フレッドの帰還
エルフ達がこの島に暮らすようになってから半月ほどだろうか。エルフ達はそれぞれ得意なことがある。白いエルフは、木や草木を増やしたり加工することが得意だ。黒いエルフは漁が得意で、海に入って貝や海老などを獲るのが好きらしい。
そんなわけで、畑をルークとユーリが。漁をエルドとソニアが担当している。リノは基本的に赤ん坊ヨナスの世話をしている。もう一人の若い女のエルフ――ミュリンというらしいが、ミュリンはゆっくりと歩く練習をしている。
ミュリンの身体は酷いもので、骨と皮だけの身体に、歩かなかったからか筋肉もない。他のエルフ達は一日二食だが、ミュリンだけは五回食わせている。喰う量も少ないし果物しか食べない。これは長期戦になりそうだ。
それでもミュリンは蛇達を可愛がっていて、蛇が干し肉を渡すと食べたりするのでもっとやる様に蛇達に伝えていたりする。
「ルーク、トウモロコシはどうだ?」
「順調だよ。ちゃんと収穫できると思うから、心配しないでいいって」
「今のところ唯一の穀物だからな…つい気になってしまうんだ。早く増やせる様になるといいんだが…」
「大丈夫よぉ、アタシ達がいるのに枯れたりしないわよ!うふふ」
ユーリ婆さんに笑われてしまった。ユーリ婆さんとルークが世話をし始めてからは、なんだかサトイモもぐんぐん葉を増やし、トウモロコシもスクスク伸びていてびっくりする。
畑も漁もやらなくていいとなると、俺の仕事はルークが切っていいという木を切るか、狩りをするか、塩をとるか、ミュリンの世話ということになる。大体ミュリンの世話である。
今はチビ達とタヌキ達がミュリンに干し肉を食わせているから、さて何をしようか。そんなことを考えていると、スッと大きい蛇ことミディと名付けた蛇がやってきた。
《ウェルナー、フネ、クル。マエ、キタ、ニンゲン》
「前に来た人間?……あ、フレッドか!」
《アシタ、ツク、イッテタ》
「おお。ありがとな!大蛇にもあとでフレッドを会わせたいと言っておいてくれ」
ミディはうんと頷いた。最近話せるようになった…とは聞いたが、片言なのである。それでも意思疎通は格段にしやすく、大蛇との連絡係にもちょうどよかったりする。
夕方になるとエルフ達は森の拠点に集まってくるので、フレッドの話をする。商人で、この島に必要なものを届けに来たのだと。
「最初は俺がフレッドの相手をする。フレッドにエルフのことを聞いてみて…それから、みんなを紹介しようと思う。
そんな奴ではないと思うが、エルフ嫌いだったら、蛇達に大蛇のところに連れて行ってもらって、しばらくはそこで過ごしてくれ」
「ウェルナー様、ワシらは大丈夫じゃよ。そういう人間には慣れとるし、知らん顔してヘコヘコしとくわい」
そんな風にエルフ達はケラケラと笑った。結局明日は俺の隣で堂々と荷下ろしを手伝うと言った。
翌朝、俺とエルド爺さん、ソニア婆さん、ユーリ婆さん、ルークの五人で砂浜でフレッドの商船を待っていた。霧の中にぼんやりと船が見えてきた。以前より大きな船で、霧に迷うことなく真っ直ぐにやってきた。見た感じ二艘だから、予定通り船を買って来てくれたみたいだな。
おーいと手を振ると、ようやく男たちが手を振っているのも見えた。フレッドだ。
「おーい!ウェルナー殿ぉ!!行商に来ましたよぉお〜〜!」
「お帰りフレッド!!!」
フレッドの乗った船には二人の少年とお爺さんという感じの人が乗っていて、後ろの船にはがっちりとした男が二人乗っている。人を雇ったらしい。
船を岸につけたフレッドは、俺の元へ走ってきて抱擁を交わした。
「お元気そうでよかった!約束通りたっくさん品物を持ってきましたよ」
「フレッドこそうまくやったみたいじゃないか。今か今かと待っていたよ。あ、紹介しよう…うちの島に移住したエルフ族のエルド、ソニア、ユーリ、ルークだ。よろしくな」
「おお、エルフ族とはこれはまた珍しい!私はウェルフレッド商会のフレッドと申します。ウェルナー殿共々、ご贔屓によろしくお願いしますよ」
エルフ達を紹介すると、フレッドは特に嫌がることもなくそれぞれと握手をしてくれた。続いて、フレッドも船員たちを紹介してくれた。
「こちらが航海士のジャン殿、商人見習いのラックとリック、それと護衛兼荷運びのガイオン殿とギゼル殿です。今後も、彼らがお世話になると思いますのでよろしくお願いします。
……それから、もちろんですが全員に魔法契約をさせております。もしこの島のことを口に出そうとした時には、死を与える契約ですので、ご安心ください」
「…ありがとう。だったら本当に歓迎するよ。今日はゆっくり休んでくれ」
「こちらこそ歓待痛み入ります。お前達、ほら、荷下ろしをしておくれ」
それからは、エルド爺さん、ルークと俺は荷下ろしを手伝い、ソニア婆さん、ユーリ婆さんが食事の支度をすることとなった。
積荷はとんでもない量で、日持ちする干し肉や干し芋、干し茸を2樽ずつ、ウィスキーを1樽、蜂蜜酒を1樽、砂糖、胡椒、香草、香辛料を木箱1つずつ。農具、調理器具、食器、漁具、酪農具、寝具などなどかなり幅広い品を用意してくれたらしい。
