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4.受難曲〜Passione〜

優しく?お願い。

4人で美味しい和風モーニングを食べていると、先ほどから一変して、穏やかな空気が流れる。

「完ちゃん、味噌汁のお代わり〜」

「私も〜」

「僕も〜」

完太は3人の「お代わり」が嬉しかった。この美味しい顔を見ると、心から幸せな気分になれる。極上のマットレスと例えられるお腹も、いつもよりもっとご機嫌に弾んでいる。お盆にみんなの空の椀を乗せた完太が立ち上がると、ビビが頭を足に擦り付けてきた。完太は一度そのお盆を置くと、そっとビビの頭を撫でてやった。ビビは満足そうに口元をほころばせた。


遅めの朝食が終わると、食後のお茶を飲みながら蝶子が口を開いた。

「ねぇねぇ、さっきの『土橋みみ』の件だけど、彼女に会ってお話できないかな?」

「蝶子ちゃん、いきなり会ったら警戒されちゃうよ?」

「完ちゃんなら『ほわ〜ん』な良い雰囲気してるから、警戒されなさそうだわ。」

「ぇえ?僕?僕は無理だよー。」

「ここで『何かあるかも?』なーんて悶々としているより、ズバッと行動した方が良い気がするのよ。私の勘がそう言ってる!そうしたら蓮さんの仕事も、先に進めるかもしれないじゃない。」

「僕は蝶子に心配してもらわなくても、どんな状況からでも進められる。プロなんだから。それよりお前は首を突っ込み過ぎるなよ?」

「わ〜…煮詰まって響に手伝ってもらった人の意見とは思えない〜。記憶力は良いくせに、さっきまで何をしてもらってたのかを忘れてるわ〜。」

「あれは!お互いにプロとしての役割と信頼…って、響ちゃん?さっきから何してるんだ?」

3人が響を見ると、リビングでクッションをどかしたりガサゴソと何かを探している。その横で、ビビが迷惑そうな顔をして立っている。

「スマホが無い…」

響がしょんぼりした声を出した。結局見つからず、完太が響の端末に電話をかけることになったが…鳴らない。すると響は何を思い出したのか、いきなりキッチンカウンターの中へ走っていった。


「その冷えっ冷えのスマホで何するの?」

蝶子が尋ねた。ビビも完太の太腿に前脚を掛け、冷気を放つスマートフォンを見つめて首を傾げている。

「冷蔵庫で冷やすとスマホが長持ちする…かもしれない…。もちろん、電話するんだよ。」

「その逆だよ。その前にそれ、駄目になってないか?」

「響ちゃん、素直に『牛乳出すときに冷蔵庫に置き忘れちゃった』って言いなさい。誰にするの?」

「立場と権力を総動員するんだよ。」

響はニヤリと悪い顔をして、電話をかけ始めた。スピーカーにすると、呼び出し音が部屋中に響いた。

相手は響と蝶子の所属事務所で、響のマネージャー兼秘書をしている澤田誠さわだまことだ。

「響さ〜ん?どしたんすかぁ〜?」

澤田は軽い。

「『プリンセス・マコ』。」

響がその言葉を発したその瞬間、ガタン!と何かを倒すような音と、声にならない澤田の声が聞こえた。響の、美しい指がコンコンとテーブルを不規則に叩く。そしてさらに続ける。

「澤田くぅ〜ん、ちょーっとだけ、お願いがあるんだよねー。いやいや、良いんだよ?断ってくれても。全く私は構わない。ちょーっと調べて欲しいんだよねー。いやいや、ホントに良いんだよ?断ってくれて。私はね、無理強いは好きじゃないんだよ、澤田くぅ〜ん。」

「…や、やや、やらせてっ…イタダキマス。」

澤田の声が恐怖に震えている。今、彼は冷え冷えの端末より冷えているに違いない。

「悪いね澤田くぅ〜ん。詳細はメールで送るよ。期間は明後日まで。頼むよ〜澤田くぅ〜ん。」

「明後日?!いや、それは無…」

「ん?無理?じゃあ仕方ないよねぇ〜。あっ、そうそう!この前ね、たまたまだよ?たまたま、バッタリ奥さんに会ったんだよね〜。また『バッタリ』会っちゃうかもね〜。」

「あっ…あのっあのっ!そのっ…そっ…嫁には…その…ち、ちゃんとやるんで!」

「言・わ・な・い・よ。私と君の仲じゃないか〜言うわけないよ〜。…多分ね。頼む。」

そう言うと響は電話を切った。ビビと完太は「何も見ていない・聞いていない」と言わんばかりに視線を逸らしている。

「『プリンセス・マコ』って?」

蝶子と蓮が響に尋ねた。

「ん?知らない?結構有名な店だよ。昼のコンセプトは『可愛くなりたい男の子、かっこよくなりたい女の子を応援します』夜は『男女逆転、耽美な世界へようこそ』ってお店だよ。言っておくけど、至って健全なお店だからね。」

全て分かっている完太とビビ、そして何かを察した蝶子と蓮は、えげつない脅しをかけられた澤田に向かって心の中で合掌した。


余談だが、後日、響のスマートフォンは新品になった。

皆様、ごきげんよう。ビビですわ。私の召使い(下僕)がポンコツで申し訳ありませんわ。よりにもよって端末を冷蔵庫に入れるなんて情けない。しかもあの脅し。人様の性癖を…なんてことでしょう。本当にお気の毒!無事をお祈り申し上げますわ。あら皆様?『プリンセス・マコ』が気になるんですの?いつか私の召使い(下僕)がお話すると思いますわ。私もこれに関しては心の準備が必要ですから…今しばらくお待ち下さいませ。

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