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【第11話】狂気の人形遊び

「それでは、この狂気に満ちたパズルの説明をいたしましょう」


私は静かに響く声で語りだした。


「まず、あちらにある四人目のご遺体と、こちらにある三人目のご遺体は、どちらもこの女性の娘さんであるジェシカさんであり、同時に違うとも言えます」


「さっきから何を言っているんだ、ヒューゴ殿。禅問答をしている場合ではないぞ」


アンダーソン団長が苛立ちを隠せない様子で低い唸り声を上げた。


「事実を順を追って説明しているだけですよ、団長。まず、あちらに横たわっている四人目の腐敗した遺体。あちらは指紋が完全に一致したため、ジェシカさんのご遺族に連絡がいきました。しかしお母様は、顔を見て娘とは違うとおっしゃった。そして今、こちらにある三人目の身元不明だったご遺体の顔を見て、娘さんだと断言された。……もうおわかりですよね」


私が問いかけると、アンダーソン団長は目を見開き、愕然とした表情で二つの遺体を交互に見た。


「……つまり、頭と身体が入れ替わっているということか?」


団長の口から絞り出された言葉に、母親はあまりの衝撃に言葉を失い、青ざめた顔でその場に立ち尽くしている。


私の隣にいた助手も、信じられないものを見るような目で遺体を見つめていた。


「ええっ!?頭と体が別々ってことですか!?そんな……まるで子どもの人形遊びのようじゃないですか!」


「その通り。指紋が一致した四人目の遺体は、身体がジェシカさんで、首から上が別人。そしてこの三人目の遺体は、首から上がジェシカさんで、身体が別人なのです」


「馬鹿なっ!」


団長の大きな声が安置所に反響する。


「しかし、この三人目の遺体の首は完全に綺麗に繋がっているぞ!先日ヴィンセント先生が検死をした際、首の骨は折れ、神経は断裂していたが、切断された痕などどこにもなかった!皮膚は完全に平坦だったはずだ!」


「ええ、物理的に糸で縫い合わせたり、溶着したのなら必ず痕が残ります。しかし、魔法であればどうでしょう」


私はヴィンセントへと鋭い視線を向けた。


彼は無言のまま、冷や汗をうっすらと額ににじませている。


「それは治癒魔法によるものです。治癒魔法は本来、生きた人間の怪我を治すもの。しかし、その本質は細胞や組織を強制的に結合させることにあります。高度な治癒魔法の使い手であれば、たとえ死体であっても、切断面の組織を結合させ、綺麗に繋ぎ合わせることができるのでしょう。そうですね、ヴィンセント先生。あなたは以前、切断された腕や指を繋げることもできるとおっしゃっていた」


ヴィンセントは中指で眼鏡を押し上げる動作をしたが、その指先は微かに震えていた。


「……死体に治癒魔法をかけるなど、医学的な常識から外れていますよ。それに、もし頭と身体が入れ替わっているのだとしたら、この三人目の遺体の身体はいったい誰のものだと言うのですか?」


ヴィンセントがようやく口を開いたが、その声はいつもの余裕を失い、どこか上擦っていた。


「それは、おそらく一人目の犠牲者の身体でしょう」


私の言葉に、再びアンダーソン団長が息を呑んだ。


「一人目だと!?あの路地裏で見つかった、頭部だけの遺体の身体ということか!」


「ええ。ここからが、この猟奇殺人の真に恐ろしい部分です。犯人はただ無差別に殺人を犯し、遺体を飾り立てていたわけではない。緻密に計算された、恐るべきすげ替えを行っていたのです」


私は手帳に書き留めていた情報をもとに、推理の全容を解き明かしていく。


「まず、最初の事件。一人目の犠牲者は頭部のみが発見され、身体は見つかりませんでした。犯人が持ち去ったからです。そして、公園で発見された二人目の犠牲者。彼女は、本人の頭部に、持ち去られた一人目の身体が繋ぎ合わされた状態で遺棄されたのです」


「なん…だと……」


「そして、この三人目の犠牲者であるジェシカさん。彼女が発見された時点では、本人の頭部に、二人目の犠牲者の身体が繋ぎ合わされた状態だったはずです。つまり新たな犠牲者はすべて、前の犠牲者の身体と繋ぎ合わされていたのです」


「待て、ヒューゴ殿!おかしいではないか!」


アンダーソン団長が私の言葉を遮った。


「二人目の犠牲者の遺体は、数日前ご遺族の元へ返還されたのだぞ!身体が入れ替わっていたのなら、なぜ親が気づかないのだ!」


「ええ、親は絶対に我が子を見間違えません。だからこそ、犯人はこの遺体安置所で最後の仕上げを行わなければならなかった」


私はヴィンセントの前に一歩近づき、彼を真っ向から見据えた。


「三人目のこの遺体がここに運び込まれた後、あなたは誰もいないこの安置所で再度遺体の切り離しを行った。三人目の遺体から二人目の身体を外し、保管されていた二人目の首と再度繋ぎ合わせたのです。そして、元の首と身体が完全に一致した完璧な状態の二人目の遺体を、遺族へと返却した」


安置所の冷却装置の低い駆動音だけが、重苦しい静寂の中で響いている。


「残された三人目、ジェシカさんの首には、二人目の首から切り離され、余っていた一人目の身体を繋ぎ合わせ、この引き出しに保管した。だからこそ、母親は彼女の顔を見てジェシカさんだと気づき、四人目の遺体からはジェシカさんの指紋が検出されたのです」


