表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: みちゃき
第六章 英雄・奇譚編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

494/781

494 自由騎士タイランその27 愛にすがる


 エスメラルダと五氏族連合(フィフス)を隔てるペシャの街だが、半月ほど前に訪れた時とは様相が一変していた。

 できればこの街を避けたいと思うタイランであったが、五氏族連合(フィフス)へ繋がる砂漠の街道を行くにはここを通る以外ない。

 悪徳のバギン太守はあと半月は戻らないと踏み、さっさと通り抜けるつもりでやってきたのだ。

 そのペシャの街である。

 通りを歩くとすぐに違和感に気が付いた。

 そこかしこにエスメラルダの誇る翡翠の星騎士団が駐留しているのだ。

 軽装だが輝かんばかりの鎧に身を包んだ女騎士たちが多く目につく。

 そして市場でも商人や大勢の買い物客が行きかい、以前とは比較にならないほどに活気づいていた。

 朽ちかけていたサキュラ神殿も職人たちが修繕作業に取り組んでいる。

 あきらかに良い方向へと変化を見せていた。


 タイランは前回も厄介になった宿屋兼酒場である〈栄光の角笛亭〉に入った。

 入るなり帳場にいた女将がタイランに気付く。

 心なしか前回より愛想がいい女将を相手に一泊分の宿泊手続きを済ませる。

 ふと、酒場の奥のテーブルに見知った顔が二つあるのを発見した。


「昼間から酒か? 門番の仕事はどうした」


 そう声をかけると巨漢の男がイラついた顔でこちらを振り返った。

 が、相手がタイランだと気付くと肩をすくませしおらしく縮こまってしまった。

 酒をあおっていたのは前回タイランに絡んだ門番の二人だった。

 巨漢はバルゾルと呼ばれていたが、白髪の壮年の名は知らない。


「あんたか」


 壮年が酒の入ったカップをテーブルに置いた。


「今にして思えば、あんたが来てからこの街の潮目も変わったんだなぁ」

「なにがあったんだ」


 話しはおおよそ想像通りだった。

 三日ほど前に王都エンシェントリーフから騎士団の一個中隊がやって来た。

 バギン太守が背任の責で投獄されたので、この街は当分のあいだ法王直轄とされたという。

 辺境の役人たちからすれば寝耳に水とでも言いたげであったが、なんでも近々現法王であるサトゥエ女王が退任し、王都のオールドベリル大神殿に所属するハナイという司教が新たな法王に即位する事が決まったらしい。

 その前にサトゥエ女王は摂政であった故ライシカ大司教の時代に野放しにされていたあらゆる不正を徹底的に洗い出す事とした。

 結果多くの不正、汚職、贈賄、悪徳が表面化し、その中のひとつにこのペシャの街の太守バギンの悪行三昧がまろび出たのである。

 捜査は秘密裏に行われたため、急転した事態に気付くこともなく、王都からの招集にノコノコと出向いたところを御用となったそうだ。


「この街の役人もほとんどが逮捕されたか懲戒解雇されたよ。バギンに釣られて甘い汁を吸ってた奴も多いからな」

「あんたらは?」

「解雇されたさ。虎の威を借りて威張ってたツケさね。ま、牢獄行きを免れただけ幸運だな」

「オレは女房とガキに捨てられちまったよぉ……うぅ」


 泣き出した巨漢の背を壮年が優しく叩く。


「それも自業自得さね。ま、心を入れ替えるしかねぇわな」

「その通りだ」


 タイランはそう言い残し今夜の寝床へと向かった。

 途中帳場の女将に銀貨を数枚手渡す。


「いつかあの二人が改心したと思えたら、その金で酒でも振る舞ってやってくれ」

「あたしがネコババしないとでも?」

「構わんさ。オレのエゴを満たしているだけだからな」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 耳鳴りがする。


