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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第六章 英雄・奇譚編

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479 自由騎士タイランその12 薬の効果

挿絵(By みてみん)


 案内されたのはレンガを積んで建てられた庵だった。

 岩壁に寄り掛かるようにあるその庵の中は、人工的な壁や床は入り口のみで、奥は自然の洞窟を利用したものだった。

 湧水はこの中にも流れ、所々岩壁から露出した青い結晶が壁にかけられた灯りの光を水面に反射して、瞬く様は静謐と清浄をこの上なく感じさせた。

 もちろんここでも成育された多くの花々に迎えられた。


 細かな絵織物が刺繍されたカーペットに全員が車座になって座ると、約束通りカモミールティーが供された。

 空に近い標高と洞窟というシチュエーションから、湯気の香り立つ温かな飲み物は有り難かった。


「さて、あなたたちに頼みたいのは……」

「待て待て待て! なにを頼むって? オレたちは敵同士だぞ」


 この庵の主である女の不可思議な態度と雰囲気にボンドァンは飲み込まれまいとした。


「賢者の石の欠片が必要でね、それを採ってきてほしいんだけど」

「だからなんでだよ!」

「お茶を振る舞ったでしょ? カモミールは消炎、発汗作用があって入浴剤にも適しているのよ。なんといっても体内の炎症を抑える効能はとっても健康維持に役立つんだから」

「オレはハーブティーは苦手だ」


 実際ボンドァンはほとんど口をつけていなかった。

 苦手なだけでなく警戒心もあった。

 この異常と思える状況に流されまいと必死に食って掛かっていたのだ。


「でも美味しいわ。このカモミールティー」

「同感だ」


 そんなボンドァンの気持ちも察せず、ダークハーフエルフの女と赤い鳥はお茶を楽しんでいた。


「あんたら……もう少し警戒しろよ」

「まあ坊やの言い分もわかるぜ。お茶一杯で賢者の石なんてレアアイテム、そうそう引き受けられるわけないさ」


 クロウ・リーの助け船にボンドァンは幾分救われた気持ちになれた。


「そう? でもあなたたち、ここへ来た目的を思い出して」

「目的? 決まってる。太守の奥方を助けに」

「彼女ね」


 女が部屋の奥を隔てた戸板の間仕切り(パーテーション)を開くと、寝台にリュキアが横たわっていた。


「あっ」


 立ち上がりかけたボンドァンの肩をクロウ・リーが抑える。

 リュキアのそばにはアナハイが張り付いていた。


「彼女に飲ませる解毒剤に必要なの。賢者の石が」

「毒? そんなものいつ……」

「それはこいつのことか?」


 タイランは懐から一粒の丸薬を出して見せた。


「執事の遺体からいただいてきた。奥方は毎朝苦い薬を飲んでいたと言っていたが、これがそうじゃないのか?」

「確かに病を患っている、とか言ってたな」


 タイランの手の平にある丸薬をボンドァンはまじまじと見つめた。


「にしてもなんの薬だ、これ?」

「ホレ薬よ」


 女が言った。


「はあ?」

「だからね、それをお湯に溶いて飲ませると、その後に最初に見た異性を好きになっちゃう薬なの」

「なんだってぇ」

「けどまあ調合が甘いね。私から見れば粗悪品だ。これじゃ効果も長続きしない」

「だから毎朝飲ませていたか」


 女がタイランに「そうだね」と相槌をうつ。


「するってぇとだ、事件の真相はそこの若い貴族の次男坊の妻を薬を使って略取した太守が悪い、てことか?」

「実にシンプルな話だったな」

「世の中往々にしてそんなもんさ。たいてい金か女絡みだ」


 クロウとタイランは得心がいったようだが、ボンドァンはそうではなかった。


「おいおい、ホレ薬なんてそんな都合いいものがあるかよ。その薬師の言うことだってどこまで本当か」


 そう言われた女がほほ笑む。


「そう言うかと思ってね、事前に入手した同じ薬をひとつだけ、あなたたちの飲んだお茶に入れといたよ」

「な、なにィ」

「はて、どのカップだったかは忘れてしまった」

「バッ……」

「なんせこんな大勢にお茶を振る舞うなんて久しぶりで。許してね」


 少しばかり意地の悪い笑顔だ。


「オ、オレはあんまり飲んでないぞ。言ったろ、ハーブティー苦手だって……ん?」


 ボンドァンはとなりからじっと見つめる視線があることに気が付いた。

 先程から黙りこくっていたバイド=バイタがずっとこちらを見ていたようだ。


「どうした、バイド?」

「あ、あの、バイド……さん。なにか?」


 突然バイドはクロウの見ている前でボンドァンに覆い被さると、普段から外さない黒いマスクをアゴ下にずらした。


「はぁ、はぁ」

「バ、バイドさん!」


 開いた口から熱い吐息と唾液が滴る。

 よく見ると歯はどれも研ぎ澄まされ、鋭利な獣の牙のようだ。


「はっ、はっ」

「ちょ、ちょぉっと」


 ボンドァンにむしゃぶりつこうとするバイドを見てクロウが激昂する。


「テメェ、このバカガキ! 人の女房にナニしやがるッ」

「頭沸いてんのかよハゲ! どう見てもオレが被害者だろうが」

「チッ、気ィつけろよな! バイドの牙には毒がある。そいつとキスができんのは毒に抵抗できる奴だけだ。オレみてぇにな」

「マジかよッ! おい、止めろって、止めて」


 下からバイドのアゴを掴んで必死に遠ざけようとする。

 過去に経験のないほど熱烈に組みしだかれて恥辱と恐怖にボンドァンは悲鳴を上げた。


「アハハハ。まあ、薄めにしてあるからじきに効果も切れるよ。でもこれで薬の効果を信じたでしょ?」

「ああ! 信じる! 信じたよッ! だからこいつをどかしてくれッ」


2026年2月23日 挿絵を挿入しました

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