769 ヴォーパルバニー
「ウィペット!」
凍った足場に踏ん張りが利かず、盾を構えたウィペットはヒバゴンのチャージアタックを防ぐことが出来ないまま大きく吹っ飛ばされてしまった。
「仲間の心配をしている場合かい? 懐に入ったぜ」
サスカッチを警戒していたシャマンとレッキスは見事にヒバゴンに背後をとられていた。
「ドラァッ! 竜巻大旋風ッ」
棍棒をグルングルンと振り回すヒバゴンの範囲攻撃をレッキスは上手く搔い潜ったが、シャマンは咄嗟にガードしようと上げた右腕にヒットさせてしまい、ハンドアックスを落としてしまった。
「ぐぅ」
痛打により手がシビれる。
数分は右手が使い物にならないだろう。
先刻斬られたのも同じ方の手であって、苦々しさがこみ上げてくる。
「大丈夫? シャマン」
「ッたりめーだ! この程度、どうという事も……ッ」
大声を上げた途端、シャマンは眩暈を覚え足元がふらついた。
額に手を当て頭を軽く振る。
触れた手にじんわりと汗が滲んでいるのがわかった。
「キキキッ! まわりだしたか、サスカッチの仕込みがよォ」
「ンだとォッ!」
「さっき斬られたときッ」
サスカッチに斬られた手首の傷は小さなものだが周辺が青黒く変色していた。
「毒かよッ」
「でもだって、アイツさっき斬ったダガーの刃を舐めてなかった?」
「オレはとっくに耐性が身についている」
突然背後に姿を現したサスカッチの凶刃をレッキスは寸でのところでかわした。
ただし何本か、髪の毛の先がスパッと切られて宙を舞っている。
「圧倒的だなァ、オレたちはよォ! さぁてトドメといこうか」
ヒバゴンがまたしても突進する構えを見せた。
サスカッチの姿もまた消える。
「今度は盾役がいねぇ! そっちのショウジョウも手負いとくらァ、これでおしまいだゼ」
ウィペットは吹っ飛ばされた際、当たり所が悪かったらしく立ち上がれずに未だ壁にもたれている。
「レッキス、オレの後ろに下がれ」
「でもシャマン」
「ヤツの狙いはオレだ。絶対にオレを狙ってくる。ノッポは突進の邪魔にならねえよう、後から間隔をずらして仕掛けてくるはずだ」
シャマンにはそういう確信があった。
「だからレッキス! ヤツの突進を防いだらオメェが一撃食らわしてやれッ。その足でな」
「……シャマン」
「返事はどうした? オレらの決まり事はなんだ?」
「迷ったらシャマンが決断するのに従う。ウンッ……わかったやってやんよ」
ヒバゴンが再度チャージアタックを開始した。
「ドラァッ! バカめッ、オレの棍棒が止められるかよッ」
「なめんじゃッねぇッッッ」
ズドォォン!
重い衝突音が響いた。
会場中が目を見張り、なかでもヒバゴンの目が最も驚愕に見開いていた。
振り下ろされた棍棒が粉々になっていた。
砕いたのはシャマンの左腕から飛び出した鋼鉄製のクラブだ。
剛力駆動腕甲の左肘部分から蒸気が溢れだしている。
「バ、バカな」
「呆けてるヒマはないんよッ」
レッキスの声が聴こえた。
シャマンの背後から跳び出した小さな影は、シャマンを跳び越えるとヒバゴンの面前に迫った。
そして右足を一閃。
蹴り足はしかしヒバゴンではなく何もない中空を蹴り込んだ。
「ッ!」
そこに見えない壁があるのか?
レッキスは中空を蹴った事で起動が変化しヒバゴンの左から右へと跳んだまま移動した。
さらにもう一度中空を蹴り込むと今度はヒバゴンの懐へと飛び込む。
「二段階の空気蹴りで足りるんよッ」
「なッ」
レッキスの動きが急加速して強烈な蹴りがヒバゴンの鳩尾にめり込んだ。
背中側から突き出しそうな勢いを感じた。
「グルォォッ」
身体をくの字に折って三メートルも後方にヒバゴンは吹き飛びさらに悶絶した。
「危ないよシャマンッ」
その瞬間シャマンの頭上に現れたサスカッチのダガーを一足飛びでジャンプしたレッキスの回し蹴りが弾いていた。
飛ばされたダガーはウィペットの前に転がり落ちると彼のメイスが粉々に打ち砕く。
「ならばこの爪で引き裂いてくれるッ」
サスカッチが両手の鋭い爪をレッキスに向けると今度はシャマンが割って入った。
お互いの両手がガッツリと頭上で組み合う。
「力比べといこうじゃねえかッ」
「バカめ」
爪がシャマンの手の甲にズブズブと食い込む。
「爪にも毒が塗ってある。お前はもう動けまい」
「他人の心配している場合かよ、テメェ」
「ッ」
力比べは明らかにシャマンが勝った。
押されるサスカッチはどんどんと腰が反り、膝が折れ、背中が地面に接してしまう。
「く、ぐっ……」
「もう寝てろッ」
ドゴンッ、とシャマンの強烈な頭突きがサスカッチの鼻骨を砕き、同時に後頭部を地に強打して失神した。
「あとはアイツだ!」
ウィペットが横を走り抜けてイエティに迫った。
慌てたイエティはコールドブレスを吹きつけ掲げた盾が凍り付くもウィペットは怯まない。
「クルペオの月下氷陣の方が威力に勝る」
「その通りッ」
なんとウィペットの背後からレッキスが空中を駆けて飛び込んだ。
一歩、二歩、三歩……なにもない中空を五歩も空気を蹴って駆けあがると急転直下、イェティに必殺の飛び蹴りをぶちかます。
「くらえッ風撃ちうさぎドロォップ」
首がもげそうなほどの衝撃を受けてイェティは蹴られた瞬間に意識を失っていた。
同時に口から青白く光る小さな球を吐き出して倒れた。
「勝負あったァーッッッ! 勝ったのはストームブリンガーチーム! 決めたのは空駆けるレッキスゥ! まさに一撃必殺ヴォーパルバニーだァッ」
実況の勝利宣言に会場中は惜しみない賞賛とハズレチケットが乱舞した。




