8.またたく〜Luccicante〜
どうぞ、澤田のファインプレーをご覧ください。
私の予想では、読者さん達は「和臣派」と「澤田派」に分かれている気がします。
『土橋』その言葉の響きを受け、再びツタのようなものがザワザワと伸び始める。この違和感はなんだ?肌が粟立ち、地鳴りが激しくなる。
その時、ギュウッと重いゴムが擦れるような音と同時に、新鮮な空気が流れ込んできた。澤田だ。
「響さ〜ん!こんなとこに居たんすかぁ?ほら〜インタビューの順番きたっすよ〜。も〜突然消えないでくださいよ〜。ほら、宮元先生も行きますよ〜。」
響は澤田が流し込んだ新鮮な空気『だけ』を吸い込んだ。ツタは静かに地面に落ちる。
響は右腕の捲ったシャツの袖を触りながら、宮元の目を見て言った。
「先生、ありがとうございました。出番のようです。一緒に行きませんか?」
こうして2人と1人は、リハーサル室を後にした。
響が面倒くさがっていた全てのインタビューと雑誌用の撮影が終わったあと、いよいよ宣材写真の撮影が始まる。撮影用の様々な機材がリアホールのステージや客席に組まれ始める。響は楽屋でスタイリストにより衣装に着替えさせられ、ヘアメイクを施される。自分は演奏以外で注目されるのはあまり好きじゃない。そのへん、蝶子は何でも好きそうだな…着飾るのも、写真に撮られるのも。それを考えると少し体が緩んだ。
「響さん、準備は良いっすか?」
楽屋の外から澤田が声を掛けてきた。スタイリストの女性が「どうぞ」と代わりに返事をすると、ズカズカと澤田が入ってきた。立ち上がった響を、無遠慮に頭から爪先まで眺めてニヤニヤする。響はそんな澤田を無視し、チェロを掴むと、革靴を鳴らしてステージへ向かった。慌てて澤田が着いてくる。自分の衣装ではないせいか、糊が利きすぎているせいなのか、衣装がカサカサと動きづらい。舞台袖からステージに出た瞬間から、カメラのフラッシュとシャッター音が喧しく鳴り響いた。そんな中、カメラマンの助手の男に、ステージ中央の妙に小洒落た椅子に案内され、そこに座った。すると今度は何か演奏するように促された。少し考えていると澤田がカメラマンの向こうで何かやっている。ライトで見えるか見えないかの微妙な位置だ。ホワイトボードか?『ちょうこさんのすきなきょく』。澤田よ、漢字で書け…あと…だからお前は嫌なんだ。
蝶子の好きな曲…ゆっくり瞬きをし、深呼吸をする。視界が幽かになる。
長い手足を少し持て余すように優しくチェロを抱き寄せ、弓を持った右腕を引いていく。あの美しい指が愛おしそうにチェロに触れる。ポンセ作曲《エストレリータ(小さな星)》。元はスペイン語の歌曲で、星に「あの人の気持ちを私に教えて」と願う曲。蝶子がよくコンサートで演奏する曲だ。ホールが静まり返り、暗闇に星空と穏やかな波の音が訪れる。ただ一つの願いを慈しむように…。チェロ以外の音が消え、響以外の全てが薄れていく。空間の全てを飲み込む。それがチェリスト『Kyou Suzuki』の放つ音だった。
曲が終わっても、誰一人、動く事が出来なかった…。
皆様、ごきげんよう。ビビですわ。まあ、なんてことでしょう!私の召使い(下僕)が初めてまともにチェロを弾いてますわ。チェリストはオマケ設定か何かかと思っていましたのよ。もちろん、自宅で練習しているのも知っていましたけど、服を脱いでいく何かのゲームかと思っていましたのよ。なかなか…やりますわね。




