123 アユミ、オーバーロード
――熱い!
――体が熱い!
――体の奥から爆発しそう!
――助けて!
――助けて!
「アマン! タイランッ!」
のしかかる大量の〈生きる死体〉に圧し潰されながら、アユミは意識が朦朧としていた。
体は熱く、言うことを聞かない。
次第に視界が狭くなる。
景色が黒から赤一色になる。
全身の骨が軋む。
皮膚が膨張する。
声を出そうとすると奇妙な唸り声しか出ない。
自分の様子がおかしいことはわかる。
だがそれを止める術は見つからない。
目を閉じ、体を縮こまらせ、存在を隠したくなる。
しかしその気持ちとは裏腹に、体は膨らみ、熱は上昇し、唸り声は大きくなった。
「グ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
咆哮が夜の盗賊都市に木霊した。
その夜、盗賊都市にいた生ある者は、皆すべからく、その咆哮を耳にした。
そして、その後、生き残ることのできた者は、脳内にその姿を刻み込まれることとなった。
アユミに群がり、のしかかっていた死体全てが吹き飛ばされた。
そこに集まりだしていた死体、全てが踏みつぶされた。
そして、闇夜を引き裂く紅蓮の炎が立ち上り、街は燃えた。
ズン!
地響きが鳴った。
戦場の中心地となっていたヒガ・エンジの屋敷跡に、巨大なドラゴンが立っていた。
全身を赤い鱗に覆われ、体中から火の粉をまき散らす。
「グルルル」
喉の奥から炎とともに獰猛な唸り声が響く。
その姿は周囲のどの建物よりもでかい。
巨大な火竜が立っていた。
空中で髪に巻きつけたレイとアマンを抱えながら、オーヤはその惨状を見入っていた。
「過負荷。〈紅竜美人〉の超暴走に耐えられなかったようね」
チラ、とオーヤは抱えるレイを盗み見る。
あの紅姫の姿を見て、またぞろ不安に陥っているのではなかろうかと心配したのだ。
だが、レイは胸に抱いたカエルに安心して、あろうことか微睡んでいた。
「相当そのカエルが気に入ったようね」
ひとまずオーヤは胸をなでおろすが、反対にこのカエルを奪われた紅姫が暴走してしまったのだ。
当然こちらに狙いを定めてくるだろう。
「せっかくの軍団が全滅してしまうかもしれない」
それはオーヤにとっても望ましい事ではなかった。
カッ!
街の一角が激しい爆発に飲み込まれた。
アユミの口から放たれた超高温の熱射放線が港方面に放たれたのだ。
その一撃で港の倉庫がいくつも吹き飛び、停泊していた船舶が何隻も破壊されていた。
海水はブレスの熱で沸騰し、大きく蒸気を上げている。
丘の上の上流街から港湾部の間にそびえたつ街の大鐘楼も破壊されていた。
街路を徘徊する死体の群れが、崩れた瓦礫の下敷きになる。
当然逃げ惑う街の住人達にも犠牲者は出る。
深夜に繰り広げられる大破壊に、五商星の四人も言葉を失っていた。




