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幻の島に流されたわけだが  作者: たぬー
第一章

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束の間の休息



 フェンリル達が参戦してから、二週間ほど経った。住民達は意外とこの状況に慣れつつあり、ユーリやルークは種まきやら苗木を植えたりし始めていてびっくりする。春のうちに植えたい作物がたくさんあるのだそうで、暇に空かせて植えている。


 エルドとカムランも養殖やら仔虎の世話をする余裕もあるらしい。ちなみに仔虎は中型犬くらい大きくなった。解体していないシーアリゲーターを丸々投げ込むと、元気に骨にするそうだ。可愛いのか恐ろしいのかわからなくなってきたな。


 最近はヒッポグリフとシーアリゲーターが多く、毎日ヒッポグリフ肉だ。ジャイアントホークほどではないがまぁまぁ美味しい。


 そんなわけで非番だった俺は、明日に備えるべくこの島名物、大蛇温泉を楽しんでいる。


「はぁ〜〜気持ちいい…」


 ちょうど今は誰もいないので、独り占めだ。と思っていたら、ジルベルト組の男たちがぞろぞろ入ってきた。昼番が終わったな。


「ウェルナー様、一番風呂ですね」


「ああ、明日昼番だからな〜さっさと風呂入って寝るよ」


「あはは」


 ジルベルト組は傭兵ギルドの面々と、俺と同じ奴隷あがりの猛者達、ユーリ婆さんにエイム夫妻、それとカムラン夫妻だ。安定した布陣である。


 わらわらと男達が入ってきて一気にむさ苦しくなったな。


「おうウェルナー、今日もよく働いたぜ」


「お疲れ。みんなも、毎日ありがとな。困ったことあったら言えよ」


「あーん?んなもんねーよ!なぁ?休みもあるし、飯はあるし、風呂もあるし、戦争行くより遥かに楽だぜ!」


 男たちはワッハッハとそりゃそうだと笑っている。ジルベルトなんか傭兵ギルドの奴らに「彼女も居ますしね」なんて揶揄われている。サンとはうまくやっているようだな。


 ついでに今日の戦いを聞いてみた。今日は最初にヒッポグリフ、次にワイバーン、シーアリゲーターが連続できて、最後にヒッポグリフだったそうだ。ジャイアントホークが来なかったのはありがたかったな。


「そういえば、解体を手伝っている新人達だが、ちょっと不満があるらしい。戦いに来たのに解体ばかりと思っているみたいだから、夜番の時にでも連れて行ってやってくれないか?」


「…んー、おめぇら、面倒見れるか?ほとんど使えねぇぞ?」


「教官と相談ですかねー。一度痛い目見るのも大事だしなー」


 傭兵ギルドのシステムはよくわからないのだが、冒険者ではなく傭兵ギルドに入る人は大体騎士団に入れずあぶれた人とか、貧民街育ちで金をもらって何度か相手を排除していたような人が多いと聞く。冒険者と違うのは、貴族から高い金を貰えるのがメリットだという。


 新人達は俺が見る限り、ほとんど素人だ。正直解体してもらっていた方が安心なのだが、やりたい気持ちも、新人を育てるのも大事だというのもわかる。


 ジルベルト組はギルドの弓隊爺さん達と相談してから決めるそうだ。どうなることやら。


 次の日、俺の組が昼番で、ジルベルト組が夜番だった。朝日が登り、アースドラゴンの前で魔物を待っていると、白大蛇クイーンがやってきた。


《明日から三日間嵐が来る。嵐の間は魔物が来ないから、私たちも休む。お前達もよく休むといい》


 という話があった。クイーン曰く、毎年何日かはあるそうで、大蛇達の唯一の休息の時間になるのだと言う。俺は喜んで皆に連絡し、今日頑張れば少し休めるぞ!と盛り上がった。束の間の休息となりそうだ。


 そして昼番は大変だったが、いつも通り全員怪我もなく過ぎた。夜番では翌日魔物もなく、休みだから見守る人がいるということで、傭兵ギルドの新人と、なんとジャミルとジャン、ジャコブが参加するという。


 ジャミルたちも、来年は戦闘に参加したい、この島を護りたいという気持ちがあるのだと知った。傭兵ギルドの新人は教官の爺さん達が、ジャミル達はキース達四人がついてくれるそうだ。というより、アスラ殿組とかも手伝ってくれるので、保護者しかいない。


 姐御にも少し手加減する様に、というか抜ける様に頼んである。シーアリゲーターがかわいそうになってきた。


 キングが来たぞ!と言ったので、新人とジャミル達に緊張が走る。そして姐御と兄貴のタックル、ダークエルフの銛、ジルベルト達の攻撃を抜けてシーアリゲーターが続々やってきた。


