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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第八章 王者・無双編

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763 アキバにて


 目を覚ましたアマンは、自分が固い地面の上に寝そべっていることに気付き、しばしまどろみの中で状況を把握することに努めた。

 寝起きで鈍い頭を急速に回転させる。

 喧噪、におい、気温、肌感覚、陽の光が瞼を通しても明るい。

 やがて閃光のようにハッとして跳び起きた。


「東京か、ここはッ」


 油断なくあたりを見ると見覚えのある川、木、アスファルト、首都高速道路。

 ここは隅田川沿いにある公園だ。


「おはよう」


 声の主はすぐに見つけた。

 昨日と同じベンチに座ってアマンを見ている。


「シオリ」


 シオリの様子は昨日と変わりなかった。

 や、少しくたびれているかもしれない。


 二人は連れ立って昨日のように街を散策した。

 東京の街は少し暑いが、いたって平穏だ。

 昨夜の怪異が嘘だったのか、人出も相変わらず多い。


「今夜は隅田川の花火大会だから。百万人ぐらい来るんだよ」

「それ聞いたぞ。今日もあるのか?」

「…………」


 目の前に浅草の名所、雷門が見えてきた。


「ここは昨日見たからさ、今日は反対へ行こう」


 アマンは雷門に背を向けると南の方角へと歩き出した。

 しばらく無言の二人がテクテクと歩き続ける。

 天気は良い。

 少し雲が多いが、晴れの日差しが目にまぶしい。


「こっち行くと何があるんだ?」

「秋葉原」


 かつては電気街、オタクの聖地として名を馳せた街だ。

 アマンにとっては物珍しいどころの世界ではないので、端から端まで見てまわろうと躍起になっていた。


「ふうん。にしてもさあ……」


 アマンが街の風景と道行く人々を見ながら不思議そうに尋ねる。


「昨日あんな大惨事があったのに、みんななんか普通にしてるよな」

「まだ起きてないから」


 シオリの返答はやけに弱々しい声だった。

 その理由を聞こうとしたが、そのときアマンの目にこの街ではこれまで見かけなかったニンゲン以外の亜人の姿が映った。


「おい、ネコマタ族がいるじゃねえか! あっちには兎耳バニー族も」

「あれは……」

「なんだ、この世界にも亜人がいるじゃんか。ならカエル族もいるんだろ?」


 アマンが言っているのは猫耳バンドを頭に載せた客引きのメイドであり、看板にでかでかと描かれたバニーガールの画像であった。


「この世界に亜人はいないの。人間だけ。エルフもトカゲ族もいないよ」

「でもじゃああそこで戦っているのは……」


 それは店頭ディスプレイで流れる最新ゲームのデモムービーだった。


「本当にいないのかよ。でもじゃあよくオレのこと珍しがられないよな」


 昨日からずっと、アマンは誰にも奇異の目で見られることはなかった。

 買い物をしても親し気に声を掛けられ、気味悪がられたり、変に絡まれることすらなかった。


「それはね……」


 シオリはジッとアマンのことをみつめた。


「もう気付いてると思うけど、ここはね……」


 そのとき、遠くの方で花火が打ち上げられる音がした。

 あたりはすでに薄闇に包まれ、隅田川花火大会が始まっている。

 空を見上げたシオリを見て、アマンはおずおずとシオリに尋ねる。


「なあ、もしかしてまた?」


 シオリは何も言わず、ただ小さくコクンと頷いた。

 しばらくして、アマンが昨夜見たものと同じ、夜空に巨大な顔の影が浮かび上がる。

 周囲にいた人々も順にその怪異に気が付き、そして昨日と同じようなリアクションをとっていた。


「まさか、二日続けて登場かよッ! シオリ、逃げるぞ」

「無駄だよ。どこにも逃げ場なんてない」

「昨日もそんなこと言ったよな。どうしてそう言い切れるんだよ」

「最初のころは私も逃げようとしたから」


 シオリは落ち着いた声でそう答えた。

 いや、落ち着いているというよりは、あきらめに近い声だ。


「でも逃げれなかったから、戦おうとしたの。でもどうにもならなかった」

「ど、どういう意味だ?」

「アマンさんはさっき二日続けてって言ったけど、そうじゃないの。私はもう十回以上、あの巨人を見ている」

「え」

「そして同じだけ敗北したの。昨日のように」


 周囲の人々が恐慌状態に陥り街は大混乱に陥りだした。

 空の巨人はいよいよ地表に近付いてきている。


「ううん、ちがう。そうじゃない。私たちは同じ一日を繰り返してる。今日敗北しても、明日目覚めればまた、年に一度の隅田川花火大会の日が始まる」


 暴風が逆巻きシオリの声が聞き取りずらくなってきた。

 しかしアマンは事態を把握することに心がいっぱいで、今どうすべきかが何もわからない。


「私たちは、世界が崩壊したその日を、何度も繰り返し体験させられているんですよ」



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