第42話:実力検分:【雷風】対【剛腕・閃断】
「問答無用! さあ、五年の成果をこのガモン様に見せてみろぉ!」
ガモンが地を蹴り、その重圧だけで床が弾ける。
「剛力の咆哮!」
大気を圧縮した一撃が、逃げ場のない圧力となってカイトを襲う。
同時に、母レンがその場で指先を鋭く振った。
「――『断糸・千閃』」
カイトの周囲の空間に、目に見えないほど細く鋭い魔力の「糸」が張り巡らされる。触れるものすべてをナノ単位で切り刻む、レンの絶対切断の領域だ。
「(……ったく、熟年夫婦の連携かよ。……仕方ねぇな、ちょっとだけ『残業』してやるよ)」
カイトの瞳が、一瞬だけ蒼く輝く。
【雷風同期】。
カイトの世界が止まった。
目の前に迫るガモンの拳。退路を断つように空間を埋め尽くすレンの「切断糸」。
カイトはあくびを噛み殺しながら、青龍の力を練り上げた。
「(雷で処理速度を極限まで上げ、風の刃で障害物を『除外』する。……はい、お掃除完了)」
――シュンッ!
次の瞬間、ガモンの拳は虚空を突き、レンが放った「切断糸」は、より高密度の風の刃(裂風)によって「切断し返される」形で、カイトの周囲だけがぽっかりと安全圏に書き換えられた。
「……え?」
ガモンとレンが目を見開く。
カイトは、二人の背後にある食卓の椅子に、いつの間にか座って足を組んでいた。
「……はい、終了。……父さんの拳は『重すぎ』、母さんの糸は『神経質すぎ』。……もっとこう、力を適当に抜いてさ、効率よく生きようよ。……あ、母さん。飯、まだ? 糖分、糖分を緊急要請するわ」
「……ガハハハハ! 完敗だ、レン! こいつ、俺がいつ腕を振ったのかさえ見てねぇぞ! お前、カイトは本物の『怪物』になっちまった!」
ガモンが豪快に笑いながら、粉砕された玄関を放置してカイトの隣に座る。
「……ええ。私の『糸』を、力で弾くのではなく『構造を理解して分解』したわね、あなた。……及第点よ、カイト。……ふふ、あんなに小さかった子が、私を背後から狙うなんてね……」
レンは少しだけ、本当に少しだけ、満足そうに微笑みながら台所へ向かった。
「カイト! お前、その力があれば騎士団のトップでも、宮廷の重鎮でも選び放題だぞ!」
「……やめてよ。そんな責任重大なポジション、胃に穴が開くわ。……俺の目標はね、父さん。『生涯、定時に帰れる環境』を作ること。……天下無双? なにそれ、おいしいの?」
「……相変わらずのサボり根性ね。……さあ、食べなさい。今日はハチミツをたっぷり染み込ませた『蜜漬け果実のパンケーキ』を焼いてあげたわよ」
「……母さん、愛してる。……これでこそ、俺の求めていた『ホワイト企業』だよ」
カイト、15歳。
最強の両親を相手に「圧倒的な実力差」を証明しつつ、その本質は「万年平社員」のような怠惰さを維持したまま、束の間の休息に浸る。




