2.予感させる〜Presago〜
皆様、ごきげんよう。ビビリーヌことビビですわ。ビビと呼ばせて差し上げてもよろしくってよ。
壮大な名前の会社が出てまいりましたわね。私…なんだかこのエピソードは、話の端々に嫌な香りがしますのよ。なんとかなさいませ!私も来たるべき時が来ましたら協力は惜しみませんことよ?それが女主人としての務めですわ。
『グランデ・カンパニーア』とは『リアホール』『リアオーケストラ』の運営をしているグループ会社で、『建設』『教育・出版』『IT関連』の3社で構成されている。
今でこそ日本有数のグループ会社だが、もともとは町の小さな工務店から始まった。その創設者夫妻が大の音楽好きだった。クラシックはもちろん、演歌や邦楽、他国の民族音楽等、音楽という音楽を心から愛した人達だった。そして、好きが高じて作ったのが『リアホール』と『リアオーケストラ』だ。
「蓮さんが独立前の勤務会社ってグランデ・グループのIT関連会社だったよね。そこからの依頼?優秀なSEも揃ってるだろうに…自分達で解決出来そうじゃん?元社員とはいえ、外部に依頼する?」
響が訝しんだ。
「外部依頼は普通にあるよ。それぞれ得意分野もあるし。だからこそ、何で僕なんだろうなとは思った。僕の専門はどちらかと言えば『ネット社会の警備員』に近いんだ。だからこちらも『違和感』なんだよ。」
「ふ〜ん…ある程度、内部の事情を知っていて、なおかつ外部にいる。そういう立場から協力できる人が必要な状態ってことか…。実はシステムエラーは表向きで『不正』の調査依頼、つまり『どぶさらい』かもって考えているんだね。」
響は空のカップを机に置き、言った。蝶子がそのカップにお代わりを注ぐと、小さく響の「ありがと」が聞こえた。
「あの〜…それの『違和感』と私達の『違和感』、まったくの無関係に思えるんだけど。私、全然分かんない。どう繋がるのよ?」
ティーポットを持った蝶子が、不思議そうな顔をする。
すると今度は、エプロンを脱ぎながら完太が口を開く。
「蝶子ちゃんは『企業で起きる不正』って聞くと何を連想する?」
「う〜ん、不正献金とか賄賂とか横領、裏金?みたいな?…あっ、お金関係でって事?」
「うん、そうだね。オケメンバーの入れ替わりに、運営側のお金の問題が関わっているとしたら、何かあったと考えても不思議じゃないからね。『名門』だよ?そこを退団してるんだからさ、余程だと思うんだ。ただ、繋げ方がまだまだ無理矢理だよね。でもね、ゼロじゃないって事を2人は言ってるんだよ。」
「完ちゃんの言う通りだね。」
と蓮が微笑む。
「じゃあさ、フルート奏者の『土橋みみ』の件は?病気だから、お金関係じゃないじゃん?」
「そこなんだよね〜…。気になる〜…。」
と響が頭を抱えたその時、完太の足元で寝息を立てていたビビが急に立ち上がり、耳をピコピコと動かす。すると蓮のスマートフォンが鳴った。
「噂の仕事の連絡だ。蝶子、そろそろ帰るぞ。」
蓮が立ち上がる。
「蓮さん、もう遅いし、蝶子ちゃんも一緒だからタクシー呼ぶよ。」
完太がタクシーを呼ぼうとすると、蓮が止めた。
「歩いても15分位の距離だ。大袈裟だよ。蝶子とのんびり散歩しながら帰るよ。たまには良いだろう?」
蓮は蝶子に微笑んだ。
こうして羽鳥夫妻は帰って行った。
響は土蔵を改造した、半2階建ての練習室に籠もった。PM9:00、自身のソロコンサートの練習を始める。暗譜ができている曲でも楽譜を取り出し、演奏しながら、1音づつさらっていく。この音で良いのか?ここの繋がりはこれで良いのか?この音の響きはこれなのか?何を意味しているのか?非常に細かく丁寧にさらっていく。たった1小節さらうのに、1時間以上かける時もある。姿勢、体重のかけ方、ボウイング、力加減等、全てだ。自身の出す音を極めて冷静に、客観的に分析していく。実は、響はこの作業が一番好きだ。いつも何かを深く深く探究し、探求する『ご褒美時間』だった。他人から見たら、ひたすら同じ音を繰り返す変人に見えるらしいが気にしない。それがチェリスト『Kyou Suzuki』だから。
1時間後、練習室の重い扉が開くと、そこには完太が夜食を持って立っていた。
「響ちゃん…誰も見てないからってその格好はやめて!鼻炎だからってティッシュで鼻栓したまま練習しないで!下着だけって何?!しかも楽器に触れるとこだけ布挟んで!それなら服着て弾いてっ!」
……舌打ちした響だった。
〜本日の夜食〜
おかかと刻み梅干し入のお粥、漬物少々、カフェインレス緑茶(夜なので)
完太「1時間毎に見に行かないと、響ちゃんが裸になっちゃうかもしれない…」
ビビ「…ワフン(あれはアホなのよ)」




