進む開拓
フレッドが旅立ってから、俺はとてつもなく忙しかった。拠点の周りの木を切って、畑を十倍に拡張するために毎日鍬を握り、馬と牛と鶏の世話もしている。
エルフ達も大変で、切った木を加工して馬小屋と牛小屋と鶏小屋を作っている。もちろんそれだけではなくて、自分達が住むための家や煮炊きするための台所やらを毎日それぞれが作っている。
ただ、リノだけは別で、リノにはヨナスとミュリンの世話を任せていた。ミュリンも少しずつ動けるようになってきたが、即戦力とはいかない。
買ってきてもらった種のうち、小麦、トウモロコシ、人参、じゃがいも、ケールを植えることとなった。畑のほとんどは小麦になる予定だという。しかも、この畑が植え終わったら牧草地のために土を耕し、それが終わったら胡椒、香辛料、オリーブと葡萄を植える場所も作るつもりだそうだ。そんなに食うのだろうか……。
住居の方は、なんと木と木の間に蔦を這わせて蔦の毛糸玉のようなものをいうらしい。隙間なく蔦を編んでいるから、雨も入らず木に巻き付いているから風にも強いのだとか。木を操れるエルフならではの家だな。
ちなみに俺の家はログハウスにしてもらうことになっている。フレッドから作り方を聞いていたのでたぶん大丈夫だろう。
「ふぅ…家畜を飼ったのは正解だったと思うが…世話が追いつかないな」
家畜達のおかげで、食事がずいぶん豪華になった。ミルク、卵があるだけでこんなにも料理が充実するものなのかと思う。最近はミュリンもホットミルクをたくさん飲んでいて、少しずつふくよかになっている…はず。少なくともヨナスはミルクを毎日元気に飲んでいる。いいことだ。
馬には名前をつけた。雄をオズワルド、雌をターシャとした。オズワルドは俺以外を背に乗せたくはないらしく、ターシャは誰でも乗せる。性別で多少違うのかもしれない。そんなわけでオズワルドは俺専用の馬だったりする。
牛はなんだかのんびりとしていて、大体飼い葉を食んで寝てを繰り返している。雄の方には農機具を引かせて、土を掘り起こすのに役立っている。
鶏はいつも蛇達と睨み合っていて、犬猿の仲だ。まあ野生では蛇に卵を取られてしまうわけだから、本能的に難しいみたいだ。そのため、鶏小屋にはエルフに頼んで蔦の囲いをつけてもらった。蛇達もそこには近づかないように伝えてある。
そうそう、トウモロコシは最近実をつけた。まだまだ小さいが、エルフ達が頑張ってくれているから大丈夫みたいだ。
「皆さん、お昼だよ!休憩休憩!!」
ユーリ婆さんとソニア婆さん特製の食事だ。今日はパンにしょっぱい葉と戻した干し肉を挟んだものと、干貝、干し海老とサトイモのミルクスープ、そして果物を絞ったジュースだ。肉を狩って焼いただけのあの頃とはえらい違いだ。
それぞれの進捗について話しを聞いて、手伝える人はいないか調整する。畑作り担当が俺しかいないので、ルークが手伝いに回ってくれるようになった。リノもヨナスを背負って手伝ってもらうことになり、ちょっと申し訳ない。そのかわり、耕すのではなく種まきと水撒きをお願いした。
昼食後は、ルークとともにひたすら土を耕しに耕して。リノは出来上がった畝に次々と種を植えて、水をやる。せめて予定している種を全部植えられるくらいにはやりたい。
ヨナスが泣き出したのでリノは離脱し、代わりにユーリ婆さんが種まきを頑張ってくれた。
「ふぅ…」
「お疲れ。これで野菜畑は完成だね」
「本当に疲れたよ。ちょっと滝まで行かないか?」
オズワルドとターシャに乗って、滝まで駆ける。ルークと滝壺で汗を流し、戻ると婆さん達が食事の支度をしているところだった。さて今日の夕飯はなんだろうか。
今日はウサギ肉と卵のパイ、キノコと干し肉のスープだった。明日はハトでも狩るかな、なんて思うが、そういう鳥はビノ達の方が狩るのが上手いんだよな。
ところが、その予定は翌日狂うことになった。朝から雨だったのだ。
鶏小屋は蔦の屋根があるから大丈夫で、馬と牛も仮で蔦の屋根を覆ってなんとか濡れずに済んだ。ルーク、リノ、ヨナスは既に出来た家があるからこれも大丈夫。
他のエルフ達は一旦俺の洞穴で過ごしてもらうことになった。俺は洞窟の入り口、エルフ達は奥だ。この間ランプを三個買ったので、部屋は明るい。しかも中にはアル、ビノがいるので安全だ。
暇になったため、フレッドが買ってきた魔法の指南書を読む。だが、俺は文字を読んだり書くことが苦手なので、かなり時間がかかる。奴隷から戦争兵になって、頑張って勉強したんだ。まだまだだけど。
今は結界魔法の項目を見ている。結界で拠点全体を覆うことが出来れば、嵐でも外で煮炊きや家畜の世話ができると思ったのだ。全体を覆うことは無理でも、畑だけでも守りたいよな。