 ここ最近、静かな夜は目を瞑ると遠くで音が響くようになった。

 いや、静かと言っても階下の酒場からは人々の笑い、酔いしれる嬌声がここまで聴こえてくる。

 この町が悪徳から浄化されたことを喜んでいる人々が多いのだ。


 タイランはベッドの上で壁にもたれて目を閉じた。

 小さく呼吸をするとあの時の光景がよみがえってくる。


 耳鳴りと目眩、身体は力が入らず、平衡感覚も疑わしい。

 目を細め、歯を食い縛り、出来うる限り羽を伸ばして空を駆けた。


「行けェーッ、タイラン! 振り向くんじゃねェッ」


 ガン、ガン、ガン、と激しい音が連続する。

 ドラゴンとアナハイが暴れる度に一帯の岩石が崩れ、それらが互いに衝突を繰り返す。

 飛び散る浮遊石の欠片と強烈な磁気嵐の中をタイランは飛び続けた。

 ようやくで二本ツノの中心に埋まった賢者の石にたどり着いた。

 剣の柄頭で岩肌を叩き、ボロボロとこぼれ落ちる赤い石を革袋に落とし込んでいく。

 十分すぎる量を入れたとき、眼下の戦いも決着がつく寸前だった。


 アナハイの咥えた大きな緑色の球体に向けてクロウの矢が命中した。

 ヒュドラの毒がドラゴンをのけぞらせたように見える。

 その背を超えて大剣を振りかぶったボンドァンが斬りかかっていった。


「危ねェッ」


 空中で攻撃態勢に入ったボンドァンを横からドラゴンの首が食らいつこうとしていた。

 咄嗟にボンドァンを突き飛ばしたクロウの身体にその牙が食い込む。


「グハッ」


 大量の血を吐き出すクロウ。

 ボンドァンの青い大剣がドラゴンの緑色の(コア)に突き立つ。

 ボンドァンの顔に会心の笑みが浮かぶ。


「ガッ!」


 そのボンドァンにもうひとつのドラゴンの首が嚙みついた。

 左の上腕に牙を食い込ませたまま、しかしボンドァンは振り回されまいと(コア)にへばりついていた。

 ヒュドラの毒がなければ容易く振り回されていただろう。

 だが窮地には変わらない。

 タイランは急ぎ援護に向かおうとした。


「ッ!」


 目が合ったボンドァンの瞳はそれを拒否していた。

 とても力強い眼差しで、タイランの脳裏に強く焼き付いている。


「行ッけェーッ」


 絞り出した絶叫と共に突き立てていた剣、深蒼霊剣ブルーメタルに力を込め、折った。

 途端、強大な青い渦と亡者の怨嗟に似た咆哮が渦巻き、あたり一帯を吹き飛ばした。

 タイランも強い力の本流に抗うことができなかった。

 その折、反対側へと飛ばされていく、上半身だけとなった闇の男(ブギーマン)クロウ・リーと、必死に彼にすがり付こうとするダークエルフのバイド=バイタの姿が見えたが、到底、彼の手に届かない場所へと離れて行ってしまった。



 いつしか酒場の喧騒が聴こえなくなっていた。

 どうやら眠っていたらしい。

 ランタンのオイルが切れ、窓外から射し込む月明かりが部屋を青く染めていた。

 ふと、ポケットの中から二枚のコインを取り出した。

 それは一枚が表と裏の二枚にスライスされたコインだった。

 腕前をほんの少し披露するのに使ったものだが、今では忘れられない思い出になりつつある。


「十年後には追い抜かれるかもな」


 月は明日にも満月になる頃だった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 青い月光がその薬草園さえも青く色付かせていた。

 それはまるで冷たい夜気が視覚化されたようにも見えた。

 この場所ならそれもあり得なくはない、そう思えてしまう。

 青く染められた庭で月光浴をしながら、薬師の女は呟いた。


「この国はサクラが創った国だ。あの娘は慈愛の女神として今もこの国を見守っている。その国で愛を冒涜する者は我れが許さない。愛にすがる者を我れは見捨てない」


 足音か近付いてきた。

 薬師の女はそれまでの冷たい眼差しを止め、笑顔を作り足音の主を出迎えた。


「どう、落ち着いた?」

「えぇ……」


 悲しげな顔でそこに立っていたのはリュキアだった。

 だいぶと泣き腫らしたあとがある。


「あの、やっぱり……私」

「決心は変わらない?」


 リュキアがコクン、と小さく頷くのを薬師は確認した。


「私を砂虫(サンドワーム)使いにしてください」


 アナハイが手に入れたのと同じ力をリュキアも所望した。


「では毎日少しずつ、体内に砂虫(サンドワーム)の血を注入していかなければならないよ。そうすることで貴女は人間から砂虫(サンドワーム)に近付き、彼らを使役できるようになる。でもそれを数日怠るだけで身体は拒否反応を示し、ヒトとしての形を保てなくなる。もしかしたら死ぬより辛い思いをすることにもなるよ」

「覚悟の上です。それでも私はアナハイと、彼と繋がっていたい」


 女はジッとリュキアを見つめた。

 その目は人の目であり、神の目であった。


「それがお望みとあらば」


 ——愛にすがる者を我れは見捨てない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