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充実した生活と嵐



 はじめて大蛇と会ってから、半月ほど経つ。といっても変わりは特になく、唯一変わったといえば毎日大蛇と話すことくらいだろうか。


 今日はいつものようにトウモロコシの世話だ。トウモロコシは三つのうち一つだけ芽を出し、なんとしても収穫したいと思っている。周りの雑草をちまちまと抜き、水をやって、日が当たるように気を配る。


 そして隣の畝には芋を植えてある。食える野菜が欲しいんだ、とアルにこぼしたら次の日いくつかの芋を持ってきた。一つ食べてみたがじゃがいもとは違う、少し粘りのある白い芋だった。普通に美味しかったので、5個くらい植えてみた。


 この島にある物だったからか、芋は割とすぐに芽を出した。これならたくさん収穫できるだろう。


 定期的に貝を取りに行っていたのだが、ビノが毎日二枚貝を持ってきてくれるのだ。その中にはほとんどの確率で白か黒の珠が入っていて、麻袋がもうすぐ締まらなくなりそうなくらい集まっているのだった。


「チビたち、探索に行ってくるから留守番よろしく」


 最近は森のあちこちを探しながら、岩塩、胡椒、ハーブなんかを探すのが日課だ。動物達も塩を必要としているはず…であればどこかに塩を取るための何かがあるはずだ。岩塩なのか、草なのか、水なのか突き止めたいと思っている。


 おそらく岩塩があるのだと予想しているが、未だに見つけられ無いんだよな。


 探索に同行するのは大概アルとビノだ。他の蛇達は二匹より少し小さく、拠点に他の動物が入らないように警戒するくらいしかできないみたいだ。それでもいないよりはましで、ありがたい。


 今日は拠点の真向かいの方角に行ってみよう。しばらく行くと、ガサッと音がした。あまりこちらを警戒していないのか、足早にぴょん!と黒い何かが飛び出してきた。


 それは黒い仔犬だった。飛び出してきたくせに、ビノを見るなり硬直して震えている。数秒後何もしていないのにバタンと倒れた。間抜けで可愛い。


 ビノとアルも二匹して首を傾げていて。


「…鈍臭いというか何というか…え?そのまま置いといたら狼に食われるかもしれない?…じゃあ連れてくか。ってこいつ狼の仔犬じゃないんだ…」


 仔犬を抱きあげてシャツの中に入れたら、また歩き進める。鬱蒼とした森だったのが、少しずつ木が少なくなってきた。ほんの少しだが潮の香りがする。


 やがて水溜まりが見えてきた。周りにはぷっくりとした葉がたくさん生えていて、土が塩を含んでいるのか白っぽい。水溜まりを覗き込み、ぷくぷくと緩やかに湧くそこの水を舐めてみた。


「ん、海水より薄いな…海水と真水が混ざって出てるのか?」


「シャクシャク…シャー」


「ええ…その草食うの?美味い?そうなのか…」


 アルが近くに群生している草を食べていて、美味いよと言ってくる。試しに食べてみようかと食べてみると。


「しょっぱい!美味いなこの草!!」


 結局、塩水溜まりの白い沈着物をナイフでこそげ取って麻袋にちまちま入れて、たっぷり塩を集めた。さらには塩味のする美味しい草を取れるだけ取った。これでしばらくは塩には困らないだろう。


 動物達はここで塩分補給をしていたんだな、と改めて納得した。


 拠点に戻るついでに、滝に寄って大蛇に挨拶する。滝の中に入り、いつものように寝ている大蛇を撫でて、「元気か?」なんてやっていると。わらわらと白蛇達が俺の胸を覗き込む。


《…タヌキの仔を拾ったのか。お前達、食べるんじゃないよ》


「タヌキ?!仔犬じゃなかったのか…」


《どう見てもタヌキだろう…そんなことより、二、三日したら嵐が来るようだ。食糧と水を蓄えておくといいだろう》

 

 どう見ても黒い仔犬だが?と思いながらも、それより重大な大蛇の話に頷く。嵐が来るのがわかるなんて、さすが島の主だな。


 それからすぐに拠点に戻り、翌日から蛇達と共に手分けして準備を始めた。火元になる木や狼の糞に果物や貝に鹿など食糧。それだけでなく、ようやく生えてきたトウモロコシを木で作った鉢植えもどきに移して洞穴の中へ。


 更に次の日は竹を切って水筒を何本も作った。問題はトイレで、いつもは外でしているからどうしたものかと悩む。するとビノが洞穴の奥を突いて、壊すように言ってきた。


 落盤しないか心配しつつ、壊してみると、更に奥があり三つの分岐点があった。分岐点からそれぞれの部屋に分かれていた。しかも一つの部屋には、スライムが二匹住んでいた。スライムは戦争にも連れて行っていて、残飯や糞尿を消化してくれる。すっかり忘れていたよ。まあつまりここをトイレに使えということみたいだ。


