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漂着者



 白浜に打ち上げられた男を拠点に連れ帰ってきて、数時間が経った。魔力を消耗するので使いたくなかったが、明るくするためにライトボールの魔法を使っている。


 白蛇のチビ達は男を気に入った様子で男の身体の上でのんびりと寝ている。


「う、うぅ…」


 男が初めて声を上げて身を捩った。目が覚めたらしい。


「目が覚めたみたいだな」


「う…あ…ここは…私は…」


 目を覚ました男はガバリと起き上がり、俺を見て自分の身体にいる蛇達を見て、部屋をじっくり見て。そしてまた蛇達を見た。


「…状況を説明すると…あんたは島の海岸に打ち上げられていたんだ。意識があるみたいだったから、とりあえずココに連れてきた。ココは俺が生活している洞穴で、その蛇達は…まあペットみたいなものだ。噛み付いたりしないからほっといていい」


「打ち上げられていた?!……あ!私、嵐に遭遇して霧の中を彷徨って…船は?!積荷は近くにありましたか?!」


「船はあったぞ。ぼろぼろだが。積荷は今のところ木箱と樽はあったが…」


「おおっ!!よかった…っと、そんなことより、助けていただき感謝致します。私は商人をしておりますフレッドと申します。改めて、本当に本当にありがとうございます!!」


「……ウェルナーだ。この島で暮らしている」


 名前については、少し考えてしまった。昔から奴隷やらサーティンとか成り上がりとか色々呼ばれていたが、ここでそれを知る人はいない。だから、新しく勝手に名前をつけた。依然出会った騎士の男で、唯一苦戦して勝った印象的な男の名前だ。


 商人だというフレッドに、この辺りまで来た事情を聞いた。


「あ、それはですね。商人と言いましてもつい最近ようやく独立したばかりで…前々からお世話になっていたペリネシア王国に行商に行く予定だったのです。

 普通ならアーデン帝国から三日もあれば着くのですが…運悪く嵐に巻き込まれてしまって…そして気がついたらこの島にいた、というわけです」


 アーデン帝国はこれまで仕えていた国だから、大体わかるがペリネシア王国とやらがさっぱりわからなかった。そういえば地図があったな、と地図を取り出してみる。


 残念ながらアーデン帝国語以外が読めないので、フレッドに指をさして教えてもらうことにした。


「アーデンがここで、ペリネシアはこの地図の大きな島です。島ですが賢王様がいらっしゃって治安も良く、貿易も盛んです。えーと、この島は…どの辺に当たるのでしょうか?」


「さぁ?幻の島らしいが…ビノ、わかるか?」


 アーデン帝国の南にある巨大な島をペリネシア王国と呼んでいるらしい。この辺りを航海する船は大体この島に寄っていくというくらいには栄えているそうだ。


 この霧に包まれた島の地理についてビノに聞いてみると、尻尾でツンツンと何も書いていない海のある一点をつついた。具体的には、ペリネシア王国の南東で、どの国の海域にもない場所だ。


「私が持っていた地図にもここに島があることなど書かれておりませんでした。まさか本当にこんな場所が…」


「それなんだが…この島は霧に覆われている。そこにあるのに見えない、見えるのに辿り着けない…そんな風にしているんだ。だから…この島については知らないふりをしてほしい」


「…………なるほど。まさしく幻の島というわけですね」


 フレッドは色々聞きたいという顔をしていたが、俺はこれ以上話す気はないという態度をとった。


 この島は大蛇…ミストバジリスクの楽園だ。それを壊したくないし、俺もこの楽園に誰かがミストバジリスク達を捕まえに来たら怒り狂う。だったら俺がそういう風な魔法を使っていると思わせておいた方が都合がいい。


 正直、この島のことや俺のことを話さなくてもいいのだが、そこはこちらにも事情がある。フレッドが商人であると聞いたから、是非交易したいと思っているのだ。


 調味料、農機具、食器、服、野菜の種など欲しいものは沢山ある。なんとか手に入れたい。問題は金がないことなのだが、塩とあの丸い珠で何とかならないかと考えている。まあとりあえずあとで交渉しよう。


「…船を直さなくてはどうにもならないな。また明日になったら海岸に案内するよ。大したもてなしもできないが、ゆっくりしていていいぞ」


「ありがとうございます」


 今日のメニューは鹿肉を焼いたものと、森によくある芋――フレッド曰くサトイモというらしいが、それを焼いたもの。それに果物と、ビノが捕まえてきた海老を焼いたものだ。焼いたものしかないのは許してほしい。


 フレッドはそれを美味しいと食べてくれて、久しぶりに褒められたようで嬉しかった。


「ウェルナー殿、ところでこの白蛇達は貴方の使い魔なのですか?」


「いや。うーん、ペット…に近いか?ここの洞穴に住んでいたのを構っているうちに懐いてしまった。まあ狩りをしてくれたり拠点を守ってくれたりと何かと便利でな」


「なるほど!いやぁ可愛いですなぁ!あっ私、昔から蛇とか蜥蜴とかこういう鱗があってツルッとした生き物が好きでしてね。人懐っこいし、どうやらウェルナー殿の言葉や地理を理解している様子…賢くて可愛いですなぁ!!」


