475 自由騎士タイランその8 縦穴を追って
赤い剣閃が薙ぎ払った。
首を断たれ溢れ出る砂虫の体液を、ボンドァンはまともに頭から浴びてしまう。
「ギギャアアアァア」
「うわぁあああッ」
砂虫の断末魔の悲鳴と、ボンドァンの恐怖の入り交じった悲鳴が交差する。
「落ち着け坊や」
「ッ!」
肩に置かれた手を思わず払いのけてから、ボンドァンは相手が〈赤い鳥〉であることに気が付いた。
「アンタか……」
「もう終わった。大丈夫だ」
周囲にはもう動くものはない。
何匹もいた怪物は全てタイランによって仕止められていた。
「そうだ! 館の中も」
ハッとして走り出したボンドァンにタイランも続いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
太守の奥方リュキアのいた部屋には、床板を突き破り大きな縦穴が出来ていた。
直径五メートルはありそうだ。
その穴の縁にクロウ・リーとバイド=バイタの元暗殺者夫婦がいた。
「奥方さまは?」
「さらわれた」
駆け込んだボンドァンにクロウ・リーが答える。
「さらわれた? 喰われたの間違いじゃないのか?」
「さらわれたんだ。砂虫の背に乗った男に。オレたちが来た時にはもう間に合わなかった」
「男?」
「そのようだな」
タイランが部屋に残されていた執事の遺体を検分していた。
「正面から袈裟斬り。剣で殺られている」
「じゃあこれは奥方を狙っているって奴の仕業? あんなに多くの砂虫を操る相手だなんて聞いてないぞ!」
激昂するボンドァンにクロウ・リーは「オレに言うな」と肩をすくめてみせる。
「で、どうするの?」
「どうするって?」
バイド=バイタの質問をボンドァンは聞き返す。
「追うんなら早くした方がいい」
そう言って床下の大穴を指差された。
「いっ! この穴を行くのか?」
「怖ええか?」
クロウ・リーがニヤケ顔で煽る。
「ば、馬鹿にするな! メイドに灯りを用意してもらってくるから待ってろよ」
「ついでに衛兵を呼んでここを閉鎖してもらうように言っとくんだ」
タイランが駆けるボンドァンにそう付け足した。
「あまりからかってやるな」
タイランの注意をクロウ・リーはため息で受け流す。
「で、お前はどうすんだ? 〈赤い鳥〉」
「どうとは?」
「とぼけんなよ。この依頼は胡散臭い。あまり深入りするのもどうかと思うぜ」
「抜けるなら止めやせんぞ」
執事の懐を探りながらそう言うタイランにクロウ・リーは眉をしかめる。
「そうしてぇがよ、あの女を見捨てて逃げたとなりゃあ、太守が戻った暁にはめでたく指名手配になっちまうよ」
「どのみち賞金首だろう?」
「いいや、暗殺稼業は筋通して抜けたんだぜ。ただこうなったからには犯人を取っ捕まえてよ、太守から特別ボーナスをもらう方にシフトするしかねえやな」
しばらくしてボンドァンが戻ると四人は深い縦穴を降り始めた。
まずタイランが灯りを持って下へ向かう。
その灯りを頼りに三人はロープを伝い降りた。
「こういう時に鳥人族はズルいよな」
若者の愚痴に応える者はいなかった。
数十メートル降りた先に巨大な横穴が空いていた。
そこからは怪物が通るために開けた穴ではなく、自然に広がる洞窟のようだった。
「バイド、見失うなよ」
コク、と頷きバイド=バイタが地面に残された足跡を追い始める。
「さて、あんたらも今のうちに決めておけ」
「何をだい?」
ボンドァンがクロウ・リーに聞き返す。
「決まってる。どっちの側に着くのかをだよ」
「え?」




