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エルフの民



 翌日、火の消えた薪の周りに七人が眠っていた。重症の女はテントの中だ。治ったとはいえまだ病み上がりだから、寝かせておこう。


「ビノ、イノシシがいる場所まで連れて行ってくれ」


 こそこそとビノにそう言うと、ビノは先導してくれる。アルはなんちゃって拠点の見張りだ。


 しばらく森をいくと、イノシシが土を掘っていたのでサクッと狩って、血抜きと解体を済ませる。終わらせたら、肩に担いで浜辺に戻る。あの船頭の老人が目を覚ましているみたいで、俺を探しているようだった。


 森から来る俺の姿を見つけた老人はホッとした様子だった。心配させてしまったのかもしれない。


「起きたか?朝飯にイノシシを獲ってきたぞ」


「おはようございます。昨夜も十分いただいたのに、重ね重ねありがとうございます」


「俺の食事のついでだよ。ただ赤ん坊の飯がなぁ…果物の汁でなんとかしよう」


 火を熾し、解体したイノシシを焼く。老人は他の五人と赤ん坊を起こして回った。食事だ。


 すっかり元気になっている六人は水を汲んで、森から木を拾って、海岸で貝を拾ったりと非常に協力的だった。ただ白蛇達には警戒しているようで、たまにビクッとしたりする。噛み付かないって言ったのに。


 イノシシが焼き上がると、みんな改めて集まってきた。まず船頭の黒肌の老人、その隣に同じく黒肌の老婆、その隣に白肌の老婆と老婆に抱かれた黒肌の赤ん坊、白肌の壮年の男と、うすい黒肌の壮年の女だ。


 食事をしながら、改めて名前を聞いた。


「俺はウェルナーだ。この島で一人…いや、蛇達と暮らしている」


「おお、自己紹介がまだでしたな。わしはダークエルフ族のエルドで、こっちがわしの妻のソニアです」


「わたしはエルフ族のユーリと言います。この子はダークエルフのヨナスというみたいです。その…わたしたちの子ではないので、名前しかわからないのです」


「僕はエルフ族のルーク。隣は僕の奥さんのハーフダークエルフのリノだよ」


 耳が長く眉目秀麗な種族だと思っていたが、エルフ族というらしい。そういえば、昔戦闘奴隷時代に頭目の愛人の奴隷が、こんな感じだった気もするな。


 更に、なぜ船旅をしているかと聞いてみると、やはり住んでいた島から追い出された者達なのだそうだ。エルフ族が住む島には現在疫病が流行っていて、色々な手を打ったがどうにもならなかったのだという。


 なぜポーションを使わなかったのか?と聞くと、ポーションという薬があることを知らなかったという。エルフ族はエルフ族の薬が良く効くのでそれ以外の薬を作れないし、知らなかったそうだ。なのにポーションであっという間に治ってしまってなんとも言えない気持ちだという。


 まあなんにせよ治ってよかった。特に赤ん坊は、あまりにかわいそうだ。


 逆にこの島について聞かれて、俺が霧で隠している島だ。蛇が守り神で崇拝しているとざっくり嘘を交えて伝えておいた。エルフ達は何度か頷き、信じた…のかもしれない。


「さて…俺は森を見回ってくる。この拠点の周りにいる分には危険はない。みんな病み上がりなんだから、ゆっくりするいい」


 どこかにいくときは蛇達を必ず連れて行くことと、蛇達に攻撃しないように伝えて、森の中に入って行く。昨日の夜から森の拠点はほったらかしだったから、トウモロコシが心配なのである。


 拠点はほったらかしだったが特に変わらず、トウモロコシもサトイモも元気そうだった。水をたっぷりとやり、ホッとした。


 タヌキ達も勝手に食事をしたらしく、健やかに昼寝している。集まってきたチビ達を撫でてやり、引き続き留守番を頼むために干し肉を置いておく。


 昨日は色々あって疲れていたから、改めて拠点で昼寝して。夕方になってしまったから急いで浜辺に帰った。途中、鹿を見つけたから狩って戻る。


 森から戻ると、火が熾されていた。ソニアとユーリはテントの若い女の面倒を。リノは赤ん坊ヨナスをあやしているみたいだな。男たちは船の点検をしている感じだな。


「あ!ウェルナー様!鹿を狩ったのか?」


「ああ。その、ウェルナーでいいぞ?というかみんな寝ていればよかったのに…無理はしていないか?」


「大丈夫だよ。もうすっかり元気で…寝てる方が身体に悪いよ!きゃはは!」


 リノはそんなことを言って豪快に笑った。リノの声にエルフ達が続々と集まった。エルドとルークが鹿を食べやすいようにして、女達が塩で揉んで味付けして焼く。果物を潰したものをヨナスのために用意した。


 チラッとテントの方を見る。女はまだ目を覚まさないようだ。あとでまた治癒魔法を掛けよう。


 みんなで楽しく食事を終えると、砂浜で寝る。砂は柔らかいので、寝床としては悪くないのだ。


 寝る前に、テントの中にいる女の様子を見る。まだ体力が回復していないようで、目を覚まさない。治癒魔法を使って、体力回復の魔法をかけた。簡単に言えば、俺の魔力を与えてやることで生命力を与えるみたいな感じだな。


 うまくいけば、明日には目を覚ますだろう。俺は火のまえで蛇達と共に眠った。


 次の日も、その次の日も若い女は目を覚まさなかった。これにはエルフ達が大層心配して、森の中から薬草を煎じて飲ませたり、身体を拭いたり、必死に声かけをしてみているが……。


「ウェルナー様、お願いです、もう一度!もう一度治癒魔法をかけていただけませんか!!そのためなら何でも致します!わしと妻は一生ウェルナー様の奴隷になってもいい!!!」


