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蒼雷の征く果て〜青龍の力が強すぎて、俺の平穏が常に更地になる件〜  作者: セルライト
少年期

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幕間: 不落の巨石

世間は彼を、大陸随一の剛腕、あるいは「不落の盾」と呼んだ。


だが、彼自身にとってのアイデンティティは、ただの「一人の男」であり、「一人の夫」であり、そして「一人の父親」であることだった。


若き日のガモンは、戦場を渡り歩く荒事師だった。「力こそが真理」という脳筋ロジックで生きていた彼が、人生最大の「計算不能なバグ」に出会ったのは、ある雪の戦場だった。

敵軍に囲まれ、冷徹に「断糸」を操る女、レン。


「……暑苦しい男ね。死にたいの?」


「死ぬかよ! お前を連れて、美味いもん食いに行くまではな!」


飛来する切断の糸を、鍛え抜いた右腕の筋肉だけで弾き飛ばしながらガモンは笑った。それが、最強のレンと最強のガモンが、一つの「家庭」というサーバーを構築した始まりだった。


二人の間に新しい命が宿った日、ガモンは産室の前で、生まれて初めて「武者震い」ではない震えを経験していた。

そして、その瞬間は来た。

赤ん坊の産声と同時に、晴天の空から巨大な蒼い雷が自宅を直撃したのだ。


「――ガハッ!?」


凄まじい衝撃波。カイトが生まれ持った「青龍」の力が、産声と共にオーバーフローした結果だった。

煙の中から現れたガモンは、全身の毛が逆立ち、見事すぎるほどのアフロヘアーになっていた。


「……ガモン。その頭、どうしたの……?」


「ガハハ……! レン、見てみろ! こいつはとんでもねぇ『高出力』だぞ! 俺の髪が全部リブート(再起動)しちまった!」


アフロ姿で涙を流し、生まれたばかりのカイトを抱き上げたガモン。

その日、ガモンは決めた。この規格外の「光」を、何があっても守り抜くと。


カイトが成長し、「サボりたい」「楽をしたい」と死んだ魚の目で愚痴をこぼすたび、ガモンは豪快に笑ってその背中を叩いた。


「いいじゃねぇか! 楽をするために強くなる、最高のロジックだ!」


ガモンは、カイトの「効率化」という名のサボり癖を一度も否定しなかった。むしろ、そのために魔法を極めるカイトを、誰よりも誇らしく思っていた。

カイトが学園へ旅立つ日、ガモンは何も言わず、ただ力強く拳を合わせた。


「(……カイト。強くなれ。お前の求める『平穏』を、誰にも邪魔させないくらいにな)」


そして、あの夜が来た。

カイトが五年の修行を終え、ようやく戻ってきた食卓。

ハチミツの香りが漂う居間。レンの小言。カイトの気だるげな笑い声。

ガモンにとって、これこそが「最強の盾」として守り抜くべき、唯一の領域だった。

だから、空が裂け、魔族が降り立った瞬間。

ガモンの中に「恐怖」はなかった。あるのは、ただ一つの明確な処理命令コマンド


『家族に指一本触れさせるな』


「――カイト! 下がってろぉ!!」


それが、息子にかけた最後の言葉になった。

ガモンは知っていた。目の前の化け物は、自分の「防御力」では到底受け止められない。

だが、一秒。いや、0.1秒。

自分が肉壁となって時間を稼げば、カイトなら、レンなら、生き残れる。


「ガハハ! お前、ウチのメシの邪魔をする奴は、神様だろうが魔族だろうが叩き出すのが家訓なんだよぉ!」


魂を燃やし、全身の血を沸騰させる。

あの誕生の日、自分をアフロにしたカイトの雷を思い出しながら、ガモンは巨躯を跳ね上げた。

(……カイト。生まれた時から、お前は俺の自慢だったぜ……)

(……レン。……最高のパンケーキを、ありがとな……)

魔族の手が振られ、世界が断絶した瞬間。

ガモンが最期に見たのは、家族と共に過ごした、ハチミツのように甘く、雷のように刺激的な日々の記憶だった。

【ガモン・全ログ終了】

【ステータス:守護成功(カイトとレンの生存を確認)】

ガモン、享年四十二歳。

大陸最強の盾は、その最期まで不器用な笑顔のまま、家族の未来を「不落」のものにした。

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