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交易の始まり



 船が治ると、フレッドはようやくホッとしたのか少し拠点やこの森を観察する余裕が出てきたみたいだった。


 俺が大切に育てているトウモロコシについて、貝殻を砕いて肥料にした方が良いとか、俺の糞尿を何処かに溜めておいて枯れ葉と混ぜて腐葉土にすると良いとかについてもアドバイスをくれた。


 それから、果物を収穫していきたいようで、たくさん成っている洋梨のまだ未熟そうなものを、海から拾ってこさせた麻袋に大量に入れていく。商魂たくましい。


 いよいよ明日出航となった夜。


「ところでフレッド。これからペリネシアとやらに行って、アーデンに戻るんだろう?その…ペリネシアから戻る時に、もう一度この島に来てくれないか?遠回りになってしまうのはわかっている。今回だけでいい、何とかならないか?調味料や調理器具、石鹸や服なんかもほしいんだ」


「……助けていただいた御礼もあります。梨を採らせていただいたこともあります。もちろん、構いませんとも。しかし…その、金銭かそれに変わる交易品がありませんと、商品を仕入れられないといいますか…」


「ああ、それは当然だ。まずは塩だ。これなら金になるだろう。それと…これは金になるかはわからないが、たくさん取れてなぁ。売れそうなら売ろうと思う」


 この間小さな麻袋パンパンに詰めた塩。それに、二枚貝の中に入っている白や黒の珠がパンパンに入った袋二つを差し出した。


「ブホッ!?なっななな?!し、真珠ではないですか!しかもこれほど大粒で…黒真珠まで!!??」


「真珠…真珠というのか。珍しいのか?」


「大ッッッ変貴重です!見たところ非常に大粒ですし、一粒で金貨一枚はするでしょう。黒真珠は更に貴重で、金貨三枚…下手したら五枚くらいにはなるかと」


 これは驚いた。こんな毎日採れる珠がそんなに高いのか。


 フレッド曰く、真珠は王族や貴族の装飾品に使われていて、海のない国ではもっともっと高く売れるという。なかなか真珠は獲れず、小さくても欲しがる貴族は山のようにいるのだという。


「ふーん…じゃあペリネシアもアーデンも海があるから少し安いのか…ならこの辺はどうだ?海の底にあったからちょっと傷とか錆があると思うが」


 鞄から赤い木箱と色とりどりの宝石がついたアクセサリーを見せた。するとフレッドはヒィッと声を上げて、そして呼吸を整えた。


「……か、鑑定させていただきます」


 一つ一つをじっくりみて、最後に木箱をゆっくり開けた。カッと目を見開いたフレッドは、宝石でなく木箱の後ろや中を見始めた。やがてキリリとした表情でこちらを見つめて。


「ウェルナー殿…この木箱の宝石は非常に価値があります。宝石だけの価値…いえ、この木箱に価値があるのです。この宝石だけで山ほど金貨が手に入るでしょう。それくらいの物なのです。本当に、本当に私に売っていただけるのですか?」


「ああ。俺はそんなのいらないし。この島で宝石なんかつけてどうする?でも高いなら嬉しいよ。日用品も欲しかったんだが、もしかして家畜も買えるか?」


「家畜ならこの島を埋め尽くすほど買えますよ…そうじゃなくて、高すぎるんです!ウェルナー殿の欲しいものを全部買っても、九割は余るくらい高いんですよ!!つまり私が行商にいって買ってくることとウェルナー殿の対価が違いすぎるってことなんです!」


 よほど高額らしい。対価の値段が釣り合わないから、困っているということみたいだ。


 だが本当に俺はこんな宝石要らないし、だからといって金が欲しいわけでもなく。どうしたものかと悩んでいると、ビノがシャーシャーと助け舟を出してくれた。器用に尻尾で船2つを描いて、人間の口にバッテンを書いた。ははあ、なるほど。


「…ならこうしよう。その金で、行商のための一番いい船を2隻買ってくれ。一隻はこの島に置いておき、もう一隻をフレッドにやる。その代わりに、絶対この島のことを誰にも言わないこと。俺の存在を誰にも言わないこと…ま、口止め料だな。

 あとは一回だけでなく、今後もちょくちょく行商に来てくれたら嬉しい。その代わりと言ってはなんだが、身を隠すならいつでも協力するぞ」


 それでも足りない!とフレッドは言ったが、もう取りあわなかった。要らないなら真珠でというと、もうこの木箱の宝石をもらうのは絶対らしくだからこそ困っているとかなんとか。


