747 ヌラヌラ
試合開始の銅鑼の音が鳴り響いた。
マイは長剣メルパッターベモーを両手に持ち、腰を沈めて突撃の構えをとる。
すると、
おい……
似ている……
やっぱりあれって……
にわかに会場中がザワザワと落ち着きを失くし始めた。
そこかしこからささやく声、いぶかしむ声、あるいは怒りをにじませて声を荒らげる者までいた。
戦いは首長男から突っかけてきた。
驚いたことに全身のヌラヌラする分泌液を潤滑剤にして、地面を蛇のようにのたくりながら滑るように接近してきた。
そのスピードが予想以上に速かったので、マイの腰が浮き、思わず数歩後退してしまった。
しかしその数歩程度で間合いを取ることなど出来ようもなく、気が付けば首長男の首がさらに長く、いや首だけではなく胴体から足先までが一本の長い管のような身体になってマイの周りをグルグルと回りだした。
「オレの名を教えてやる! ツィターアール。シビレウナギの戦闘怪人よ! 忠告してやるが貴様の剣ではオレは斬れんぞ」
突然ツィターアールが包囲を狭めてマイの身体を締めあげにかかった。
彼の圧力はいともたやすく大木をへし折る。
マイのような小娘の骨など一発で粉砕されよう。
しかしマイの方とてその危険を予知していた。
締められる直前にメルパッターベモーを縦にして身体の正面に捧げ持った。
「自らの締める力で切り裂かれるがいい」
「バカめ」
マイの期待とは裏腹に、剣の刃はツィターアールに傷をつけることが出来なかった。
信じられないことだが全身をテカらせているヌラヌラした分泌液が刃すら滑らせて斬ることが出来ないのだ。
剣を抱え込んだままのマイをツィターアールの長い身体が周回して締め上げる。
マイは剣が自身を傷付けることを危ぶみ刃筋を横向きにして、かつ膝を当てて身体と刃を極力遠ざけようとした。
「いつまでそうしていられるかな」
さらにツィターアールはマイの身体を締めあげながらグルグルと回り始めた。
ここでもヌラヌラが潤滑剤の役割を果たし、マイの全身を長い一本の巨体が滑るように這いまわった。
マイは気色悪さと嫌悪感に歯噛みしながらも耐えた。
ひと思いに力を籠めればマイの骨など全身ばらばらにすることもできようものを、ツィターアールはそうせずにマイの自由を奪い恥辱にまみれさす攻撃方法を選んでいるのだ。
「くっ、このような攻めなど無駄だ。私は屈しない」
「オメデタイ奴だ。このヌラヌラ液が単に滑りやすくするためのモノだと思ったか」
バチッ!
突然のフラッシュだった。
ツィターアールの全身から小さなスパークが起きた瞬間、マイの全身が電気ショックを受けた衝撃で跳ね上がった。
一瞬で意識が飛んでしまい、脱力して膝からくずおれる。
抱えていたメルパッターベモーの刃がマイの太股を斬りつけ、そこから赤い血が流れだしていた。
ようやくツィターアールはマイから離れると距離をとって両手を高々と掲げ、会場中に勝利をアピールした。
まだだァ! 殺セェッ!
そうだ殺せェ!
その剣は不吉だッ!
その剣を扱う奴は殺すんだッ!
殺せ
殺せ
殺せ
殺せ
会場中がよもやの殺せコール一色になった。
さすがにマユミもミナミも唖然としていた。
入場時に聴いた自分たちへの黄色い歓声も幻だったのかと思えてくる。
それほどに事態の急変に戸惑ってはいた。
「ん~そうかそうか。やっぱりそうか。我々はまだ、あの亡国と悪王を許せないのだな。よし、わかった!」
ツィターアールは会場の殺せコールに応えようと身体を低く沈め、脚に力を込め、そして倒れたままのマイに向かって爆速で地を疾走した。
全身のヌラヌラを活かしてなんと地面を猛スピードで腹ばいの姿勢で突撃をかけたのだ。
「さようならお嬢さん! マハラディアの亡霊は、このアーカムに居てはならないのだよッ」
強烈な頭突きを食らわそうとしていた。
この速度でぶち当てられればマイなどひとたまりもない。
まさに衝撃の直前、マイが素早く起き上がるとメルパッターベモーの切っ先をツィターアールの軌道上に据え、しっかりと地に足を踏ん張ったのである。
ツィターアールが驚愕と恐怖で目を見開いた。
「待ッ、ガァッ」
ヌラヌラを利用した猛スピードである。
自慢するだけあってそう簡単に止まることなど出来ようもなく、うろたえて叫び声をあげたその口の中に剣の尖端が突入を開始した。
「ノドの奥から直腸まで貫いてあげるわ」
その通りになった。
刃の切れ味も無効化したツィターアールのヌラヌラ肌も、自らの突進力を持って口から体内に真っ直ぐ受け入れては、すべての防御力も貫通してしまうものだ。
メルパッターベモーの長い刀身はシビレウナギの戦闘怪人を串刺しにして勝利をもぎとった。




