52話: 青龍刀の暴走と、砂漠の深夜残業
遺跡を後にして数日。夜の帳が下りた砂漠は、昼の酷暑が嘘のように凍てつく冷気に包まれていた。だが、その一角だけは、凄まじい熱量と蒼い火花で大気がパチパチと鳴り響いている。
「……はぁ、はぁ……。お姉さん、マジで……一度、強制終了させてくれ……。この武器、持ってるだけでMPが漏電してんだけど。脳のメモリがじりじりと焼ける匂いがすんだよ……!」
カイトは、新兵器**【青龍刀】**の柄を両手で握りしめ、砂地に膝を突きながら激しく肩を上下させていた。その全身からは、制御しきれない蒼い稲妻が細かく放電され、周囲の砂をガラス状に焼き固めている。
ただ構えているだけではない。目の前には、サディスティックな笑みを浮かべるカナデが立っていた。
「何言ってるの! その青龍刀は、あなたの溢れすぎる魔力を一本の『線』にまとめるための外部出力装置(物理デバイス)よ! 漏電してるのは、あなたがまだその『帯域(バンド幅)』を絞り込めてないからよ! ほら、次が来るわよ!」
カナデが指先を優雅に弾く。瞬間、陽炎のような歪みと共に、超高速の火炎弾――【朱雀・一弾】が三発同時にカイトへ襲いかかった。
「クソッ……【縮地】……ッ!!」
カイトは強引に魔力を増幅させ、加速した世界の中で青龍刀を振り抜こうとする。狙いは火炎弾の「核」を刃先で弾き、そのまま風の刃でカナデへカウンターを叩き込むことだ。
だが、その瞬間。
――ビキィィィィィンッ!!!
「なっ……!? 勝手に吸い上げ(ドレイン)……っ、やめろ!!」
青龍刀の刀身が、カイトの意図を無視して青白く激しく発光した。カイトが「クリック」もしていないのに、武器側が「勝手に全電力を一箇所に集中させた」のだ。
「――っ、しまっ――」
ドォォォォォンッ!!!
カイトの意思とは無関係に、超弩級の雷撃が放たれた。飛来した火炎弾は蒸発するどころか、分子レベルで分解され、背後の巨大な岩山までが衝撃波で粉砕される。しかし、その反動は凄まじかった。
「あががががががっ……!!!」
自分の放った雷の余波と、過剰なMP消費による虚脱感。カイトは糸の切れた人形のように後方へ十メートルほど吹き飛び、砂漠に激しく激突した。
「……っ……げほっ……。出力制御が、一ミリも効かねぇ……。クリック一つでハードディスクの全データを消去するような、過敏すぎるマウス(武器)を使ってる気分だ……。感度設定(感度)が高すぎて、触れるだけで世界が滅ぶぞ、これ……」
砂まみれになりながら、カイトは吐き捨てるように言った。右手の感覚は麻痺し、視界の端には「魔力残量低下」の警告ログが点滅しているかのように、意識が遠のいていく。
「あら、まだ生きてるわね。じゃあ、次のパッチ(修行)当てるわよ?」
「……お姉さん、あんた人間じゃねぇだろ……ブラック企業のCEOかよ……」
カイトは震える腕で、再び「重すぎる」青龍刀を握り直した。




