15「優しい死神」
15「優しい死神」
「何時も許してくれる自分が仕えている神が私を許してくれない」
アンジェリカは、今までになかった事に驚く
背中への激痛に、切り落とされた翼・・・
恐怖と、痛みにのた打ち回り・・・
気付かぬ内に天使で無くなり、堕天使になって・・・
神に許しを乞う為に、アンジェリカは・・・
「もう、2度と帰れない」天に「帰りたい」と望み
神に願い、神に懇願する・・・それ程に動揺していた。
背中から滔々と流れる液体・・・暗くなっていく視界
神に届かない言葉・・・聴く気の無い神に気付き
『何故ですか?』『どうしてですか?』と、問い掛け
そしてアンジェリカは、
不条理過ぎる「人の子への仕打ち」を・・・嘆いた
今まで「救いを求められ無視」してきた「神の怠惰」を詰った。
神への冒涜を口にした途端、何の返答もなかった天から・・・
笑えるくらい即座に、アンジェリカへの天罰が下る
アンジェリカを護る「スノードロップの花飾り」の力を突き破り
神が起こした「厳つ霊」・・・「雷」が彼女を焼いた
今まで、「できる事」なのに「やらなかった事」を
神は、その行動で露呈した
神の意志とは裏腹に、神は「自らの怠惰」を露わにしていた。
アンジェリカの魂から、黒い煙が天へと立ち昇る
それは、消え掛けの魂の炎が残り少ない寿命を告げていると言う事
モルスは・・・死神として、その一部始終を見守っていた。
アンジェリカの魂から昇る煙が白く変わる頃
アンジェリカの背中に残った羽根に触れても、変色する危険が
しっかりと無くなった頃
モルスは、大きく息を吸い込み
『トート・・・仮面を貸してよ』と少し震える声で言う
トートが「骸骨の仮面」を貸し与え
モルスが「骸骨の仮面」で、声と表情を偽る
『俺の大鎌を持っていけ・・・
あの願いを叶えると言うのなら、必要になるだろう』
赤い液体滴る、トートの大鎌の大きな三日月型の刃が
沈む上弦の月の様に足元で白く、月明かりの様に輝いていた。
モルスはトートの大鎌を携え・・・
ゆっくりと、足音を響かせアンジェリカに近付いて行った。
・・・振り返るアンジェリカを見て、モルスは足を止めた・・・
焼け焦げ爛れた肌が・・・焦げ、焼け落ちた服が痛々しい
「スノードロップの花飾り」も傷付き
それでも花は枯れずに咲いて、彼女を護ろうとしていた
それが・・・現在進行形のモルスの「アンジェリカへの気持ち」
アンジェリカは・・・
自分の「仕えていた神」に「生きる力」を奪われ
殆ど見えなくなった目で「死神」を見付け・・・
そう、モルスの姿を見付けて、モルスに対して「天に帰りたい」
と、必死に懇願する
彼女の本当の願いは・・・
『私と目が合いそうになると、姿を消してしまうけど
何時も天使を目で追っている人の視界に少しでも入っていたいの』
だと、言う・・・小さな願い
『天使でいないと見て貰う事も出来なくなってしまう』
と、言う・・・小さく切ない願い
堕天した彼女には・・・叶いそうもない大きな願い
「誰か」に「恋」していて
天に帰り「天使でいる事」を「神に許して欲しい」と
「願い」に・・・「天へと帰りたい」と言う風な願いだった。
モルスの胸は少し痛んだ、それでも・・・
生きているのが不思議な程の酷い姿になってしまった彼女の傍に跪く
無言の死神に不安を感じたアンジェリカは問い掛ける
『あなた・・・死神でしょ?
死に逝く者の願いを叶える事ができるのよね?』
今まで・・・必死になる程、モルスから逃げていた相手が
地面を這う様に、にじり寄り・・・モルスの足元に縋り付く
皮膚がくっつき立ち上がれもしないアンジェリカを
悲しげに見詰め、モルスは溜息を吐き・・・
アンジェリカを座る様に促し、彼女の手を取った。
『君は、人の子みたいな試練を受け続ける覚悟はあるの?』
モルスの問い掛けに対し、アンジェリカは即座に・・・
『覚悟はあります!だから、天に帰らせて』と答える
覚悟の足りない自分に言い聞かせる様に、モルスは問い掛ける
『何度も死ぬ事になります、時間も掛かります・・・
元に戻る可能性も低いです・・・それでも、天に帰りたいですか?』
『帰りたいです・・・』
涙に詰まるアンジェリカの返答
また、モルスの胸は痛んだ・・・
「アンジェリカが思いを寄せる相手は誰なのだろう?」
嫉妬してしまいそうになる思いを封じ込め
モルスは、彼女の願いを叶える事に決めた・・・
アンジェリカにとって
「見ず知らずの死神」として叶える事に決めた・・・
仮面の下で、泣きながら・・・叶える事に決めた。
モルスは、トートから借りた大鎌を彼女向かって掲げ・・・
アンジェリカの意識を肉体に完全に閉じ込めて
痛みを感じてしまわない様に眠らせる
これから行うのは・・・堕天使を天に戻せるかもしれない方法
それは・・・汚れてしまった天使の翼を浄化する唯一の方法
ラ・モールの母親が、ラ・モールを残して天に帰った方法
ラ・モールが知っていて教えて貰っていた方法
これは・・・成功するかどうか分からない実験
モルスは・・・
今ここに至る状況での「選択肢」を与えてくれていた
ラ・モールに心から感謝した。
『お休みなさい「私の天使」』
モルスは、天罰を受ける前に刈り取られた彼女の翼を拾い・・・
胎児の様に小さく丸まって眠る「彼女の上」に掛け
彼女の姿が、自分に見えない様に隠す
その上に・・・彼女が、いつの間にか持っていた
「スノードロップの花飾り」を飾る
『願わくば、私と君の間に引力が生まれます様に・・・
ではまた、出会いましょう「私だけの天使」』
モルスは、トートの大鎌の力を借りて・・・
自分自身の手で、花飾りと一緒にアンジェリカを壊して破壊する
流れ続ける涙で全てが霞んで見えた・・・
アンジェリカだったモノを切り刻んで、粉々に切り裂いて・・・
教会内に紅い闇が広がり、モルスの慟哭が長く響いた。
物理的な残酷シーンは、残酷過ぎない様に曖昧に幻想加えて
表現してみたけれども・・・これでよかったんだろうか?
そうする事で、カットする事になった嘆きのシーン
もったいなかったかも知れない・・・と、思わない事もない・・・




