60話: 残された結晶と、救いの北極星
蒼い炎が、夜の砂漠を静かに焼き尽くしていく。
さっきまで傲慢に喚き散らしていた魔人の姿は、もうどこにもない。カイトが振るった青龍刀の一撃は、魔人の肉体だけでなく、その邪悪な意志さえも根こそぎ断ち切っていた。
「……あ。……やりすぎたか」
カイトは、手元で静かに脈打つ青龍刀を見つめ、ぽつりと呟いた。
あまりにキレ味が鋭すぎて、本来聞き出すはずだった情報源まで、塵一つ残さず消し飛ばしてしまったのだ。
「ちょっとカイト! 何やってんのよ! 情報を吐かせるんじゃなかったの!?」
後ろから、ようやく魔力が少し回復したカナデが、ふらつきながら駆け寄ってきた。その後ろでは、傷だらけのレナードが剣を杖代わりに、感動に震えながら立ち尽くしている。
「……悪い。……『重い棒』を振る感覚が思ったより良すぎてさ。……つい、加減を忘れた」
「加減を知りなさいよ、このお馬鹿! あいつ、あの男の居場所を知ってたんでしょ!?」
カナデの正論に、カイトはバツが悪そうに視線を逸らした。
だが、その視線の先――魔人が消滅した場所の砂地に、一つだけ、焼かれずに残っているものがあった。
「……ん? なんだこれ」
カイトがしゃがみ込み、砂の中からそれを拾い上げる。
それは、どす黒い輝きを放つ、親指ほどの大きさの「紫色の結晶体」だった。魔人の体は消えたが、彼が隠し持っていた「記憶の断片」が、青龍の雷に焼かれたことで純粋な結晶として抽出されたらしい。
「それは……『思念石』ね。魔族が情報を記録したり伝達したりする時に使う媒体よ」
カナデが覗き込む。
カイトがその結晶に、ほんの少しだけ青龍の魔力を通した。
すると、虚空に揺らめく影のような、ノイズ混じりの映像が浮かび上がる。
『……次は……北の最果て……「凍てつく孤島」に……四聖獣の一柱……「玄武」が眠る……』
ノイズと共に、漆黒の外套を纏った「あの男」の後ろ姿が映し出された。
カイトにとって、家族の平穏を奪った憎むべき宿敵。
『玄武を目醒めさせよ……。奴の持つ「万象治癒」の力さえ手に入れば……どんな呪いも、死の淵にある命さえも、意のままに操れるようになる……』
映像はそこで途切れ、結晶はサラサラと砂になって崩れ落ちた。
「……万象治癒。どんな呪いも、か」
カイトは立ち上がり、青龍刀を背中に固定した。
今の言葉を聞き逃さなかった。母を蝕む、あの忌まわしい闇の呪い。それを解くために必要なのは、北に眠る玄武の力。
「カイト、聞いた? 玄武の力があれば、お母様の呪いもきっと……!」
「ああ。……今までは闇雲に手がかりを追ってたけど、これでハッキリした。玄武に会って、その力を借りる。それが母さんを救うための最短ルートだ」
カナデが力強く頷く。玄武は四聖獣の中でも最強の守護と、あらゆる不浄を浄化する治癒の力を司る。その力さえあれば、絶望的だと思われた母の容態も、一気に完治へと向かうはずだ。
「レナード。次は極寒の地だ。……お前、寒さには強いか?」
「騎士たるもの、いかなる過酷な環境にも耐えてみせます! ……ですがその前に、師匠。……俺、ちょっとだけ……休んでもいいでしょうか」
安心したのか、レナードがその場にへたり込んだ。
「……ああ。お前の『守り』のおかげで、俺は今ここにいる。……ありがとな、レナード」
カイトの珍しく素直な感謝に、レナードは顔を真っ赤にして照れ笑いを浮かべた。
青龍の力を完全に掌握し、母を救うための旅は、いよいよ最大の希望へと向かって加速していく。
「待ってろよ、玄武。……そして、母さん。……俺が必ず、救い出してみせる」
15歳のカイトは、凍てつく北の空を見上げ、力強く一歩を踏み出した。




