孵化
翌日、一応警戒はしているものの魔物を知らせる警報が鳴ることはなかった。
なので、孵化の方を楽しみにしていて、フォレストドラゴンペアに孵化を見ていいか聞いてみると、快くいいと言ってくれた。ありがたくその瞬間を見せてもらうことにした。
アクアドラゴンやアースドラゴンも見せてくれるそうなので、みんなそれぞれ好きなドラゴンの巣の前で、今か今かと産まれるのを待っているのである。
アクアドラゴンの力が強い1ペアと、アースドラゴンの長ペアはまだ起きていないのだが他は全員起きて、元気に飛んだり泳いだりしている。
俺はフォレストドラゴンの巣を見せてもらっている。しばらくするとコツコツ、と卵の中から音がした。
《うふふ、もうすぐですよ。ドラゴンは、産まれる時だけ孵角という角がついているんです。これを使って殻を破ります。一ヶ月くらいすると、取れてしまうんですけどね》
「なるほどなー、頑張れよ、チビドラゴン」
フォレストドラゴンの雌は雄と比べて穏やかというか、お淑やかな感じで、なんでこれで方向音痴なのか疑ってしまう。フォレストドラゴンの雌は起きた際にとても感謝してくれて、こちらも嬉しい。
一緒に見ているのは大体が森の拠点を担当していた人達だ。やはり自分が護ったドラゴンの孵化を見たいものだものな。
やがて、少しずつ殻にヒビが入っていって、可愛い緑色の角が見えてきた。
「手伝ったりしないのか?」
《しませんね…自力で出てこれない仔は弱い仔なので、もし出てこなかったら喰べてしまうんです》
「き、厳しいな……」
そんなことを話していると、バキッ!と大きく殻が割れた。ピョコンと薄緑のチビドラゴンがクリクリした顔を見せた。両親は嬉しそうに新しい家族に頬をすり寄せる。
あまりに嬉しくて、俺は感動で泣いてしまった。頑張って巣を護ってきたから、感慨深い。この姿を見るために頑張ったとまで言える。
「おお、産まれた!産まれてきてくれてありがとう!!」
《こちらこそ、本当にありがとう。本来なら来ないはずのフォレストドラゴンの私たちを護って戦ってくれたこと…私たちのせいでヒッポグリフが来てしまったのに、責めずにいてくれたこと…こうして喜んでくれたことも…とても感謝しています。必ず、この恩は返しますから》
「気にするな。俺たちはドラゴンが無事に子育てできたなら、それでいいんだよ。本当におめでとう。頑張ったな」
仲間たちも、うんうんと頷きながらドラゴンを労う。そして、赤ちゃんを喜ぶ。頑張って産まれてきてくれて、本当によかった。
なんと、産まれたばかりの仔ドラゴンは翼を伸ばしてパタパタと飛んだ。すぐ飛べるとは聞いたが、こんなに早いとは。飛べたらすぐにいなくなるというし、少し寂しい。
もう行くのか?と聞くと。
《その…お恥ずかしながら、帰り道がわからないので、アースドラゴンの方々に神聖王国に連れて行ってもらいます…》
などと言っていて、笑ってしまった。
翌日、フレッドがたくさんの金貨とワイン、エール樽と共にやってきた。再会できたことに俺たちはギュッと抱き合った。
フレッドに渡したワイバーンなどの素材は非常に高値で売れ、上々の売上だったそうである。特にシーアリゲーターの皮は、貴族の鞄などに使われているからか、天井知らずに高値がついたとか。
残る住民、離れる人も決まったので、離れる人に対して報酬を支払う準備をした。そんなわけで、いつものメンバーと報酬と今後について会議をすることとなった。
メンバーはフレッド、ルーク、エルド、キース、ジルベルト、サン、ジャック、アスラ殿だ。
「――じゃあ、一律金貨800枚で小さめの魔石と魔物の素材を一種類ずつ渡す。これでいいな?」
報酬はお金と魔石と魔物素材を望む人だったので、平等に振り分けた。魔石や魔物素材が要らない人は、売れば大金になるだろうし、欲しい人はその人たちの間で、金貨で交換するようにしようとなった。
アスラ殿は要らないと反対したのだが、あくまでも平等を協調し、要らないなら部下にでもやれという話しになった。そこまで配慮できない。
