16.悩ましい〜Inquieto〜
作者「どんなプロでも人間だもの。そんな事もある。」
ビビ「作者様とお話したいことがあるんですの。」
作者「あら、ビビ様。お久しぶりです♥️」
ビビ「その『お久しぶりです♥️』の理由をお聞かせいただけますかしら?作者様?」
作者「…ネタ…ギレ(汗)とか?」
「入って。好きなところに座って良いよ。」
響は練習室の中に蓮を招き入れた。蓮は一人掛けの小ぶりなソファに身を沈めると、深く溜め息をついた。土蔵を改装して作られた練習室の、閉じられた、少しひんやりとした空気が揺れた。
「…響ちゃん…」
ピアノ椅子に腰かけた響を見ようともせずに蓮が呟く。響は大人しく蓮の次の言葉を待った。どのくらい待っただろうか、蓮は再び口を開いた。
「もし…もしもだよ?自分の身近な人間…家族でも友人でも誰でも良い。その誰かが犯罪を犯していると知ったらどうする?」
「…事務長のこと?」
蓮は答えない。響は足を開いて、座面の縁に手をついた。
「あの蓮さんが苦戦しているなんて珍しいと思っていたんだ。」
そのままニヤリと笑うと続けた。
「何を狙っていたかは分からないけど、わざと解析を遅らせたね?私にコードを読んで聴かせた時に『プログラムを作った人間のサインのようなものがある』って教えてくれた。そんなサインが、私に聴かせた部分以外にもあったとしても、不思議じゃないからね。で、事務長とはどういう関係?」
蓮が言い難そうに口に出す。
「同じ大学のOBでもあり、グランデグループ入社当時の先輩だよ。…しかも僕の教育係だった。」
「へぇ…。今さらだけど、事務長の名前、教えてもらって良い?オケとはやり取りがあるけど、事務とはないから知らないんだ。」
「小池理。…先輩は、もの凄く実直な人で、真面目を地で行く人なんだ。毎日、プログラムの話しかしていなくて、仕事以外のものに執着するなんて感情は一度も見せたことがないんだ。どちらかと言えば、性格も穏やかなタイプだ。だから…信じられなくて…裏をとろうと思って、わざと解析を遅らせた。」
響は一瞬、目を細めた。蓮にも人間らしい感情があったんだな…仕事に私情を挟むのが意外だった。
「実際に自分が足で調べたわけじゃない。パソコン上でだよ。プログラムから見えることが正しいかどうか、何度も何度も検証した。でも、その度に辿り着くのは…先輩のところなんだよ。さっき、蝶子達から土橋みみと男性が写っている写真を見せられた。あの後ろ姿は、確実に先輩だった…。」
「…ふ〜ん。」
「それだけなのか?」
「何を期待してる?私情を挟んだことを責めて欲しいとか言うなよ?蓮さんがプロらしくない行動をしたのは事実だけど、私たちには『だから何?』って話。否定もしないが、共感も同意もしない。一つ確認したい。この件に関わっているのは本当に事務長だけ?館長は?」
「僕達調査側は、館長まで繋がっていないとみてる。実際、何も出てきていない。あの人も元はグランデグループだけど、教育部門の営業にいたらしいな。定年を迎えて、先輩と同時期にリアホールの館長として再雇用されている。先輩の事以外はよく知らないんだ。」
「蝶子と完ちゃんにはどこまで話した?」
「リアホールの事務長が横領の犯人だったって事だけだ。2人からは、その事務長が土橋みみを監禁、コントロールしている推定犯人だって話を聞いた。いや、僕が写真を見て『事務長』と言ったんだ。もう推定じゃない。」
「蓮さん、機密事項だろうけど教えて欲しい。不正の発覚は内部告発がきっかけだったんじゃないのか?それは、どうやって届いた?メール…ではなさそう。文書は郵便だった?その中身は手書き?印刷?誰からかは知らない?」
「郵便だった。文書を実際に見たことはない。噂では、手書きをコピーしたものだって事は聞いている。誰が出したのかは分からない、またはグランデ側が、外部に漏れないようにしている。当たり前の事だけどな。」
「へぇ…、ありがとう。それで十分だよ。」
「他は?」
「事務長が捕まるまで、どの位の時間があるか分かる?」
「証拠は固まってる。でも数ヶ月は掛かるだろうな。ただ、証拠隠滅される可能性がとても高い。事務長にかかれば、半日…いや、数時間あれば全て確実に消せる。天才だからな。プログラムにも、そんな仕掛けが沢山あったよ。解除できるだけ解除したが、見落としがないとも言えない。グランデ側も急ぐつもりだ。他には?」
「う〜ん、蝶子。」
「は?蝶子?」
「あいつの機嫌をとってくれ…。完ちゃんはあれで良い。もう、かなりのご機嫌。蝶子は違うんだ。」
「蝶子に何を言ったんだ?」
「胸の話。」
「あ〜…言っちゃったか…。蝶子のコンプレックス。」
「蓮さん、実は蝶子のコンプレックス、好きだろ?」
「なっ…なんで気づいて…!」
「分かるに決まってるよ。目線が巧みにそこを捉えてる。」
蓮がごまかすように目線を床に落とす。
「さて、元気になった蓮さんに蝶子の機嫌をとってもらわなくちゃ。あのままじゃ、私が噛みつかれそうだ。蝶子は、赦したと見せかけていきなり殴りかかってくるタイプだからね。ビビもだけどさ、女性ってそういう生き物なわけ?」
「蝶子ね…分かるよ、響ちゃんの恐怖…。本当に怖いよな…。まあ、元気になったところで、違う元気も出たから、明日にはけろっとご機嫌な状態にしてあげよう。」
「開き直るなよ。何する気?…さっきのしょんぼり拾い直してこいよ。」
「響ちゃん風に言うと、夫の特権を行使するだけだ。今夜。ちなみに『しょんぼり』は捨てたんじゃない。消えたんだ。」
蓮がニヤリと笑う。
「…分かった。もう遅い。今夜、ここに泊まるといい。ここなら『行使』できない…はず。」
「嫉妬か?」
「…放っとけ。」
この日は、妙に締まらない会話で1日が終わった。
蝶子「しょんぼりしてる蓮さんも素敵!」
澤田「しょんぼりしてる響さんと、どっちが良いっすか?」
蝶子「澤田君、あなたは食事に好物を2種類だされて『どちらか片方』って言われたら選べる?」
澤田「一つは口に入れて、もう一つは皿ごとかっ皿う!」
蝶子「うわっ…くっだらな〜…」
澤田「…最近、蝶子さんも響さんに似てきましたね。胃が危機を感じ始めたっすよ…。」