「躊躇うな!相手は喰い殺す気で来るんだぞ!」


「はい!」


 一番戦えているのはジャミル達で、ジャミルはルークから習っていた弓で。ジャンは槍を使って、ジャコブは投げナイフで。三人で一体を倒していくチームプレイが上手だ。特にジャミルは結構当たっている。鍛えれば来年は弓隊だな。


 逆に新人傭兵達は、武器の選択が剣なのがよくない。近づいて来ても倒す自信があればいいが、相手から距離を取るのは基本だ。ブンブン剣を振り回しても、間合いが狭いから難しいだろう。


「うわぁっ!?」


 シーアリゲーターが新人傭兵一人の腕を食おうと、飛び跳ねた。腕をシーアリゲーターの爪が掠めた。血が出ているが、まぁ死にはしない。


「チャンスだ!斬っちまえ!」


 教官たちはそう叫ぶが。


 飛んだ後は体勢が崩れるからすぐに振り向けば、相手を落とすのは簡単だが…新人傭兵は腕を痛がってそんなことは考えられない。アスラ殿がすぐさまシーアリゲーターの脳天に大剣を刺して殺す。


「戦場ではその程度の怪我では、誰も助けてやらんぞ。生き残りたいなら痛みを我慢してでも、戦うのだ!なりふり構わず戦え!!まだまだ来る!!!」


 アスラ殿が一喝する。その通りで、まだまだたくさん上陸を許している。夜はまだ始まったばかりなのだ。


 新人傭兵二人は、剣ではなく槍に武器を変えた。そして、ジャミル達の様に、二人でペアで攻撃するようにしたらしい。なかなかよくなってきたみたいだ。


 ギャラリー達もいることだし、特に問題はないだろう。もはやキングなんて巣に引っ込んでしまった。クイーンもシーアリゲーターが来たことを伝えるだけになっている。休めるならよかったよ。


「セイラ婆さん、あと頼むな」


「あんなに保護者が居たんじゃ、怪我したくてもできんね、あっはっは」


 すぐ近くにセイラ婆さんを置いているから、よっぽどじゃなければ問題ないだろう、と俺も拠点に戻ることにした。この隙に兄貴に頼んでフレッドに品を届けてもらうつもりなのだ。


 ワイバーンなどの魔物素材が大量にあるので、先に渡して売り捌いてもらってお金にするのだ。ついでに塩も買ってきてもらわないと、干し肉も作れないしな。


 水鏡を使って、フレッドを呼ぶ。すぐには出なかったが、一時間ほどして繋がった。


『ウェルナー殿!ご無事な様で何よりです!』


「ああ、元気だから心配要らない。連絡したのはちょっと相談があって――――」


 フレッドに、三日間嵐が来てその間魔物が来ないから、物資輸送をお願いしたい。兄貴を送るから、というとフレッドはもちろん了承してくれた。ただ、来るのはあぶないので物資の発注と兄貴に乗せるだけの仕事だ。


 大量の塩と肉を入れる樽をありったけ頼み、うちからは魔物素材をありったけ積めてエーリッヒ王国まで兄貴に行ってもらうことにした。雨が降っているし海も荒れているが、兄貴には関係ないからな。


 一日ほどで兄貴は戻ってきた。エーリッヒ自体には兄貴で30分で行けるのだが、たぶん発注に多少掛かるのだろう。とにかくありったけの塩と樽が乗っていた。エールが大量に乗っているのはたぶんサービスなのだろう。


 ちなみに兄貴は姐御と違い、のんびりしていてアイランドタートルらしい感じだ。背中には生き物は特におらず、エルフ達曰く珍しく、かつ貴重な薬草と花があったそうなのでそこはちゃっかりいただいていたりする。


 兄貴は寝るそうで、あと二日姐御とぐっすり眠るらしい。本当にありがとう。


 雨の中、西の入江には男たちが集まってくれていて、馬車に乗せて拠点へ輸送してくれている。エールがあったことは秒で広まったので、たぶん今日は酒盛りだな。


 拠点では女性陣が大量の料理を作っていて、良い香りがする。早く食べたい。


「マリア、マリア…三人の好きなものを作ってやってくれ。頑張って戦ったからな」


「うふふ。ありがとうございます」


 こっそり頼んでおいた。婆さん達も頷いているから、作ってくれるはずだ。


 フェンリル達はウルフ達と共にぐっすり眠っている。大蛇達、アイランドタートル達には貴重な休みだから、とにかくそっとしておく様に伝えてある。一応ジャイアントホーク肉と水樽は置いてあるので、大丈夫だろう。


 拠点の広場では新人傭兵二人が延々と男たちから説教やら、労いやらをかけられていて、げっそりしている。これもまた経験だな。


 今日のメニューはいつもより手が混んでいて、たっぷり量があった。俺のためかはわからないが水虎のシチューがある。ハンバーグとかステーキがあるのはたぶんジャミル達の好きなものなのだろう。


 リンリンリンといつもの食事の合図を聞きながら、束の間の休息を満喫したのだった。







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