私の言葉は、パズルのピースを完璧な位置へとはめ込んでいった。


アンダーソン団長はあまりの怪奇な事実に、ただ呆然と口を開けて二つの遺体を見つめていた。


「そんなことが、本当に可能なのか?死体の頭と身体を繋ぎ合わせ、さらにそれを何度もすげ替えて、ご遺族に気づかれずに返却するなど……。人間の仕業とは思えん……」


団長の声は、恐怖と困惑に震えていた。


「人間だからこそできるのですよ。高度な医学知識と、洗練された上級治癒魔法。そして、誰もが信頼を寄せる医師であり検死官という立場があれば、この安置所は犯人にとって、誰にも邪魔されない極上のアトリエに変貌するのです」


私は黒い革手袋の位置をなおし、さらに言葉を続けた。


「遺体の首には絞殺による鬱血痕があり、肌の色も生者のものとは違う。暗い安置所でぱっと見ただけでは、誰も頭と身体が別人だとは気づきません。あなたは新しい遺体がここに運び込まれるたびに、夜な夜な切り離しと接合を行い、元の持ち主の頭と身体を繋ぎ直しては順繰りに送り出すつもりだったのだろう」


「でも、先生」


私の斜め後ろから、助手が恐る恐るというように声をかけてきた。


「いくら綺麗に繋げたとしても、よく見たら他人の身体だってわかっちゃいませんか?肌の色だって、人によって少しずつ違うでしょうし」


「その通りだ、助手。だからこそ、あの異常な装飾が必要だったのだよ」


私は助手の疑問に答えるように、三人目の遺体の首元を指差した。


「他人の頭と身体をいくら綺麗に接続したとしても、わずかな肌の色や質感、体格のバランスにズレが出てしまうのは避けられない。犯人はそこから目をそらさせるために、豪奢なゴシック調のドレスを着せることで視線を分散し、切断面である首に幅広のチョーカーを巻いたのだ。一連のドール遺体の謎、あの猟奇的で芸術的な装飾は、頭部と身体が別人であるという不都合な事実を隠すための、完璧なカモフラージュだったのだよ。そして本来そのトリックに一番気づく可能性が高い検死官こそが、犯人であったという現実。まさに灯台下暗し」


そこまで一気にまくしたてると、安置所の空気は完全に凍りついた。


ただ冷却装置の駆動音だけが、犠牲者の泣き声のように静かに響く。


ジェシカの母親は三人目の遺体の手を握りしめながら、ただ涙を流して震えていた。


その身体は娘のものではないというのに。


アンダーソン団長を護衛する三人の騎士たちも、いつでも剣を抜けるように柄に手をかけ、鋭い警戒を一人の男に集中させている。


私は右手を真っ直ぐに伸ばし、その人差し指を目の前の男へと向けた。


「この凄惨なドール遺体を作りだし、王都を恐怖に陥れた犯人。そう『ドールメーカー』はあなただ、ヴィンセント先生」


部屋の中にいる全員の視線が、白衣を着た医者へと注がれた。


ヴィンセントは長い沈黙の後、ゆっくりと頭を上げた。


眼鏡の奥にあるその瞳は、これまで見たこともないほど冷酷に澄んでおり、しかし同時に底知れぬ激しい動揺の色が浮かんでいた。


彼は中指で眼鏡のブリッジを押し上げると、「ふっ」と乾いた笑い声を漏らした。


「素晴らしい物語ですね、ヒューゴさん。まるで売れない三流小説家が書き上げた、突拍子もない空想絵巻のようだ」


ヴィンセントの声は驚くほど冷静だった。


しかし、白衣のポケットに突っ込まれた両手が、中で強く握りしめられているのが輪郭でわかった。


「私が『ドールメーカー』ですと?しかし、忘れないでいただきたい。王都で治癒魔法の使い手は私だけではない。騎士団の中にも心得がある者はいるはずだ。それに、何よりも私には完璧なアリバイがある」


ヴィンセントは一歩前に出て、私を睨み返した。


「あなたが言った、仕立て屋のジェシカさんがいなくなったという、先月の第四週の水曜日の夜、私は自分の治療院で深夜まで多くの患者を診ていた。それは夜勤の看護師たちも全員目撃している事実だ。私がそこから抜け出して、彼女を誘拐し、殺害することなど物理的に不可能です。ヒューゴさん、あなたがおっしゃっているのは、ただの可能性の範疇を超えていない。私を犯人と断定する決定的な証拠が、一体どこにあるというのですか」


ヴィンセントの反論は、極めて論理的で、かつ揺るぎないものだった。


彼のアリバイは、私自身が治療院の看護師たちから直接聞き込んで確認した完璧な事実である。


彼が水曜日の夜、一歩も治療院から出ていないことは、何があろうとも覆らない事実だった。


「確かに、あなたのアリバイは完璧だ。ヴィンセント先生」


私が静かにそれを肯定すると、ヴィンセントの顔に一瞬だけ安堵の色が浮かんだ。


助手が私のマントを引っ張り、焦ったような小声を出す。


「ちょっと、ヒューゴ先生!アリバイ認めちゃったらだめじゃないですか!この先生が犯人なんでしょ?!」


私は助手の言葉を右手で制し、黒の革手袋をはめたその手を軽く握り込んだ。


「あなたがジェシカさん殺害時にアリバイがあったことは事実です。しかし、それはあなたが『ドールメーカー』ではないという証明にはならない」


「……何が言いたいのですか?」


ヴィンセントの表情が再び険しくなる。


「頭と身体のすげ替えという狂気の人形遊びには、まだ解き明かさねばならない『凍りついたトリック』が存在する。……ヴィンセント先生、もう少しだけ私にお付き合いください」


冷却装置の駆動音だけが響く安置所で、その場の全員が私の次の言葉を待ちながら、沈黙を保っていた。

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