第44話: 業火の救済と、消えた光
「……チェックメイトだ、青龍の小僧。お前のログはここで削除される」
魔族が、とどめの黒い雷を指先に集めた。
「――私の弟子を、勝手に削除しないでくれるかしら?」
天から、全てを焼き尽くすような紅蓮の業火が降り注いだ。
魔族が放とうとした黒い雷が、その炎によって中和され、霧散する。
「チッ……朱雀の化身か」
炎の中から現れたのは、かつてないほどに険しい表情をしたカナデだった。
彼女の背後には、巨大な朱雀の翼が顕現している。
「……カイト、大丈夫? ……ごめんね、間に合わなくて」
「……あ、お姉……さ……」
カナデの攻撃に苛立ちを見せながらも、魔族は高度を上げていった。
「……興が削がれたな。青龍の芽は摘んだ。……さらばだ、朱雀」
魔族は漆黒の霧となって消え、静寂が戻った。
だが、そこにあるのは「平穏」ではない。
数日後。
カイトは、瓦礫の山となった実家の跡地に座り込んでいた。
父の遺体は、形を留めていなかった。
母は、時折奇声を発しながら、虚空に向かって「カイト、パンケーキが焼けたわよ」と笑いかける壊れた人形になった。
「(……はは。……なんだよ、これ)」
カイトは、かつて大切に磨いていた『魔力の石』を、ドブの中に投げ捨てた。
綺麗なものなんて、何の意味もない。
最強を目指して、サボるために努力して、結局、一番守りたかった「幸せ」すら守れなかった。
「カイト……食事だけでも、摂りなさい」
カナデが背後から声をかけるが、カイトは振り返りもしない。
その瞳は、かつての「死んだ魚の目」とは違う。
全てを呪い、拒絶し、泥にまみれた「獣」の目だった。
「……うるせぇよ。飯? んなもん食って、また明日から元気に修行でもしろってか? ……笑わせんなよ」
カイトは、父の形見である割れた酒瓶で、自分の腕を浅く切り裂いた。
痛みだけが、自分がまだ生きているという「エラー」を実感させてくれる。
「……定時に帰る? ……ホワイト環境? ……あははは! クソ食らえだ。世界なんて、最初からバグだらけのクソゲーじゃねぇか」
カイト、十四歳。
「サボり魔」としての少年期は、父の血と母の狂気、そして己の無力感の中で、最悪の形で幕を閉じた。
カイトの心から、青龍の澄んだ蒼が消え、昏い復讐の雷だけが燻り始める。




