47話【再起動】泥中の謝罪と、二人のデバッガー
カナデの鉄拳と叱咤を受け、カイトの視界を覆っていたどす黒い霧が、わずかに晴れた。
頬を伝う涙はまだ止まらないが、その瞳には「母を救う」という明確な一筋のログが走り始めていた。
カイトはふらつく足取りで、泣き崩れたままの実家の跡地へと戻る。そこには、蹴飛ばされた支援物資を必死に拾い集めているリナの姿があった。
「……リナさん」
「カイト様……! す、すみません、すぐに片付けますから。泥がついたパンも、私が責任を持って……」
「……ごめん」
カイトは、リナの前に膝をつき、深く頭を下げた。
「……八つ当たりした。全部、自分の無力さのせいなのに……あんたのせいにした。本当に……ごめん。最低なのは、俺だ」
「カイト様……」
リナの手が止まる。カイトの震える肩を見て、彼女は優しく、泥のついた手をその細い背中に添えた。
「……いいんです。カイト様が一番辛いのは、分かっていましたから。……生きていてくれて、ありがとうございます。それだけで、私は十分ですから」
カイトは、前世でも今世でも味わったことのない「無条件の許し」に、再び鼻の奥を熱くさせた。
次にカイトが向かったのは、呆然と立ち尽くしていたレナードの元だった。
最強の騎士と呼ばれながら、師匠に拒絶され、その心は粉々に砕け散っていた。
「……レナード」
「……師匠。……俺は、もう……」
「……さっきのは全部、俺のバグだ。……お前は『お荷物』なんかじゃない。……お前がいたから、俺は学園で『ただの子供』でいられたんだ。……あんなひどいこと言って、本当に悪かった」
カイトは、レナードの目を見て真っ直ぐに謝罪した。
すると、レナードの死んでいた瞳に、爆発的な光が戻った。彼はカイトの言葉が終わるか終わらないかのうちに、その場で片膝をつき、騎士の礼を取った。
「……師匠! そのお言葉だけで、俺の魂は修復されました! 謝罪など不要です! 俺が未熟ゆえ、師匠に余計な負担をかけただけのこと!」
「レナード、お前……」
「師匠! その『玄武』を求める旅、俺も同行させてください! 師匠の盾となり、矛となり、西の果てまでこの命を捧げます!」
レナードの顔は、先程までの絶望が嘘のように、希望とやる気に満ち溢れていた。むしろ以前よりも「重い」忠誠心が上書きされている。
「(……相変わらずの熱量だな。……でも、今の俺には、こいつの『光』が必要だ)」
カナデが、そんな二人を満足げに見つめながら、大きな荷物を放り投げた。




