口減らしの民
フレッドに価値があると言われてから、毎日二枚貝採取に勤しんでいた。今のところ、麻布3つに白真珠、麻布1つに黒真珠が溜まっていた。麻袋と言っても、俺の顔くらいの大きさのやつだしそう多くはない。
だがこれ以上要らないというのも本音だ。もしこれを金貨にして売ったらかなりの額になる…らしいので、俺一人で暮らすにはもったいないのだった。
なので蛇達には海に潜らないように伝えている。
そんなわけで、最近の俺の活動は山登りがメインだ。前に登った時には大蛇と出会ったわけだが、それより上にも山は続いているわけで。山頂まで行ってみようという魂胆だ。
「…なんかこの辺から土質が変わったな」
これまで茶色の土と緑の低木があったが、中腹を過ぎると黒っぽい土や岩が増えてきて草木も少なくなってきた。先導するアルとビノはスラスラ登っているが、俺は結構きつい。
酸素も薄くなってきているようだ。度々休みながら、ちょっとずつ進む。不思議なことに、傾斜であるはずの山肌が不自然に水平にならされている場所がいくつもあった。
ビノ曰く、なんかの繁殖地とか言っている。ワイバーンみたいな絵を描いて、卵みたいなのを描いてくれている。たぶん。
「繁殖?へぇ…まぁこの島は人がいないからな、育てやすいだろうな」
その平地で狼の毛皮にくるまりながら寝て、美しい朝焼けを見たら出発だ。今日こそ頂上に行くぞ。
険しい山道をゆっくり登ると、ようやく頂上にたどり着いた。その見晴らしは最高で、この島が楕円形で、白い海岸が小さく見える。そう考えると、広いと思っていた白浜は小さいんだとわかる。
島を大きく囲うように白い霧があることもわかり、改めて大蛇の力の強さを思い知った。
「ん…?んー?なんだ?船、か?」
「シュ?」
「いやあっちの海にゴマみたいな茶色い何かが見えた気がしてな。気にしなくていい」
船が近づいてきたとて、この島に来れることはないのだし、気にしないことにした。
頂上には噴火口があり、しばらく噴火していなかったようで普通に歩けた。ゴツゴツした岩ばかりだが、その中に黒くてテカテカした石、水晶の様な石、ピンク色の透明な石なんかがあったので記念に持って帰ることにした。
二日後拠点に帰ってみると、トウモロコシが背を伸ばしていて興奮してしまった。この調子でいけば1ヶ月もすれば収穫できるかもしれない。芋も順調で、いつのまにか畝三つ分まで増えていた。こちらもそのうち収穫できそうだ。
前に美味かったしょっぱい葉は、この辺りの地面では育たなかったので木の鉢植えに土と塩を混ぜてやったら増えた。定期的に塩水をやると元気に育つので面白い。
フレッドには小麦、サトウキビ、トウモロコシ、じゃがいも、さつまいも、胡椒、ハーブ、唐辛子の種や苗を頼んだ。それ以外の種も持ってきてくれるそうなので楽しみだ。
あとは干物だ。貝をたくさん採ってきたはいいが、一人では食べきれないので大量に干してあるのだ。魚も獲らせていたので、魚もかなり干してある。いつ嵐が来るかわからない中、保存食は大切だ。
結構な量溜まっていて、俺一人で半年は過ごせるくらいはある。とはいえ蛇達やタヌキ達も食糧が必要なのでもう少し短いかもな。
暇だし昼寝するかと思っていると、アルとビノが浜辺に行こうと言ってきた。貝は要らないぞ、というがそういうことで行きたいわけではないそうだ。何か打ち上がったのだろうか。
水と干し肉を持ち、いつもの二匹とチビ達数匹を従えて浜辺に向かう。
浜辺には特に変わりはなく、なんちゃって拠点も特に変わりはなさそうだった。はて?と思っていると、ビノは必死に海の方に首を伸ばしてアピールしている。
海の方を見ると、霧の中に船が見え隠れしている。惑わされている様で、右に漕いだり左に漕いだりと同じところをぐるぐる回っているみたいだ。大蛇の霧の効果だな。
どうしたものか。
「お前たちはどうしたいんだ?助けたくて呼んだのか?それとも排除してほしいから呼んだのか?」
「シューシュロロ…」
何を言いたいのかわからなかったので、助けるか?と聞くと蛇達は全員うんうんと首を縦に振り、排除するか?と聞くと首を横に振った。つまり全員が助けたいと思っているらしい。
「わかった。なら声をかけてみよう。――――おーい!こっちだ!!声の方向に漕ぐんだ!……ビノ、迎えに行け」
ひたすら声を上げて船を呼び、泳ぎの得意なビノを行かせた。ビノがそばにいれば霧の中でも島が見えるようになって来れるはずだ。
ついでにチビ達に枯れ枝と枯れ葉を集めさせて火を焚く用意もさせた。
ビノが船に着いたようで、船は確実にこちらに向かって来ている。霧を抜けるとその全容が見えてきた。一人二人かと思ったら、小さな船に8人くらい乗っているようだった。よく沈没しなかったな。
俺が声をかけながら手を振っていると、船頭らしき人が手を振りかえしてくれた。近づいてくると、その船頭は年老いた老人で、時折ゴホゴホと咳をする様子もある。無理をしているようだ。
「アル、急いでポーション瓶二つを持って来てくれ。全速力だ」
身体に巻き付いていたアルは、あっという間に何匹かのチビ達を連れて森へ消えていった。