のしかかるようにくっついてくるミディを撫でれば、ミディはご機嫌になった。可愛い。
「明日は晴れるか?」
《ウゥン…アシタ、アメ、ダトオモウ??》
「お前も天気がわかるのか…すごいな。まぁ正確なやつを大蛇に聞いておいてくれ」
ミディはうんうんと頷き、雨の森に消えていく。すると待ってました!とアルとビノがやってきて、撫でろアピール。撫でてやって、干し肉を与えてやると嬉しそうに奥の部屋に帰って行った。干し肉食べたかっただけだな、あれは。
結界の本を色々試すうちに、その呪文や効果の違いを知ることができた。普通の一枚の板のような結界をバリア、円状に全体を守るのがサークルバリア、風魔法などを周りに纏わせるバリアをウィンドバリアのように言うらしい。
その中でも一番習得したいのがサークルバリアである。バリアを広範囲にするためには魔石を使うか、魔法陣というのを使うといいらしい。魔石はないから、魔法陣が書けるように頑張ろう。
《キイテキタ!アシタ、アメ!ソレカラシバラク、アメフラナイ!》
「おお、お前の天気予報も当たるじゃないか。わかった、そのつもりで行動するよ」
洞穴で魔法の練習をしながら、二日後の朝本当に晴れていた。大蛇天気予報恐るべし。
「あ〜久しぶりに身体を動かせるな!」
「ウェルナーちゃん、おはよう。すぐ朝ごはんにするわね」
「婆さん、わし海行ってくるからの!飯はいらんぞ!ターシャ行くぞッ」
「ルーク!ヨナスと散歩に行ってきて〜」
なんてエルフ達が元気よくあれこれと作業しはじめる。遅れてヨタヨタとでてくるのがミュリンだ。ユーリ婆さんに支えられて、火おこしをやるつもりのようだ。だいぶ食べられるようになったし、散歩を日課にさせよう。
俺は家畜の世話だ。まず鶏小屋に行って卵を回収して、フレッドが用意した鶏の餌をたっぷりと。水も取り替えて。卵については、蛇達に見せると食べていい卵とヒヨコになる卵を分けてくれる。今日は二つを小屋に戻した。数が増えるのはありがたい。
卵をソニア婆さんに渡すと、次は牛だ。新しい草をやり、糞と寝藁を替えブラッシングをして、ミルクを絞る。普段なら小さな樽一杯くらいなのだが、二日搾らなかったからだろう、なんだかまだまだ出そうだ。また昼に搾ることにして、とりあえず世話は終了だ。
次は馬のオズワルドだが、なんか今日は機嫌が悪い。寝藁と糞を片付けて餌をやっても、ブルルンと違う!みたいな感じだ。ブラッシングか?とブラシを取り出しても違うらしい。
「アル、ビノ…なんで怒ってるかわかるか?」
「…シュシュ。シュロロ〜」
「水…は取り替えてある。違う?水…あ!洗って欲しいのか!」
そうだと言わんばかりにブフンと鼻を鳴らしたオズワルド。オズワルドを小川に連れて行き、バケツに水を汲んで身体に水をかけてやる。石鹸をつけて、ブラシでゴシゴシ。気持ちよさそうだ。
綺麗になったオズワルドを連れて戻ると、食事の支度がちょうど終わるところだった。火の周りに集まってみんなで食べるのがなんとなくの決まりである。食事が終われば、各々の仕事の開始だ。
畑は小さな芽がちょこんと出ていて、早速収穫までが楽しみになってきた。
ユーリ婆さんの指示の元、今ある畑と同じ規模の畑を耕す。雄牛で土を掘り返し、石灰や家畜の糞を混ぜ、畝を作っていく。ちなみにこの畑はすべて小麦畑になるのだそうだ。主食だから頑張って増やさないとな。
今日の育児担当はルークらしく、リノが耕すのを手伝ってくれているおかげでスムーズに畝作りができている。なんとか今日中に種まきを終わらせたいところだ。
背中を伸ばしていると、リノが近寄ってきた。
「ウェルナー、畑のことで相談があるの。これから果樹園を作ろうという話しになっていたでしょう?その場所なんだけど、もう少し西の洋梨の木がよく成っている辺りを開拓したいのよ。
あのあたりの土や日当たりが果樹園にちょうど良さそうなのよね」
「ああ、あそこか。少し遠いが、歩いてもそう遠くはないしな…ただ水が少し大変か…井戸を作れないか大蛇にお願いしておく。その場所での果樹園作りの方向で進めてくれ」
「ありがとう。大蛇様によろしくね」
すぐさまオズワルドと滝に行き、大蛇と交渉。大蛇が夜のうちに井戸を作っておいてくれるそうだ。ついでに天気予報を聞いて、しばらくは晴れだと教えてもらった。
滝にはたまたまエルドと馬のターシャがいて、海から漁をして帰るところだったようだ。イカをたくさんとったようで、今日はイカのパスタじゃ!とか騒いでいる。
そんな感じで、着実に島の開拓は進んでいるのであった。