 結局船プラス行商1回分を無料にするという話でまとまったが、なんというかそんなに買うものがあるのだろうか?という気がしないでもなく。まぁいいか、と納得することにした。


 そのあと欲しいものを思いつくままにフレッドに頼み、フレッドもまた拠点や島、俺を知った上で必要となりそうなものを買ってきてくれるという。


「フレッドにチビ二匹をつける。こいつらがいれば、海の上でも霧の中でも迷うことなく島まで来れるそうだ。ペットだと思って可愛がってやってくれよ」


 蛇好きのフレッドは大喜びでチビ達を受け取り、積荷と例の赤い木箱と共にペリネシア王国へと向かうのだった。

 



 そんなことがあっても、この島での生活は変わらなかった。畑の世話をして、狩りをして、海で二枚貝を採る。とくに二枚貝は以前より沢山採っていて、どんどん真珠をためている。フレッドが陸地に行商に行くときに渡したいと思っている。


 もう一つフレッドに言われたことは、海岸近くにも拠点が必要だということだ。今後交易する上で、森の奥にいちいちいくのも大変であるし、何より森の拠点が危険になる。知られていない方がいいのだそうだ。


 ということで、海岸が見えるくらいの森の中に井戸を掘ろうと思っている。だが問題はどこに水源があるか、というものだが。


 大蛇の《水が出るところを掘っておいた》などというありがたい言葉によって解決してしまった。考えていた場所よりは森側だが、実にいい場所にぽっかり穴が空いており、俺の背丈くらい深い。


 中に入るとすでに下には水が溢れているようで、もうしばらく経てば充分使えるだろう。用意しておいた石を円状に積んでいき、固めていく。まだまだかかりそうだなぁと思っていたら翌日にはしっかりと石が組み合うようになっており、すでに完成していた。大蛇の気遣いに感謝するしかない。


 つぎは井戸の桶だが、木をくり抜いて器にしてその辺に生えている蔦をその器に括りつけてなんちゃって井戸の完成だ。まあこれは正直大して使わないし、住んでるように見えればいいんだ。


 あとは家だが、井戸の近くに作ることにした。木をテントの骨組みにして、布はフレッドが元々乗ってきた船の帆布を被せて完成だ。とはいえせっかく作るので、寝れるようにはしたい。ので、二頭狼を狩って皮を寝床にした。


 なんちゃって拠点が出来たので、チビに見張りを任せていつもの拠点に帰ることにした。やっぱりこっちの拠点の方が安心感があるな。


 トウモロコシの世話でもしようかと思っていたら、「きゅん!」と声がした。森の方を見るとコタとその家族がいた。コタは元気よく、家族達は恐る恐るという感じでやってきた。飛び込んできたコタをワシワシ撫でるとすぐに腹を出した。野性を失っているな。


 親タヌキはぽってりとしたふかふかの毛で、ちょこんと座ってコタの様子に呆れているみたいだ。せっかくなので、干し肉をやるとタヌキ達は元気にそれを食べた。可愛い。


 すると秒で懐いた。ちょろすぎるのだが、こんな状況で野性で生きて行けるのか?このタヌキ達は…。更に図々しいことに拠点に入ってきてゴロゴロしはじめるから驚きである。犬でももっと警戒するぞ。


 仕方ないので、大蛇に話して拠点の隣に、タヌキ達の空間を作ってもらった。一緒に住みたかったが臭いが凄いので同じ空間はやめた。タヌキ的にも構わないらしいのでよき隣人として過ごしている。ただもう干し肉はやらないからと言うと露骨にしょんぼりした。野性を失うなタヌキ。


 そして気がついたことがある。


「ビノ、なんか…チビ達増えてないか?」


 以前は10匹くらいだったチビ達がチビどころか普通の蛇サイズのやつが増えている。アルよりちょっと小さいかな?くらいのが10匹くらいとチビ達サイズが10匹くらい増えている。


「シューシュー。シャーッ」


「チビよりできることが多いから?まぁそりゃそうだが…こんなに要らんだろ…ま、大蛇がそう決めたならそうなんだろうな」

 

 ビノ曰く、チビが活躍しているから自分達も負けてられないと出てきたのだという。それに、それは大蛇が決めたことなのだと言う。ならば逆らえるわけはないのだ、と。


 まあいいか、可愛いしと考えることを諦めた。


「さーて、今日もよく働いた。さっさと寝るかぁ〜」


 今日も頑張って色々やったと一つ伸びをして、明日に備えて寝るのだった。






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