14.前進して〜Avanzando〜
ビビですわ。本当に私の召使い(下僕)はアホ…失礼、おバカさんですわね。失言が多いんですわ。いつも「一呼吸置いてから話しなさい」と言って聞かせていますのに、通じませんの。私とご主人様は通じ合ってますのに、不思議ですわね。
「蓮さんの事はちょっと置いておいて…」
響は澤田が持ってきた封筒から写真を取り出し、そっとダイニングテーブルの上においた。
「これ、見てもらえるかな?『小鳥遊みお』って言うんだ。とある店でフロアキャストとして働いている。でもって、この子が『土橋みみ』だよ。偽名を使って働いていたらしい。」
響がその写真の女性を指差すと、蝶子と完太が覗き込んだ。
「可愛らしい子だね。」
完太が言う。
「ねえ、隣の後ろ姿の男性と凄く親しげに見えるんだけど…恋人かしら?う~ん、顔が見えないわ。」
蝶子が顔の角度を変えながら写真を覗き込む。気持ちは分かるが見えるわけがない。
「蝶子、さっきのヴィオラ主席の話の中で、土橋みみがオケを辞める直前の様子を話してくれたよね。私は、この隣の後ろ姿の男性が全ての鍵を握っていると思っている。」
「全てって、蓮さんが調べている不正の件も、オケメンバーの入れ替わりの件も、土橋みみの件もって事?」
「そう。実は犯人の目星もついているんだ。あくまでも私の推測だけどね。」
響の言葉に、写真を覗き込んでいた二人が弾かれたように顔をあげる。
「「誰?!」」
二人が同時に言う。
「リアホールの館長と事務長の両方。あるいは事務長、または館長。」
そこまで言うと、響はカップをゆっくりと口に運んだ。そして続けた。
「推測だけど、聞きたい?」
響がニヤリとする。蝶子も完太も激しく首を縦に振る。そこで響が口を開きかけると、完太が立ち上がった。
「ちょっと待ってて。ハーブティーのお替りを作ってくるから。」
キッチンカウンターの向こうに移動する完太を見ながら蝶子が響に尋ねてきた。
「いつから疑ってたの?」
「蓮さんから不正のコードの読み上げを聴いた時からだよ。あまりにもフルートに執着していたから、リアホール側の関係者以外だとは考えられなかったんだ。確信したのは、リハホールのリハーサル室で宮元先生の言葉を聞いた時かな。」
「ねえ、響。どうして犯人は土橋みみに執着しているの?なんで彼女の退団後が掴めなかったの?」
「簡単だよ。好きなんだろ、土橋みみが。しかも誰にも触れさせたくないんだよ。だから…隠した。愛だよ。かなり歪んでるけど。私もその気持ちは分かる。でも、私の場合は違う。閉じ込められないんだ。飛ぶ姿が美しいから、いつまでも眺めていたい。」
響が、写真に目を落としながら、少し筋張った節高の美しい指でその縁をスルリと撫でる。
『飛ぶ姿が美しいから、いつまでも眺めていたい』
蝶子の背中に何かが走り、胸が高鳴った。
響は無意識かもしれない。たまにこうやって揺さぶりをかけられる。私が肩にとまれば、必ず野に放つ人なのに…。
「お待たせ〜。蝶子ちゃんはジャスミンティー、響ちゃんはミントティー、僕は黒烏龍茶!」
完太がカチャカチャとお茶を運んでくる。
「完ちゃ〜ん、ダイエットなんかしなくて良いっていつも言ってるだろ?痩せた完ちゃんがご飯作ってくれても、美味しく思えないんだって。」
「良いの!僕は蓮さんみたいなスマートなボディーに憧れがあるの!」
「じゃあ、何回目のダイエットか言ってみろよ。」
「うっ…」
「ちょっと響!聞き捨てならないわね。ダイエットはね、常に自分との戦いなのよ!連敗しながらも、理想というゴールに向かって何度でも挑戦するのよ。これは妥協を許さない戦いなのよ!」
項垂れていた完太が味方を得て復活する。
「ほほう?そもそも君たちはなぜ妥協を許さないんだ。良いお知らせをしてあげよう。肥満かどうかを決める脂肪細胞は3歳までしか成長しないらしい。よって、幼少期より大きかったと言う完ちゃんは痩せることはない。それが完ちゃんの良さなんだ。そして蝶子。君は胸の大きさを酷く気にしているが部分だけ痩せることは不可能だ。他は細い。君はいつも他の女性陣に殺されそうな発言をしている事に気づけ。出るとこ出てるんだから良いだろ。」
蝶子が真っ赤になって反論してきた。
「胸が大きいと太って見えるの!私のコンプレックスなのよ!響はどうせダイエットの経験どころかコンプレックスも無いんでしょうね!」
「いや、あるよ。」
さらっと返すその響の横で、完太が笑顔で怒っている。
「…響ちゃん?いつも蝶子ちゃんのどこを見てるのかな?」
「いや、そこしか見てないわけじゃない!二人とも真実だろ!」
「言って良いことと悪いことがあるんだよ?」
蝶子が胸を隠して頷いている。聖域で眠るビビに助けを求めたが、ため息と共に無視された。こんな時にインターホンが鳴ったら良いのにと考えていたら、本当に鳴った。いつもなら完太任せだが、今は率先して応対する。来客は蓮だった。
〜ビビ様と響ちゃん2〜
響「ビビ〜!お前かっ!」
手には泥だらけになったクマさん柄パジャマが握られている。
ビビ「…フン!(毛布の仕返しですわ!)」
響「…毛布の仕返しのつもりか?」
ビビ「ヴ〜!(当たり前ですわ!)」
響「良いか?これを洗うのは完太だ(高笑い)!つまり完太とイチャつく時間を自ら潰したんだ!」
ビビ「ピャッ…(しまった!)」
完太「響ちゃん?いつも汚された物を洗ったりクリーニングに出したりする僕の気持ちを知るためです。たまには自分で洗いなさい。ねぇ〜ビビ。」
ビビ「クゥ〜ン(ご主人様、大好き!)」
響「ぐっ…理不尽なっ!」
この後、洗濯室が泥&水浸しになり、台所に続き洗濯室も出禁になった響だった。
完太「…………ハァ……」
(特大のため息)




