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ペリネシアの秘宝(SIDE フレッド)



 私は奇跡的に霧に覆われているという幻の島に打ち上げられ、ウェルナーという男に助けられた。ウェルナーは沢山の蛇を従えており、その蛇を使って狩りや漁などを行い、彼自身も治癒魔法を使うという不思議な人物だった。


 親切にも食事や寝床、船の修理まで手伝ってくれた。そこまでしてくれたのに、見返りはたった一度の交易だというのだからお人好しにも程がある。


 更に驚愕したのは、交易品だ。塩に真珠、大量の宝石や貴金属。全てこの島や近くの海で簡単に見つかるものだという。そして要らないからと渡された木箱は――信じられないものだった。


 この木箱は、先代のペリネシア王が愛する王妃の為に造らせたとされ、滅多に見つからない透明な魔石を使って、魔法の得意な王妃に渡すため十年の月日を費やしたとされる。


 しかし、その宝石を乗せた船は海賊との激しい戦闘により破壊。ほとんどの物資が海の藻屑となった。


 そう――おそらくこれは、ペリネシアの奪われし秘宝に間違いない。


 なんとしても前王妃様にお渡ししなくてはならないと思った。


 私のぼろぼろの船は、白蛇の言う通りに進み何事もなく三日後にペリネシア王国の港に辿り着いた。馴染みの漁師が私の船の帆や船体を見て、大騒ぎになった。


 あっという間に話は周り、自分が独立する前に所属していたいわゆる親商会へ一度顔を出すこととなった。


「フレッド!話は聞いたよ、この間の嵐に巻き込まれたそうじゃないですか。よく生き残って…グスッ、よもや、死んだのではと…!」


「商会長様…ご心配をおかけ致しました。しかしこのフレッド、この通りピンピンしております!!私ももう二度とお会い出来ないかと…!」


 私がお世話になっていた商会は、ゼニーノ商会という。ゼニーノ商会はペリネシア王国を拠点とする一大商会であり、商船を20近く所有していて各国にペリネシア王国の交易品を売りに行っている。そんな商会から一人前に商売できると卒業したのが私というわけだ。


 そんなわけで、この国の御用商人でお抱え商人のゼニーノ商会に頼めば、なんとか前王妃様にお会いできるはずだ。商会長と抱き合いながら、こっそりと「至急前王妃様にお会いしたい」と囁いた。商会長は驚いたようだったが態度は変えず、再会を喜ぶ振りをした。


 ウェルナー様に頼まれた物の購入や、欲しい船の目星なんかをつけながら数日が過ぎた。商会長がつなぎをつけてくれたおかげで、前王妃様にお会いする機会を得た。


 前王妃様は老貴婦人という凛として美しい方だった。現在の王妃様と共にティータイムを楽しんでいる最中に謁見することができた。


「オリビア様、カトリーナ様。いつもご贔屓にありがとうございます。今日は我が弟子をご紹介させていただきます。最近独り立ち致しまして、是非こちらもご贔屓によろしくお願い致します」


「フレッドと申します。どうぞご贔屓にお願い致します」


「お前達商人は話が長いわ。早く目録と商品を見せてちょうだい」


 これは手厳しい、などといつもの軽口を叩きながら、商会長は様々な物を並べていく。ドレス、食器、花瓶、香水など…並べるうちに、私は前王妃オリビア様に手紙と秘宝を入れた木箱を隠す木箱を渡した。オリビア様は眉ひとつ動かさず、手紙を読んだ。


 やがてその表情は驚きに変わり、私の顔を二度三度みた。それから木箱をゆっくりと開けて。


「なんてこと……今になって…」


 呆然とするオリビア様と、何事かと見るカトリーナ様とゼニーノ商会長。


「…ゼニーノ。そこに出ている商品を全て買い取るわ。フレッドだったかしら?お前の商品も見たいし、私の部屋で話を聞きたいわ。フレッドを私の部屋に案内して。ゼニーノ、今日はありがとう。また行商にきてちょうだいな」


 そしてオリビア様は木箱と共に足早に部屋を出て、私も案内の元ついていった。そして部屋に着くなり、オリビア様は人払いをして私に詰め寄った。


「これをどこで見つけたの?!まさか海の底を探し回ったなんて冗談言わないでしょうね?!」


「と、とんでもありません。私は海の底を歩ける魔法も知らなければ、水で溺れない魔法も使えませんよ!」


「じゃあどうして…どうしてこれが貴方の手に渡ったの?!」


 とにかく王妃様に落ち着いてもらい、私はこれまでにあったことを一つずつ話していく。


 商人になってはじめての行商で、不幸にも嵐に見舞われてしまった。なんとか沈没しないように頑張っていたが、だんだん霧が濃くなり操縦できなくなった。そうして荒波に呑まれて、死を覚悟した。