更に驚いたのは干し草だ。干し草を10ロールも用意してきたから、何事かと思ってしまった。
「こ、この草はどうした?」
「ああ、はい!家畜が欲しいと仰っていたので馬と牛と鶏をご用意したのですが、急にとなると家畜の餌がないかと思いまして。牧草が生えるまではこの干し草で凌いでいただければと…」
「そういうことか」
フレッドは馬を番で二頭と、牛を雄一頭、雌一頭とその雌が産んだ子牛一頭、鶏を雄二羽と雌四羽仕入れてきたのだという。おまけに幌馬車も買ってくれたそうで、荷物を乗せて海から森の拠点まで運べるようにしてくれたのだ。
そんなわけで、馬と牛のための干し草を用意してくれたのだとか。牧草の種を買ってきたそうなので、牧草地を作るまでの干し草なのだ。
「まさかウェルナー様以外の方がいらっしゃるとは思わず…次回来る時には、もう少し食糧をお持ちしますね。……あ、そうでした!こちらもウェルナー様にお渡ししようと思っていたんでした」
渡されたのは首飾りで、そのロケットの中には鏡があった。
「これは通信用水鏡といいまして、持っている人同士がどこにいても会話ができるという魔道具です。
といっても、魔力が必要でして…私は誰かに魔力を使ってもらわないと話ができないのですが…商業ギルドにはそれをやってくれるサービスがありますので、お話できるというわけですね」
もしこちらから連絡する場合は、震えるので誰かから連絡が来たことはわかるのだそうだ。商人には必須のアイテムだそうで、ようやく買えたと嬉しそうだった。
登録の仕方の説明を受け、何か情報があったり次に持ってきて欲しいものがあったら連絡して欲しいということらしい。
荷下ろしを終えた後は、海岸の拠点でちょっとしたパーティをした。ダークエルフ達が採ってきた海産物と、サトイモ、酒とウサギ肉をふるまった。
そしてみんなが寝静まった頃、フレッドをそっと起こした。大蛇の元に連れていくためだ。一際大きいミディにフレッドを乗せて、俺は身体強化魔法で走る。
フレッドは拠点に連れていくものと思っていたのに、急に滝に連れてこられて戸惑っている様子だった。
「ウェルナー様…ここは…?」
「心配しなくていい。こっちだ」
滝から中に入る。ミディとフレッドも遅れて入ってきた。入ってきて大蛇の姿を見たフレッドは一瞬ビクッとしたが、すぐに居住まいを正した。
珍しく大蛇は起きていて、洞穴から僅かに差し込む月明かりを眺めている様だった。
「起きてたのか。言われた通り、連れてきたぞ」
《私たちは夜行性なのだが…まあお主が気づいているわけないな……商人の…フレッドと言ったか。私はこの島の支配者――ミストバジリスクの女王である》
「あ、は、はい。フレッドと申します!女王様にお会い出来て光栄ですッッッ!!!」
《…ふむ……そなたは蛇が好きだそうだな?そなたに預けた我が子達から話を聞いた。ウェルナーとも交友関係を続けるのだろう……ウェルナーと我が子らを大切にしてくれている礼だ。そこにある皮と牙を好きなだけ持っていけ。多少の金になるだろう》
「えっ?!ほ、本当によろしいのですか?!?!ミストバジリスクは滅多に現れない魔物と言われておりまして、その、とんでもない価値があるのですよ?!し、しかも白変種なんて一体いくらの値がつくのか……!」
《…ならば礼にはちょうどよいな。何せこの子どもの数だ。腐るほどあるからな。遠慮するな》
フレッドは恐る恐るといった感じで皮やら牙やら骨やらが置いてある場所を探り、目利きした大きめな皮数枚と、牙数本を大切に抱き抱える。
じゃあ帰ろうか、と話していると。
《…四日後に海が荒れる。フレッドよ、明日にはこの辺りを離れた方がいい》
帰り際に大蛇はそう言って、トグロを巻いて眠ってしまった。
滝を出ると、フレッドはホッとしたようにため息をついた。どうやら相当緊張していたらしい。
「ふぅ…ウェルナー殿がこの島を秘密にしている理由が、ようやくわかりましたよ」
などと言って納得した表情となった。
それからは海岸に向かいながら沢山の話をした。真珠を集めたこと、エルフを迎えたときのこと、トウモロコシが伸びてきたこと。フレッドは、ペリネシア王国の奪われた秘宝と前王妃のこと、これから内陸に向かって行商に行くからしばらくこれないことなどだ。
今後何が欲しいかなんかも話し合い、迷わずポーションや薬草、治癒魔法の本、ポーション作りの本を買ってきてもらう様に頼んだ。真珠も売りに出して、金貨にしてもらうように頼んだ。家畜については、もうしばらく検討してからにした。
あとはエルフ達にも聞いてみて、エルフ達は質の良い弓を欲しがった。蜂蜜をとりたいらしく、養蜂のための花の種や入れるための瓶などが欲しいそうだ。ダークエルフ達は銛と海の底に沈める漁具と、海の中で呼吸が続く魔道具を欲しがった。エルド爺さんはちゃっかり大量の葡萄酒を頼んでいた。
「じゃあな、フレッド!気をつけてな」
「ええ、ではまた!みなさんもどうかお元気で!!」
大蛇に会った翌日昼、フレッドは向かってきた時とは違い一艘で去っていった。またこの森に沢山成っている洋梨を木箱いっぱい詰めていったあたり、ちゃっかりしてるよな。




