767 因縁
「Cブロック一回戦第三試合! 先に登場したのはヒバゴン、イエティ、サスカッチの猿人ショウジョウ族チームだァ」
三人の猿人族が歓声に応える。
三人とも毛むくじゃらの大柄な体格だが、見た目にはかなりの差異がある。
まずはヒバゴン。
茶系の全身毛むくじゃらの大男で、三人の中でも一番図体はデカイ。
腹にまででっぷりと筋肉と贅肉が詰まった風船型の身体をしているが、鼻息荒く、常人では持ち上げることすら不可能な超重量のぶっとい棍棒を軽々と振り回している。
白毛に覆われているのはイエティ。
彼は武器らしいものを持っておらず、それでいて不敵な笑みをこぼしている。
三人目のサスカッチは暗灰色の毛で覆われている。
彼は三人の中で一番身長が高く体格も細身で世間一般の猿人族らしくない。
腰に巻いたベルトに何本も短剣を差していた。
全員が毛と同色のレザーアーマーを身に着けているが、ヒバゴンだけはスパイクの付いた鉄製のショルダーアーマーも装備していた。
「オレたちの対戦相手はまだかッ」
いきり立ったヒバゴンが叫ぶと会場も沸いた。
「怖気づいたんじゃねえかな、キィッキッキ」
「何処ぞで名の馳せた冒険者どもだそうだが、なんと言ったか」
「ストームブリンガーだ」
三人のショウジョウたちはたまらず大笑いした。
「〈嵐を呼ぶもの〉とは大きく出たなッ」
「早く出て来ィッ! 鼻っ柱をへし折って大恥をかかせてやらァ」
三人のショウジョウと会場中がいまだ沈黙を守る風神門に注目した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何か用か」
試合場へと向かう通路をふさぐ形でシャマンたちの前にいるのは三人の鳥人族、ロック、ルフ、シグルムのジャーレム三兄弟だった。
「また嫌がらせに来たか? 焦らなくてもお前らとは二回戦で当たるだろうが」
「あのサルどもにお前らが勝てればな。ケケケ」
ルフがそう言うと残りの二人も笑い出した。
「どいてくれ。試合なんだ」
構わず脇を通り抜けようとするシャマンをそれでもルフは遮った。
「まあ聞けよ。オレたちは心配してやってるんだ」
「ああ?」
「いやな、長男のロックがな、そこのウサミミを気に入っちまったんだよ」
「ッ!」
レッキスの顔がより一層に険しくなった。
ロックというのはその名の通り岩のようにいかつい顔をした無口な奴で、会場前広場でレッキスを抑え込み辱めた奴だ。
「勝てない試合でサルどもにグチャグチャにされる前によ、棄権しなって。なぁに代わりにオレらが二回戦であいつらブチのめしてやるからよ。で、お礼に……」
「オ、オレの女になれ」
「そういうこと」
ガッ!
「うぐッ」
シャマンの大きな手がルフの喉首を掴んで締めあげていた。
「ふざけんじゃねえぞ。このまま喉を潰されてえか」
「ケ、ケケ……その前にお前が串刺しだよ」
シャマンの心臓の位置にはルフが抜いた短刀が突きつけられていて、さらに控えていたシグルムの剣はすでに抜かれて間合いの中にいた。
「弟の剣は素早いぜ。お前の指がピクリとでも動けばその腕即座に斬り落としてくれる」
「オレのパワードアームは同時にテメェの頭を粉々に吹き飛ばす。頭と腕、失くして困るのははたしてどっちだろうな、おい」
しばらくイヤな睨み合いが間を制した。
緊張を解くきっかけはシャマンたちを呼ぶ係員の声掛けだった。
「なにしてるんです、試合開始が押してますよッ! 早く試合場へ来てくださいッ」
「チッ」
ルフの舌打ちに双方が手を引くと係員が駆け寄ってシャマンたちをうながした。
背後には会場警備の兵も数名控えている。
試合以外での選手同士の私闘はご法度である。
破れば大会追放は当然、この国のブラックリストに載ることも考えられる。
さすがにここは無法なジャーレム三兄弟も引き下がる気になったらしい。
「続きは二回戦で相手してやる」
「勝ち上がれればなあ」
「そっくり返すぜ、そのセリフをよ」
言いおいて、シャマンはレッキスとウィペットを引き連れ試合場へと向かった。
前を通り過ぎる時、三人の鳥騎士はことさらにレッキスの事をねめつけた。
いかにもイヤらしく、嘲りにも似た笑みをこぼしながら。
レッキスは怒りに燃える心を必死に押しとどめた。
必ず試合でこいつらをブチのめす。
その前のまずは一回戦。
世間の評判を覆す実力を見せつけてやるつもりでいた。




