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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第六章 英雄・奇譚編

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478 自由騎士タイランその11 青年と女



「どっちって、まだそんなこと言ってるのかよ。敵を目の前にしてよぉ」


 クロウの発言にボンドァンは憤り、剣を抜いて岩場の上に立つ青年に向かい構えた。


「オレはちゃんと責務を果たすぜ」

「そうか、お前たち、バギン太守に雇われた冒険者だな。まさか追ってくるとは」

「その通りさ。営利誘拐は重罪だ。観念しろ」

「営利誘拐だと? ふざけるなッ」


 青年は怒りに任せて拳を壁に叩きつけた。


「リュキアは()の妻なんだ! 誘拐したと言うならそれはあの太守の方だ」

「信じると思うかよ」

「事実だッ」

「いいや信じないね。なによりあの奥方は太守とかなりイチャついてたぜ。どっちかと言えば奥方の方が積極的……」

「それ以上言うなッ」


 青年は懐から巾着袋を取り出し中身をぶちまけようとする。

 その手を止めた者がいた。


「ここで砂虫(サンドワーム)は呼ばないって、言ってあるよね?」


 女だった。

 青年のとなりに若い人間の女が立って、青年の手首をつかんでいた。

 小麦色の肌は健康的で、緩やかな長めの髪は金色。

 ゆったりとした絹のスカートを履き、袖の短い上着(コーセレット)に様々な腕輪や首飾りで装飾している。

 黒い瞳が真っ直ぐに青年を見つめている。


「けど、あいつら……」


 女の瞳がタイランたちに移る。


「よく見て。やる気になってるのはあの坊やだけ」

「坊やだと! って、あれ?」


 ボンドァンは元暗殺者夫婦だけでなく、〈赤い鳥〉まで戦闘態勢に移行していない事に気付いた。


「ちょっと……」


 クロウがボンドァンの剣を下げさせる。


「まあ落ち着け。あの女の事は知らねえが、あの男なら知っている。ヨハネス・アナハイ。ハイランドの貴族レンブレス・アナハイ侯爵の次男坊だ」

「貴族? あいつが? ほんとかよ」

「オレは世界中の要人を知り尽くしている。いつ暗殺依頼が舞い込むか知れんからな」


 そう言ってクロウ・リーはボンドァンに不適な笑みを向ける。

 その顔にボンドァンは一瞬寒気を覚えた。


「あ、あなたはひょっとして」


 ヨハネス・アナハイという名の青年は、タイランの姿を認めると驚いて剣を鞘に収めた。


「間違いない! クァックジャードの」

「いや……」

「やはりそうだ」

「どこかで会ったかな」

「ええ。ですが僕の事は覚えておられなくても不思議はありません」

「ん?」


 青年は岩場を駆け下りるとタイランの前までやって来た。


「あなたと剣聖グランド・ケイマンの闘いを目の前にしました。あの老人との熾烈な剣戟を生涯忘れられるはずがありません」

「もしやケンタウロス族の集落」

「あなたに殺されたクスラー卿の代わりを僕が務めました」

「そうか」

「ですが逆にあなたたちの奮戦に圧倒されていました」

「そうか、あの場にいたのか」


 青年のとなりに女も下りてきた。


「さて、ここではいっさいの戦闘行為は私が認めない。けど言う事を聞くならお茶を振舞ってやろうと思うが」


 一向は顔を見合わせると女の言うとおりにすることにした。



※タイランと青年との昔語りは「210話 アップランドの会戦」から「212話 天使に会いに来た悪魔」あたりのエピソードのことです。

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