「こんな空間が…母様が作った?あの大蛇が?そんなこともできるのかよ、すごいな…いやいつのまに?大蛇が外出てるとこ見たことないが…」


 ビノがスライムとは違う部屋を首で示しているところを見ると、あの部屋は壊すと大蛇の場所まで繋がっているんだろうなあ、と想像してしまう。


 嵐を前に洞穴を広げてくれた大蛇に感謝しかない。


「きゅうん?」


「コタ、おいで。暗いから危ないぞ」


 あの日見つけた仔タヌキをコタと名付けた。コタはヨチヨチと俺についてきてとても可愛い。蛇達もコタを見守る形で大体何匹かが守ってる…と思う。食べるつもりではない、はずだ。


 三つの部屋のうち左側がスライムがいるトイレ部屋、真ん中がかなり広い生活スペース、右側を食糧の備蓄部屋にすることにした。元いた入り口近くでは、火を焚くことにする。奥で火を焚くと煙が充満するからだ。


 最後に枝でも拾っておくかと外に出る。地道に開拓したお陰で、洞穴の周りはある程度開けている。そこに出ると、森の方から視線を感じる。ウロウロと、どうしようどうしようと落ち着かない様子のタヌキが二匹。側は三匹のコタにしか見えない子どもがいた。


 明らかにコタの家族である。さしずめ俺は子どもを奪った誘拐犯だ。


「待ってろ!今子どもを連れてくる!」


 急いで洞穴に戻り、スライムと遊んでいたコタを掴んで親タヌキの近くに置いてやった。コタは大喜びで両親や兄弟姉妹達にじゃれついている。


 よかったよかったと、拠点へと戻ろうとするとコタが一緒に着いてきた。きゅんきゅんと親達に向かって何度も鳴く。


「もしかして…拠点に住みたいのか?」


 コタは諦めずに親を説得しているみたいだ。


「あー…コタ、一旦親と一緒に帰れ。別に二度と来るななんて言わないし、な?明日辺りから酷い雨になるらしいから、家族と一緒にいた方が安全だ。ほら、ほら」


 俺の説得がわかったのか気が変わったのか…コタは大人しく両親の元にいることにしたようだ。ホッと胸を撫で下ろす。家族と合流できてよかった。


 気を取り直して、枝を集めて回っていると、ゴロゴロと雷鳴が聞こえてきた。大蛇の言う通り嵐が来るようだ。拠点に入って元々あった岩で入り口を半分くらい塞いでおく。これならギリギリ出られるし、雨もそれほど入ってこないだろう。


 夜中から本当に嵐がやってきた。激しい雨風が入り口の岩に当たって音を立てていて、時折強い風が隙間から吹き込んできていた。


 そんな状態だったので、結局火をおこすことはなく奥の部屋で果物や干し肉を食べて過ごした。あまりにも暇だったので久しぶりに筋力トレーニングばかりしてしまった。


 三日ほど経った頃、風や雨の音が聞こえなくなった。するとビノが隙間から外に出て、うんうんと頷く。嵐が過ぎたようだ。


 外に出ると薄曇りではあるが日が差していて、安心して外に出られそうだった。


「うーっ、久しぶりの外はいいな。よし、トウモロコシを植え替えたら海岸に行くぞ!」


 嵐は悪いばかりでもない。俺が漂流したように、何かが海岸に流されてきている可能性が高い。今の俺には、麻袋や鞄一つだって大事なのだから。


 いつもの二匹を連れて海岸にやってくると、案の定沢山の漂流物が白浜にうちあがっていた。木箱、樽、小舟、人、網、丸太…人?!


「おい、大丈夫か?しっかりしろ!」


 小さな船の隣にいた青年の肩を叩いて、意識があるか確認する。声は出さないが顔をしかめるので、生きてはいるようだ。すぐに治癒魔法をかけてやると、ゴホッと水を吐き出した。


 呼吸もできているし、水も出せたから死ぬことはないはずだ。男を海から引き上げ、砂浜に寝かせておくことにした。


 それから俺はあちこち穴が空いた小舟を引き上げ、木箱、樽も引き上げた。樽も木箱もしっかり封がされているのか中身が完全にあるようだった。明日開けてみよう。


「アル、明日まで木箱と樽の見張りを頼んだ。チビ達をあとで寄越すから、もし似たような漂流物が来たら教えてくれ」


 俺はぐったりした男を肩に乗せて、拠点へと連れていくのだった。







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