船頭の老人は船を砂浜に進めると、一人だけ降りてこちらにやってきた。老人の耳は長く、身体は浅黒い。あまり見かけない種族だが、武器などは持ってなさそうだった。
「…この島の方とお見受けいたします。どうかしばらく休ませていただけませぬか…我々は長い船旅をしておりまして…もう食糧も水も尽きてしまい…」
「もちろんいいぞ。ほら、早くこちらにくるといい。大したことはできないが…食事も水もあるからゆっくり休むといい」
「おお…!ありがとう!感謝いたします!!!」
老人に船の中にいる人達を陸地に上げるように伝え、中くらいのチビ達にロブスターと魚、果物をとってくるように指示した。そして火を大きめに焚いた。チビ達が太めの枝をたくさん持って来てくれるから、しばらく維持できるだろう。
チラッと船頭の老人を見ると、一人一人を抱き抱えて降ろしていて、他の人たちは咳をしたり荒い息をしているようだった。その中には肌が白いもの、中間のもの、老人や若い女、赤子までさまざまだった。
船頭以外はかなり弱っているようだな。病いになった者を口減らしに島流しにした……という感じか。船頭も時折咳をしているし、本当にギリギリだったようだ。
「手伝うよ、爺さん」
船頭と二人で病人達を降ろし、白浜にそっと並べていく。なんとか話せる者、なんとか座れる者、もうぐったりして起き上がれない者といて、状態は良くないことが手に取るようにわかった。
「あんたも少し休め。今火を焚いたから、何か…胃に優しい物は難しいのだが、何か食べれるものを作るから。これ水…みんなに飲ませてやってくれ」
「はぁ…はぁ…ありがとうございます…」
俺は治癒魔法が使える。使えるが、全員を回復させるには魔力が足りないし、傷や損傷を治すのは大得意だが身体の内部を治すのはあまり得意ではないのである。できないわけではないが、ポーションで治るなら治したいところだ。
老人が水を与えているところをチビ達がロブスターを咥えて戻ってきた。それ以外の蛇達も梨や桃を持って来てくれた。ロブスターは早速焼いて、果実は絞って器に入れておく。少しでも飲んでくれたらいいが。
絞った果実液を老人に渡し、老人は嬉しそうにそれを一口飲んだ。
「シャーッ!!!」
アルの声だ。急げといったからとても急いでくれたらしい。チビ達がポーションとコップ数個を咥えて持ってきた。俺がやりたいことを理解してくれている賢い子達である。
大きめな木の器に水を入れ、そこにポーション一本を入れた。
「爺さん、全員にこの水を飲ませろ。全員分はないから、ポーションを薄めたものだが…まだ症状が軽いヤツならこれで完治するはずだ」
「ポ…ポーション?それは薬なのですか?!」
「…ポーションを知らないのか?ポーションは万能治癒薬といったところか?まぁとりあえず飲ませてみろ。よくはなっても悪くはならないはずだ。ひとり一杯な」
老人と俺はコップを使って病人達にポーション水を飲ませていった。一番ぐったりしている白肌の若い女には申し訳ないが口移しで。あと赤子は瓶に余ったポーション原液を指につけて何度か吸わせた。
すると、病人8人中3人が立ち上がれるまで回復した。
「すごい…!身体が軽い!!治った!治ったぞ!!!」
「一体何が起こったの?!」
老人は一番軽症だったのでもちろんすぐに治った。他の二人も息苦しさが無くなって、とても楽になったという。他の5人のうち二人は座れるようになったようで、驚いていた。赤ん坊もオギャアと泣けるようになったみたいだ。
「まだ少し余っているから、二人にわけつつ、悪いが誰か赤ん坊にやってくれないか?」
「も、もちろん!ほら、お水よ…ほれお飲み…」
元気になった者たちがポーション水を与えている間に、意識は戻ったがまだぐったりしている老婆と、まだ荒い息の若い女にポーションの原液を半分ずつ与えた。
老婆の方は座って会話できるようになったが、若い女はまだ目を覚まさない。正直、かなりまずい状態だと思う。
治った者たちは険しい顔をする俺の様子を、不安な様子で見つめている。
「爺さん、この人はポーションでも良くならない。ポーションももう残っていないし…治癒魔法をかけてみるか?……正直助かる見込みは低いが」
「………助かる見込みが少しでもあるなら!よろしくお願い致します!!どうかお助けください!!!」
『お助けください!!!』
元気になった者達は地面に額を擦り付けて、何度も頭を下げた。わかったから顔を上げろといい、魔法を使うことにした。片手を老婆、もう片方を若い女に当てて、治癒魔法を使う。傷を塞ぐではなく、身体の内側から悪いものを押し出すイメージで…。
老婆の方は大丈夫だと手を離し、若い女の方に集中する。少しずつ女の息が整い、表情が穏やかになって、頬に赤みが出てきた。ここまで来れば、なんとかなるだろう。
「……とりあえず、病気はなくなった。あとはこの人の体力と運次第だな」
元気になった人に向かってそう言うと、ワァッと声が上がって、爺さんが抱きついてきたりとえらい喜んでくれた。気恥ずかしかったので、飯だ!と言いつつ女を抱き上げて、なんちゃって拠点に向かった。
詳しいことは明日聞いてみるとしよう。




