488 自由騎士タイランその21 二対のドラゴン
「こっちだ若造どもッ! 走れッ」
クロウの怒声を追う形でボンドァンとアナハイが駆ける。
いつもならその横柄な態度に食って掛かるボンドァンだが、この時ばかりは従った。
従わざるを得ない。
なぜなら先頭を走るクロウの顔も必死だからだ。
走る三人の背後で岩壁の崩れる音が轟いた。
岩塊を弾き飛ばしながら大蛇のように太く長い首をもたげて、威圧的に咆哮するドラゴンの顔が現れた。
長い首を巡らせて逃げる三人を視界に収めると、身も凍る恐怖の咆哮をお見舞いする。
止まれば終わることを認識している三人は、恐怖を打ち払うように精神を鼓舞して耐えた。
しかしその途端、無慈悲にも目の前にもうひとつ別のドラゴンが顔を覗かせた。
三人を獲物と認識して早速捕食に移る。
巨大な首を低い体勢で固定すると一声吠えてから突進してきた。
「クソッたれィ」
正面から地を這うように向かってくるドラゴンに対しボンドァンが背中の剣を抜く。
刀身が青く輝き出す。
彼の家に代々伝わるという魔法の剣だ。
両手で力強く握るとジャンプ一番、大剣をドラゴンの眉間へと叩きつけた。
瞬間、両手に鋼鉄を叩いた時のような痺れが走る。
「かッ……」
想像を超えるウロコの堅さに驚愕しつつも、歯を食い縛り剣だけは落とさぬよう持ちこたえた。
しかし一転、身体が浮き上がる感覚を覚えた瞬間、首を振ったドラゴンによってボンドァンは空高く投げられた。
空中では姿勢の制御がままならない。
焦るボンドァンに背後から接近していた最初のドラゴンが大口を開けて彼を飲み込まんとする。
「う、うわぁぁぁッ」
ドラゴンの凶悪な歯列に左右から噛み千切られる寸前、赤い影がボンドァンを引っ掴んで飛び去った。
期待した獲物の感触が失われ、怒り狂うドラゴンは邪魔をした主を目で追った。
地面に着地していたのは赤い鳥の剣士だった。
傍らに無造作に放り出された獲物が喘いでいる。
「まだ立てるか?」
「死ぬかと思った」
わずかに蒼白となった顔を擦りながらもボンドァンは立ち上がった。
そこへクロウとアナハイも駆け寄ってくる。
「おい〈赤い鳥〉、バイドはどこだ?」
「あっちだ」
タイランが指差した方向で、バイド=バイタが手を振り応答していた。
「ほっ……無事か」
「あのドラゴンは?」
二匹のドラゴンはそれぞれが高くそびえる岩山の前に立っていた。
この巨大な浮遊石の通称ともなっている〈二本角〉、その左右それぞれの岩山の前に立っている。
いや、より正確に表現するならば、首が長く高くそびえていると言うべきか。
「あの長い首、地面から生えているみたいだ」
「そうだぜ。どんだけ長えんだか。首だけが追いかけてくるんだ」
「胴体は?」
「見てねえよ」
「あいつも砂虫みてえなもんなのかもな」
タイランとクロウの問答にボンドァンがそう洩らす。
「それで、賢者の石は?」
合流したバイド=バイタが問うた。
「あそこです」
アナハイが上空を指差す。
二匹のドラゴンの首と首の間。
か細い橋のようにつながる岩が鈍く光っている。
太陽光線を受けて赤い輝きが瞬いていた。
タイランは赤い光からドラゴンに目線を戻すと口を開く。
「まずは二匹のドラゴンをあそこからどかさなければな」
「どうやって?」
クロウが渋面で問う。
「胴体を地中から引きずり出さねえと。そんなことやれんのか?」
「やれるかではない。やるんだ」
「どうやって?」
狼狽するボンドァンに向けてタイランは言った。
「知恵と勇気を振り絞ることだ」
「なんだよそれ。曖昧にもほどがあるぞ」
「より具体的に言ってやったつもりだが。さあ武器をとれ。持てる力の最大を発揮すべき日が来たぞ」
2026年3月12日 挿絵を挿入しました