 だが、次に目覚めると白い砂浜の上に船や積荷と共に流れ着いていた。そこで一緒に打ち上げられていたのが、その木箱だった。


 その島は地図に存在しない“幻の島”ではないかと思う。島を出たあと、そこにあったはずの島は全く見えなくなって、ただの海しかなかった。まるで夢の様だった、と。


「“幻の島”…私も聞いたことがあるわ。なんでもドラゴンがいて、ドラゴンがその地を守っているとか…他にも、実は巨大な海亀の上に島があって、移動しているとか…」


「信じてくれるとは思っておりません…この私ですら何がどうなっていたのかわからないのです。ただ…本当にそこに在った…としか…」


「いいえ。信じるわ。私に鑑定眼の魔法が使えることは知っているはず。貴方の話には嘘がなかった。だから、貴方の言葉は真実よ」


 それから幻の島について根掘り葉掘り聞かれて、誰もいないし霧ががっていて砂浜意外見えないとか当然嘘を並べたわけだが、オリビア様は全て信じていた。どういうことなのかはわからない。けれど欺けている、という感じだ。


「…本当にありがとう。あの人が亡くなる前に見つかっていたら…いえ、見つかっただけよかったのよ。本当に、本当に感謝しているわ!」


 褒美の話もとんとん拍子に進み、最新の船2艘、馬に馬車、たくさんのものが収納できる巾着、そして想定よりも二倍はある金貨を頂戴した。


 多すぎると言っても、足りないくらいだと言ってオリビア様にいつでも直接お会いできる権利までいただいた。これは御用商人でもない駆け出し商人にとっては異例のことである。


 けれど、さすが数々の貴族や商人を相手にしてきたオリビア様だ。


「一度あることは何度もあります。……面白い物を手に入れることでしょうから、手に入れたらまず最初に見せにきなさいね」


 などと言われてしまい。嘘とわかりながらも知らないふりをしていたと気づき、嘘がどこまでバレているのやらと冷や汗を垂らしながら退散するのだった。


 ――翌日、ペリネシア王国は歓喜に満ちた。


 前王妃オリビア様が失われた秘宝が見つかったことを大々的に発表した。それはとある島から見つかり、商人がたまたま買ってきたというなんともありそうななさそうな内容であった。


 その秘宝は今の王妃カトリーナ様へと下賜され、カトリーナ様は得意の結界魔法を使ってペリネシア全土を結界で覆うことに成功した。これによって敵国からの攻撃や魔物からの襲撃を防げるとあって、ペリネシア王国は絶対的な防衛力を得ることとなった。


 ペリネシア国民は安全に喜び、敵対国は悔しさに震える結果となった。


「フレッド…お前さん、この商会に戻る気はないかい?」


「あはは、ゼニーノ商会長ご冗談を。私はつい先日独立してウェルフレッド商会を立ち上げたばかりじゃないですか。これからはアーデン帝国を中心に頑張って行こうと思ってますよ。ペリネシアには会長がおりますし、私に勝ち目はありませんね。あははは」


 商会長は当然だが私がこの騒動の商人であることに気がついている。運も実力のうちという言葉もある様に、今の私はついていた。会長にとって私は今をときめく商人に見えるのだろう。だが強運で掴み取ったこの縁を、誰にも渡すつもりはなかった。


 ただ師匠であることに変わりはない、と何かあったら相談するとちゃんと言っておいた。敵対したいわけではなく、良き師弟でありたいと願うばかりだ。


 新しい船はとても高性能で、その船自体がもはや魔道具だった。揺れ防止機能、破損修復機能、船内拡張機能が付いた優れものだ。拡張した船内には百人は人を収容できて、貨物は樽五百個はいける。それでいて中型という最高級品だ。


 次々に品物を運び込ませている様子を師弟で見ていると。


「酒と塩に砂糖に干し肉…次はエーリッヒ共和国に行くつもりなんだね?」


「ええ。あそこは今飢饉で食糧が枯渇していますから。そこから川を伝って内陸に行ってこようと思います」


「ああ、行ってきなさい。ついでに葡萄酒を持ってきてくれたら高く買い取るよ」


「あはは」


 あの幻の島はこのペリネシアから東だ。そしてアーデンは北。気づかれず寄るためには北東に向かうふりをしなくてはならないのだ。北東にはエーリッヒ共和国という国があり、情勢的にも丁度良いのだった。


 会長がそんな話をしたのは、このペリネシア王国は年中暑いので葡萄がとれにくいからだ。そのため内陸にある葡萄酒は酒の中でも価値が高いのだ。


 荷積みを終えた私は、意気揚々と大海原に飛び出したのだった。





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