「そうなのか?なら好きなだけ触っていいぞ。噛み付いたりしないし、撫でられるのも好きなんだ」


「それは素晴らしい!お〜よちよち、君は可愛いねぇ!」


 どうやらフレッドは蛇好きらしい。デレデレとチビ達を撫で回しては可愛い可愛いと悶えている。言われてみると、目が覚めても蛇に驚くこともなく腹の上にいたチビ達を撫でていた気がする。怖がらせるよりはよかったので、これもありがたかった。


 翌朝、フレッドを連れて森を案内しつつ海岸に向かうことにした。


 拠点の周りの紹介と言っても畑と干し肉を作っていることくらいで、次は森を征く。この辺にはイノシシ、この辺は狼が出るから気をつけろなどと伝えていく。


 滝の辺りで少し休憩し、海岸に向かって急ぐ。この森はなかなか広いので、海岸に泊まる計画だ。自分だけなら身体強化して行けるが、フレッドがいるとそうもいかないから仕方なくだ。


 海岸に着く頃にはすっかり日が暮れそうな時間だった。


「おおっ!木箱も樽も無事でしたか!!!これはありがたいっ!船は…うーむ…思った以上に損傷していますね…板を当てれば何とか…いや帆がないと操縦も難しいですね…どうしたものか…」


「俺は今日の食糧を獲ってくる。何があったらチビ達に言えば助けてくれるから。ビノ、アル、海に潜ってきて魚獲ってくれ。チビ達何匹かは枝を集めておいてくれ」


 船をどうするか悩んでいるフレッドと別れ、俺はいつものように二枚貝を砂浜で探し、アルとビノには深いところに潜ってもらった。いつもは貝ばかりお願いしているのだが、二匹一緒なら魚も獲れるようで、早速行ってもらった。


 ビノがアジをとってきた。アルも遅れて同じものを咥えてきた。打ち上げられた網を使ってアジをいれておく。また二匹は潜っていき、今度は巨大なロブスターを二匹で咥えてきた。


 もういいよ、と二匹を褒めてやる。だが二匹はまだまだやる気のようで、また海に潜っていった。しばらくするとビノが先に戻ってきて、赤い毛に覆われた長細い箱を咥えてきた。これには流石に見覚えがあった。勲章や褒美なんかが入れられる箱だ。となると中身は………。


「シュー?」


 案の定、宝石だった。大ぶりの透明な石――ダイヤの首飾りに、同じ石でできたイヤリングとブレスレットがセットになっているようだ。これはすごい。本物だったら偉いことになるぞ。


 何それ?と興味もなさそうなビノをこれでもかと褒めてやり、こうした宝石や金貨でフレッドに買い物を頼めるんだぞ、と嬉しい嬉しいと言っているとビノもとても嬉しそうだ。急いで鞄にそれをしまって、保管することにした。


「アルー、もう戻ってきていいぞー!アルー?どこだー?」


 声をかけるとアルも戻ってきて、今度はいつもの二枚貝を咥えている。偉い子だ。よしよしと褒めてやれば、アルもビノもご機嫌そうだった。


 だいぶ暗くなってきたので、急いで火をつける。チビ達が枝葉を集めてくれたので持って来ていた狼の糞に火魔法で火をつける。とってきた魚を枝に刺して、ロブスターは火に突っ込んで焼くことにした。


 相変わらずフレッドは船の修理を頑張っているようで、うんうん唸っている。


「フレッド!食事が出来たぞ。一旦食事にしないか?」


「ああ…もうすっかり夜になってましたね。ウェルナー殿、手伝いもできず申し訳ありませんでした。

 おお?これは大きなロブスターですね!…このお二人がコレを?!それは凄い!!海も泳げる蛇なのですねぇ」


 気にするなと伝えて、食べながら船の修理の進捗について聞いてみた。


「正直芳しいとは言えませんね。板があるのでそれをつければ直せるのですが…肝心の釘がなくてはどうにも…。

 帆の方もかなり破けていて、このままでは操縦ができない状況です。穴が塞がって水に沈まなければなんとかなるかと思っているんですけどねぇ」


「釘と帆か…多少錆びていたり、苔が生えていてもいいのか?」


「え?ええ、別にそれは気にしませんが…」


 たしかにこの島にはそうした釘や布なんかはない。が、海の中は別だ。海の中には沈没した船が絶対にあるはずで。積荷に布なんかもあったはずで。ならば海から調達すれば良いのである。


 アルとビノを呼び、釘と布について説明する。釘を見つけられるだけ、布は大きいのを一枚探して来るように伝えておいた。


「シューシュー?」


「…ああ。頼んでみてくれるか?なるべく早く集めたいんだ」


「シュ!」


 二匹は仲間たちに頼んで総動員で探してくれると言ってくれた。フレッドにもその話を伝えると、涙を流して喜んでくれた。


 そうして一夜明けると、木の板の上に沢山の釘と、海藻やらフジツボがついた布が置いてあった。更に、俺の腹の上には金色の硬貨や赤や緑の指輪、ネックレスなんかが置いてあった。


 ビノがドヤ顔をしているので、ついでに集めてきてくれたらしい。急いで鞄に仕舞い込み、たっぷりビノを撫でた。賢すぎるぞ白蛇達!


「フレッド!見ろ!!釘と布だぞ!」


 白蛇達の献身的な活動のおかげで、無事にフレッドの船を元に戻すことが出来たのだった。



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