付いている者もそれなりにいるでしょうが。広く顔を売るチャンスだと焚きつけたら食いついて来ました」
ベリンゲイの顔に今度こそ隠し切れない嫌悪感が表れていた。
デルフィーンは笑いながら説明を続けた。
「エピファニーは大変な潔癖症でね。バラエティなイベントでも大したリアクションが取れないので〈高貴なる〉というキャラ付けをしました。反応が薄くても周りが納得するでしょう。〈奔放なる〉ステラは私生活が派手すぎましてね。見境なくファンとも突っつきあうので運営に見放されました。サットゥーは年齢的に後がありません。地味で奥手なため何も残せずにズルズルと来てしまいました。〈敬虔なる〉とでもしておけば逆に神聖に見えると思いませんか?」
スラスラとデルフィーンは彼女らのために考えたらしい設定を並べ立てた。
「内務卿殿が若い娘らのステージ事情にこれほど精通しているとは、感服しました」
「ホッホッ、思ってもいないことを。何事も学んでみればそれなり奥深いものですぞ」
「しかし闘いの素人を参戦させて危険はありませんか?」
「見た目の良い娘らが窮地に陥るのを見て楽しみたい。そんな下卑た感性の持ち主は意外と多いのですぞ」
その点に関してはベリンゲイからも異論はなかった。
「今回は我らの予想を超えてほかにも多くの見た目の良い戦士が勝ち残ってますからね。彼女たちには折りの良いところで降参するようアドバイスしておきましたよ」
そう上手くいけばいいが、とベリンゲイは内心でごちた。
よりにもよって相手は今しがた話題に上った今一番の問題児どもだ。
組み合わせまでは考慮しなかったようだが、はたして。




