61話: 砂漠のさらば、そして毛皮の悲劇
魔人を粉砕した翌朝。カイトは爽やかな朝日の下で、昨夜のシリアスな自分を思い出しては、少しだけ顔を赤くしていた。
「(……俺、昨日『予定より早く起きちまったよ』とか言っちゃったな。恥ずかしい……。中二病パッチでも当たったのか?)」
カイトが井戸端で青龍刀(見た目はただの棒)を無心で磨いていると、全身を包帯で巻かれ、まるで「歩くミイラ」と化したレナードがよろよろと現れた。
「師、師匠……。カナデさんの治療(火炎消毒)、あれ絶対わざとですよ……。俺、今ならこんがり焼けたパンの気持ちが分かります……」
「元気そうで何よりだ。で、その包帯の隙間から漏れてる情けない声は、旅の準備ができたって解釈でいいのか?」
「無理です。……いや、無理ですが、やります! 騎士ですから!」
レナードが気合で胸を張ると、包帯がパチンと弾けて砂漠の風に舞った。
「はいはい、お疲れ様! さあ、湿っぽくて暑苦しい砂漠とはおさらばよ!」
そこへ、魔力も機嫌も完全復活したカナデが、両手に山のような「毛皮」を抱えてやってきた。
「いい、カイト。北の『凍てつく孤島』は、息をした瞬間に肺が凍るって噂の極寒地よ。そこらへんのバザールで売ってる一番分厚い防寒具を買ってきたから、今すぐ着なさい!」
そう言ってカナデがカイトに投げつけたのは、真っ白でモコモコした、巨大な**「イエティの毛皮」**だった。
「……お姉さん。これ、着るっていうか、俺が毛玉に飲み込まれるサイズなんだけど。機動力ゼロだよ。防具っていうより、ただの動く布団だろこれ」
「贅沢言わない! 見なさいよ、レナードなんて似合ってるわよ!」
振り返ると、レナードはさらに巨大な**「茶色の熊の毛皮」**を着せられていた。包帯の上から毛皮を着たせいで、もはや人間というよりは「怪我をした野生の熊」にしか見えない。
「師匠……。俺、暑いです。砂漠でこの格好、玄武に会う前にセルフで蒸し焼きになります……」
「……お前、そのまま魔物に間違えられて狩られないように気をつけろよ」
夕刻。一行は商船の甲板にいた。
周囲の船乗りたちは、モコモコの毛玉と、巨大な熊が乗り込んできたことに、引きつった笑いを浮かべている。
「……よし、出発だ。さらば、俺を燃費不良で苦しめた砂漠。次は、どんな困難が待ち受けてるか知らないけど……」
カイトが青龍刀を構え、格好良くキメようとしたその時。
「あ、カイト! 船が出るわよ! ほら、船酔い止めの薬、今のうちに飲んどきなさい!」
「うぇっ、苦っ……! 待てお姉さん、鼻に突っ込むな……!」
「師匠ー! 熊の毛皮が手すりに挟まって動けません! 助けてくださーい!」
「……ああ、もう。どいつもこいつも、非効率すぎる……」
船は波を切り、北へと進路を取る。
カイトの心には、母を救う「万象治癒」への希望と、**「この仲間たちと一緒に一ヶ月も船に乗って、俺の精神は保つのだろうか」**という深刻な不安が渦巻いていた。




