第46話: 【破綻】泥濘の廃人
全てを失い悲しみにで他者に八つ当たりをするカイト
「――いい加減に、しなさいよ!!」
鼓膜を突き破らんばかりの怒声と共に、カイトの視界が真っ赤に染まった。
カナデの拳が、カイトの顔面を捉え、数百メートル後方まで吹き飛ばす。
「(……あ、れ……?)」
「何が『お前のせい』よ! 何が『邪魔者』よ! 自分の無力さを他人のせいにして、ドブの中で腐ってるだけのゴミが、偉そうに能書き垂れてんじゃないわよ!!」
カナデは、地面に転がるカイトの胸ぐらを掴み上げ、何度も、何度も殴りつけた。青龍の加護で守られたカイトの肌が裂け、血が舞う。
「……殺せよ。……どうせ俺は、何も守れなかったんだ。……最強になっても、母さん一人救えない……。……死なせてくれよ……!」
カイトは、カナデの腕の中で、ついに子供のように泣き崩れた。
泥と血にまみれ、かつてのプライドも、転生者の余裕も、全てを失って、ただの「壊れた十四歳」として叫んだ。
「……うわぁぁぁぁ! ごめん……ごめんよ父さん! 母さ
ん……! 俺が、俺がもっと早く……! 俺が、バグだったんだ……!!」
カナデは、震えるカイトを強く抱きしめた。その炎は、今は熱くなく、ただ凍えたカイトの心を溶かすように温かい。
「……泣きなさい。全部吐き出して、空っぽになりなさい。……でも、死なせないわよ。まだ『修正』の余地はあるんだから」
カナデは、カイトの耳元で静かに囁いた。
「聞きなさい、カイト。……この大陸の西の果て、『最果ての氷原』に、玄武の力を宿した女性が隠れ住んでいるという噂があるわ」
「……玄武……?」
「そう。万物を癒やし、再生を司る絶対の盾。……彼女の力なら、壊れたお母様の精神さえも『再構築』できる可能性がある」
カイトの瞳に、一筋の光が宿った。
絶望という名の暗闇に、唯一残された「仕様変更」の希望。
「……母さんが……治るのか……?」
「可能性があるのは、そこだけよ。……行くんでしょ? 泣いてる暇があるなら、その足を動かしなさい」
カイトは、泥だらけの顔を上げた。
父は死んだ。自分は落ちぶれた。仲間も傷つけた。
けれど、母を救うという「残業」だけは、命を賭してでも完遂しなければならない。
「……行く。……西の果てまで。……何があっても」
カイト、十四歳。
絶望のどん底から、一縷の希望を求めて。
「サボり魔」としての人生を捨て、壊れた母を救うための、孤独な「デバッグの旅」が今、始まった。