 エルドとソニアは急にそんなことを言い出した。俺は奴隷なんて制度を心の底から憎んでいるので、二人を奴隷にするなどあり得ないことだった。


「…二度と俺の前で奴隷になりたいなどという馬鹿なことを言うな!次に言ったらこの島から叩き出すからな。…まぁ、やってみよう。前にも言ったが効果は保証しないからな」


 珍しく声を荒げた俺に驚きと恐怖を感じた様子の二人を放置して、目を覚まさない女の元へと行った。相変わらず顔色や表情も穏やかで、呼吸も落ち着いている。生命力を与えたが、足りなかったと考えるしかない。


 おそらくだが、そもそもの身体が病弱で体力がないのだろう。こちらの想定以上に弱っていると考えていいのかもしれない。それか、なにか違う病気にも罹っているのかもしれない。となると…昔一度だけ習ったことのあるアレをやってみるか。


「トータル・ヒーリング」


 治癒するヒーリングの上がハイ・ヒーリングでこのトータル・ヒーリングは全ての悪いものを治癒するという意味の魔法だ。この間ヒーリングを使った時は、咳をする悪い病気がなくなるようにとヒーリングした。しかし、もはや何が悪いのかがわからないので、なんでも治す魔法にしたのだ。


 パァ、と薄緑の光が女を覆う。一応発動出来たみたいだな。発動したのは初めてだが、この魔法はとても魔力を使うらしい。ギリギリまでやってみるが、魔力切れになるかもしれない。


 すると女は初めて身じろぎして、ゴホッゴホッと咳き込んで……ゆっくりと目を開けた。薄緑色の美しい瞳がぼんやりと視線を彷徨わせる様は、なんとなく気だるげでセクシーだった。


「まあ、こんなもんだろう。目が覚めてよかったな」


 またまたワァッとエルフ達は歓声を上げて、泣いて喜んだ。忠誠を誓うとか一生ついていくとか何やら興奮しているが、いらないいらないと必死に固辞した。エルフ族というのは義理堅い一族なのかもしれない。


 アル、ビノにウサギを獲らせに行き、俺は森で柔らかそうな果物をとって戻ってきた。戻ってくると、若いエルフの女は座れるまでになったようだ。


 ウサギを焼いていると、エルフ族達は全員俺の前に座っていきなり土下座してきた。何事だとびっくりしていると。


「ウェルナー様。私たちを助けていただいたこと、改めて感謝致します。本当に感謝してもしきれませぬ。

 本来であれば、すぐさま自分達の村に帰るのが筋というもの…しかし、私たちはもう村には帰れないのです!いえ…帰りたくないのです!!どうか…どうか私たちをこの島に住まわせていただけませんか?!どうか!どうかっ」


「…それは、俺への恩を感じてか?ならば気にせずともいいが……」


「もちろんその気持ちがないとは言いませぬ。大きな大きな恩があるのも事実…ですが、本当の理由はウェルナー様が私たちを差別しなかったことです。

 人間は自分達以外の種族を怖がり、関係を築かず時には攻撃することも多く、交易すらしたがらない…なのに、ウェルナー様は私たちをただの病人として扱ってくださった。

 ウェルナー様のいるこの島ならば、私たちは共生して行けると、そう思ったのです」


 たしかに、奴隷時代からエルフ族や獣人族、ドワーフ族などは多かった。人間にとって人間以外は下等な種族と思っていたのだろうな。傲慢な種族だよ人間は。


 この島に住むことは構わないのだが、それを決めるのは俺ではない。あの大蛇だ。チビ達が嫌がっていないから、悪くはないと思うが…一応大蛇の所に連れて行くか。


 俺が黙って考え込んでしまったから、エルフ達は顔を真っ青にしてじっと返答を待っているようだった。


「俺の一存では決められない。前に言ったが、この島には神…支配者がいる。その方が認めてくれたら、住むことは構わないよ」


「ありがとうございます!!」


 翌日、滝の裏にいる大蛇の元にエルフ達を連れて行った。大蛇はいつものように眠っていて、なんとなくだがビノサイズの蛇達が多い気がする。昨日ビノにいくと伝えさせたから、警戒態勢なのかもしれない。俺がヨシヨシと顔を撫でるとゆっくりと目を開けた。


 エルフ達はそんな大蛇の姿を見て、ブルブル震えながらも跪き、じっと大蛇を見つめる。顔が真っ青だ。


「大蛇、この人達がこの島に住みたいんだそうだ。住んでもいいか?」


《…好きにするがよい。エルフの住むところは森や海が豊かになる。ただし、他のエルフの島との連絡は許さないよ。あっちの島のエルフ共は蛇を殺して喰うことで有名なんだ》


「え?喰うのか?」


 エルフ達はブンブンブン!と激しく首を横に振った。苦笑いなのは本当だからかもしれない。


「まぁもしこの島でそんなことがあったら、お前ら喰っていいからなー」


 チビ達は目を細めて全員がうんうんと頷く。大蛇もにっこりと微笑んでいるから、俺もにっこり笑ってエルフ達を見ておいた。激しく頷いているので、理解してくれたということなのだろう。


 大蛇からは、正式にエルフ達が住んでもいいと言質をもらい、さらには一番大きいという(ビノの5倍くらいでかい)白蛇を好きにしていいと受け取った。こいつは最近話ができるようになってきたそうで、エルフ達にも扱いやすいという話だった。


「だ、大蛇様、本当にありがとうございます。この御恩は絶対忘れません!!蛇様達を大切に扱うことを誓います!!!」


 と、こんな感じでエルフ達がこの島の住人となったのであった。





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