09「愛しき者への思い」
09「愛しき者への思い」
モルスは仕事に手を抜かない様に真面目に頑張り
他の死神より実績を積んでいく
モルスの担当範囲は、実績に応じて広がっていった。
ある時、新しく追加された地域の修道院へ降り立つと
そこへ、たまたま・・・
モルスが見守っていたアンジェリカも降り立つ
太陽に光の中、彼女の周りにはキラキラ光る光の粒子が舞い
色素の薄い彼女の白い肌を、色素の薄いフワフワの巻き毛を
彼女の存在を・・・日の光は、宝石の様に際立たせている
モルスは、彼女を「真珠みたいだな」と思った。
その時、モルスは日中に地上で・・・
「普通の天使」の姿を見るのが、初めての事だったのだが
自分の良く知る天使のエンゲルよりも・・・
天使の血が入ったトートやラ・モールよりも・・・
モルスが知る限りの全ての天使の中で一番
アンジェリカである彼女が、綺麗だと思ったのだ
・・・そして、不思議に思う・・・
天使は、神からの指示と・・・
人間が観客を集めて見世物の様に公開で行う
「異端審問・魔女狩り・処刑」を嫌い
人間が活発に活動する・・・
日のある時間帯には、殆ど地上に姿を現さない
「何故・・・アンジェリカがこんな時間に?」
そんなモルスの疑問に、エンゲルが答えてくれた。
慈悲深く綺麗に育った彼女の心は、彼女が仕える神に気に入られ
アンジェリカでありながら・・・
「花への祝福を祈る仕事」の「一つの特別な役職」を
神から与えられたのだそうだ
そしてモルスが新たに担当になった場所は
冬の終わりの時期「春が近付く」と・・・
アンジェリカが舞い降りて花を愛でながら仕事をしている場所
その場所が担当になるまで、それを知らなかったモルスは
エンゲルにその事を訊いて、本当に嬉しくなった。
典礼用の蜜蝋燭を作る目的で・・・
修道院で育てられている蜜蜂の為に植えられる
春に向けて一早く咲く花「スノードロップ」の花畑に
毎年必ず、嬉しそうにして彼女が舞い降りている事を知った時
「幸せな気持ちにしてくれた御礼」にと・・・
モルスは、「彼女にプレゼント」を贈りたくなった。
贈り物に詳しそうなラ・モールに相談すると
贈られた相手が死ぬまで、枯れる事の無い花飾りの作り方を
モルスに教えてくれると言う
それは、自分が死神として担当したい相手へ贈る物らしい
・・・贈って、無理矢理にでも受け取らせる事ができたら・・・
どんな時でも、その贈り物を通じてその場に行き
自分で、その者の死を担当できるようになるそうだ
モルスはトートとラ・モールに教えて貰いながら何度も作り
上手に作れるようになってから、ベファーナに見せに行って・・・
贈る事を断念する事になった。
スノードロップの「逆境の中の希望、慰め、恋の最初の眼差し」
と、言う花言葉が・・・
贈り物にすると・・・「あなたの死を望みます」と、言う
ちょっと死神が贈るには不味い意味になってしまう事を
ベファーナから聞かされたのだ
花言葉が変化する事を知らなかったモルスは気落ちし
トートとラ・モールも初めて知ったらしく驚いていた。
もしかしたら「アンジェリカが仕えている神」は
「死神からの好意は一切、受け付けていない」
と、言いたいのかもしれない・・・と、モルスは思った
そして・・・
時代と共に過激化していく「異端審問・魔女狩り」の為に
天から降りて来る天使達の数は、一挙に激減していく
彼女も前より、地上に姿を現さなくなっていく・・・
それが「その神様」による「天からの啓示」なのかもしれない
モルスには、そんな気がしてならなかった。
蝋燭の主成分が獣脂から、鯨の脳油や石油パラフィンに移行し
蝋燭から不快臭がしなくなった頃
時を経て・・・それぞれ、それなりの成長をし
モルスも、モルスが見守るアンジェリカも大人になっていった。
人間達が、社会を発展させ生まれた「新たな街灯」
「ガス灯」に火を入れる時刻・・・
魚の尾鰭の様な炎の中心にハート形の明かりを灯し
魚尾灯が薄暗い光を放って、道を照らし出し始める
灰色の街に小雪が舞い散り
「第1アドヴェント」が近付いた街は・・・
クリスマスマーケットに向けてゆっくりと動き出していた。
今年も例に漏れず・・・
彼女と最初に出会った頃と似た光景を見掛ける
忙しくなって面倒が見れなくなるクリスマスマーケットの時期
収入が減る年末年始に向けて・・・ペットが捨てられる季節
凍える程の寒さの中、拾い上げてくれる人間は少ない
生き残る術を知らない動物達は・・・簡単に死んで逝く
昔と変わった事は・・・
動物達が人間の非常なる仕打ちに怒りを覚え
人を恨み、深層心理の内に呪詛を蓄えている事くらいであろう
天使が祝福を・・・心の幸せや、平穏を・・・
生き物の幸運を祈りに天から降りてこなくなったからであろうか?
モルスはまだ、恨む事も知らない無垢な魂を抱締め
病んだ社会が広める闇に染まらぬよう
無垢な魂の願いに無い、未来への幸せを少しだけ上乗せして
無垢な魂をダイレクトに死の世界へ送った。
「魂を刈り取る者」や「死を管理する者」の仕事
やるべき「事務処理」の殆ど無い
「無垢」で「何もこの世に影響を残していない魂」を
無駄に、この世に留めて汚す事は無い
モルスは、自分でそう考えて
一部の仕事を自分だけで完結させる様になっていた
トートとラ・モールは・・・
その事を知りながらも、自分達もやっているので
モルスの行動に、何も言ってきたりはしない
願いに無い願いを叶える為に、酷く疲れている事を気にして
時々、体調を気遣ってくれる程度だ・・・
ベファーナも・・・何も言わなくなってきた
それだけ、地上の生き物達の状態は悪くなっていたのだ
天使が地上から姿を消してから
モルスが見る地上の世界は・・・
特に「人間社会」は、本当に病んでしまっていた。
スノードロップをあしらったデザインの物は・・・
プレゼントに適さない
それを知ったのは・・・いつの事であっただろうか?
勿論、昔過ぎて憶えてませんw




