02 「死神の御仕事」
02 「死神の御仕事」
幼い「モルス」が疲れ果て
人通りの少なくなった街の、石畳の上にしゃがみ込む
死神の姿を見る事ができない人間が・・・
彼を蹴飛ばしてもおかしくない程の近くを通り過ぎる
「人間達」は・・・不快臭を漂わす光源を手に
梯子に登り、街灯に炎を灯して歩き去った
人間の姿が見えなくなった石畳の道
吐き気を催す臭いを放つ、獣脂で作られた蝋燭の明かりが
均等に配置された街灯の上から仄かに道を照らし出していく
・・・季節は「冬」・・・
深々と冷えゆく空気に、舞い散る粉雪
凍える様に冷たくなっていく体に、冷たくなった手足
冷たさで薄紅色に色付いた指が痛い
モルスは「はぁ~」っと息を吐きかけ、手を温めた。
本当は「もう、家に帰って休みたい」でも・・・
仕事は、モルスを待っていてくれやしないのだ
ここでのんびりしていては、次の仕事に遅れてしまう
モルスは、立ち上り背筋を伸ばす
一つの仕事に遅れると、仕事が溜まってしまう
・・・仕事を溜めると・・・
また、他の「死神達」に迷惑が掛かってしまう
今日は最低限、自分に割り当てられた
事前に予告されている仕事だけでも終わらせたい
モルスは歩き出した。
そうでなくても、「半人前の烙印」を押されてるのだ
今度、死期に間に合わなくて仕事に失敗でもしたら
小一時間の御小言だけでは済みそうもない
モルスは・・・
死神としての仕事を要領良く、上手にこなせる
大きな自分以外の「モルス達」の顔を思い浮かべ・・・
自らの不甲斐無さを痛切に実感した。
涙が勝手に滲み出してくる・・・冬の仕事は、寒くて多くて辛い
この時期が一番、死神にとって忙しいのにも拘らず
今年の寒波は、いつもより更に厳しいらしい
病に侵されている者も、そうでない者も
寒さで弱り、寿命を縮めてしまう事、事欠かない状態だ
幼いモルスに、泣いている時間は無い
目元に滲んだ涙を拭い、両頬を自分で叩き・・・
気合を入れ直した。
そう「死神の御仕事」は、意外と多く大変なのだ
「寿命」が来たら、肉体から「魂を刈取る」だけが仕事じゃない
事前に寿命が尽きる者の「深層心理」に「告知」して
「願いを訊いて」「叶えられるモノは叶える」
そう言った「仕事」もある。
但し・・・「どんな願いでも叶えられる」と、言う訳ではない
その願いも「1人1つだけ」しか、叶えられない
残される者の「幸福」を願えば、その人の「運気を上げ」て
「不幸」を願えば、「運気を下げる」そんな程度だ・・・
中には、「美人な死神に迎えに来て欲しい」とか
「先に死んだ故人に迎えに来て欲しい」等の願いがあるが
そのくらいなら、何んとかならない事もない事を伝えておこう
「来世の自分の幸福を願う貪欲な願い」も
そのままで生まれ変わる訳ではないので、難しいのだが・・・
来世の運気を多少は、上乗せできない事も無い
そして「残される者にメッセージを残したい」と言われれば
出来ない事も無いのだが・・・
これだけは時折、メッセージ受け渡しの際・・・
「受け手・送り手」双方の魂の相性が悪く
「受け手」に拒否反応が起き、「受け手の寿命が尽きてしまう」
なんて事があったりするが・・・ワザとじゃありません
御愛嬌と言う事で、笑って許してやってください
別に・・・「道連れ」にしたり「連れて行く」なんて事が
出来たりする訳ではありませんし
それは、想定外の偶然の産物で・・・不可抗力です。
因みに・・・まだ「幼い」この「モルス」には
残される者の運気を上げ下げする程度の力しか無かったりする
そんな、「彼が担当」するのは・・・
「赤ちゃん」や「小動物」だ
難しい思考を持たない者の願いしか叶えられない為
「小さな命の炎が消えそうになってないか?」と・・・
徒歩で探し回っている
乗り物に乗り、空を飛んでいては・・・仕事にならないのだ
それでは、小さな命の灯を見付ける事ができない
死神の仕事は、本当に楽な仕事ではなかった
小動物の数は多くて、寿命が短く・・・いっぱい死んでいく
今年は「強い寒波」の影響で、更に多くの「死」が増産されていた。
仕事のできる死神は・・・
数を増やしてきた、無理難題を突き付ける「人間」の死への対応で
「小さな死」にまで手が回らない
死神不足の止むを得ない状況の為・・・
駆り出された「幼いモルス」には、付添が付く筈であったが
今回、死神の数が大幅に足りないらしく・・・付添の姿は無い
彼は一人きりで仕事をしていた。
大人の死神達は、ストレスを溜め
仕事ができない「子供」に八つ当たりしている事を
責任感が強い「幼いモルス」は知らない
本来「庇護すべき子供」を無理に働かせ
大人が「半人前だと罵る」べきではないのだが
忙しさに心が荒み、それに気が付く大人の死神はいないのだ
小さなモルスの体力は、そろそろ限界に近付いていた
子供を気遣える死神は存在しない
「死神」は、それに類似する存在にしか見えない為
頑張り過ぎた子供を止める存在は、そこに存在しなかった。
モルスは「死を迎える者を指示す方位磁石」を頼りに
人間が集まり騒ぐ「クリスマスマーケット」に近付いて行く
クリスマスマーケットの片隅、街灯の傍に置かれた箱から
死を管理する者にしか見えない目印が見えた。
・・・「仕事だ」・・・
モルスは、ボロボロな木箱に詰められた捨て猫の親子を見付ける
猫達の消え掛けの命の炎が、黒い煙を上げ・・・
残り少ない寿命を告げている
モルスは、黒から白に変化していく煙を目印に
「願いを訊き・叶え」肉体から魂を刈取っていかねばならない
これは事前に予告された仕事ではないのだが
幼いモルスが担当する仕事だ
一番弱った、白い子猫に手を翳し
子猫の願いを知る為に意識を集中して、モルスは目を瞑る。
「御愛嬌」で済まない事も、それで済まそうとする現代人・・・
「笑って済ませられる事」が「何処から何処までか・・・」を
学ぶ機会が少ない・・・もしくは、無いから・・・
「やらかしちゃう」んだろうなぁ~って、思いませんか?
因みに、物語に出てくる御愛嬌は・・・多分、許されない方です。