「次は、このあと二週間島を離れる必要がある件だが…姐御に頼んで二週間住まわせてもらうのがいいかとおもうんだが…畑はどうだ?」
「畑は大丈夫だよ。ミディとか蛇達に水やりを任せてるくらいだし。ただ養殖がちょっと難しいかな?どう?エルド」
「そうじゃのぉ…貝類はほっといて大丈夫じゃ。サーモンは稚魚を樽に入れて、水と空気の循環をさせとけばいいかの?問題は水虎じゃのぉ…まだ海に放って戻るかわからん。網で囲うにも、牙と爪ですぐ抜ける」
ドラゴン繁殖期はこちらで水をやっていたが、秋くらいからはミディが雨を降らせてくれるので、段々畑でも楽々なのだ。そんなわけで、畑は水やりできる。
問題は養殖というか、水虎達である。爪や牙がしっかりしてきているので、網を抜けてしまうのだそうだ。13個の樽にいれて過ごすか?なんて話していると。
「皆さん、すべてを解決する良い案がありますよ!アスラ様のお屋敷にご滞在すればよいのです」
「おおっ!そういえばその手があったな!!!そうだ!うちに遊びにくれば良い!!!」
なんと、フレッドには解決策があるという。
「アスラ様のお屋敷は、以前お話しした秘密の水路と繋がっておりまして、誰にも知られずペリネシア王国に入国できます。お屋敷には、プールやら厩舎やらもありますから、問題なく二週間過ごせるかと思います。
それに、今から十日後に“建国祭”と呼ばれる盛大なお祭りがあるのですよ。ジャネア王国と終戦を記念して、アーデン帝国など三国同盟や神聖王国、エーリッヒ共和国なんかの船がたくさんきておりまして、楽しいと思いますよ!!エルフの方もたくさん観光客として来ますから、エルフの方々も是非!!」
「そりゃ祭りは楽しそうだが、俺たちかなりの人数だぞ?さすがに迷惑だと思うが…」
「全然問題ない。百人くらいだとちょっと厳しいが、ちゃんと一人一部屋用意できるから、心配いらんよ!」
「ウェルナー殿、アスラ様は前国王陛下の弟君でございます。そのお屋敷は、王城の次に大きい上に防犯上にも、隠蔽魔法や防音魔法がかかっています。安心して過ごせますよ」
貴族だとは思っていたが、まさかの王弟?!あまりに気さくだったので最近貴族だというのも忘れかけていたのに。
サン以外のみんなが「は?」みたいな顔をして、目をぱちくりさせている。サンは貴族なので、顔は知らなかったが名前は知っていたので、すぐにわかったそうである。
みんなでコソコソと「どうする?敬語使うか?」「平伏すか?」とか話していると、アスラ殿はまったく気にする必要はないという。今まで通りでいい、と。
「大体、この島は身分差がないのだろう?大蛇様やフェンリル様と比べたら私もただの人間だ。この島に来て、本当にそれを思い知ったぞ。身分なんぞ、何の価値もない!あっはっは!!」
「それは言えてるのぉ。お前さんが貴族じゃろうがどうでもいいわぃ」
「たしかにな」
エルドの発言に、ドッと盛り上がった。たしかにこの島に来たら、身分とか、お金の価値とかどうでもいいからな。大蛇が快適か、快適じゃないかだ。
さて、俺はペリネシア王国に行ってみたくなってきたが、みんなはどうだろうか。
「で、みんなどうする?ペリネシアで祭りを見に行くか?」
『異議なーし!!!』
「じゃあアスラ殿、フレッド。その方向でよろしく」
アスラ殿とフレッドはとても喜んで、早速準備すると言ってくれた。アスラ殿から話を聞いたパトリシアとスティーブンもなんだかとても喜んでいる。
話しているうちに、すっかり夕飯時になったようだ。今日はきっと豪勢な夕飯なのだろう。大好きな水虎肉のミルク煮が見える。好物を作ってくれたようだった。
男たちはエール、ワイン、梅酒の樽の前に立ち、食事の鐘が鳴るのを今か今かと待っている。久しぶりの宴会と酒に、我慢が出来ないのだろう。かく言う俺もエールの樽に混じる。
テーブルに次々に料理が並べられていき、いつものようにミュリンがリーンリーンリーンと鐘を鳴らす。
「みなさーん!夕食の時間ですよー!!!」
それと同時にグラスがガチッと鳴った。
『カンパーイ!!』
長い戦いが終わった宴は、夜が明けるまで続いたのだった。




