緊急会議
バジリスクキングに続き、アクアドラゴン7ペア、アースドラゴン4ペア、そしてなぜかフォレストドラゴン1ペアがこの島に巣を作った。フォレストドラゴンは太い木15本をミチミチに植えて、その木の上に枝を組んで巣を作った。
本来なら山の拠点と海岸の拠点で考えられていて、問題なかったのだが、急に森の防衛までしなくてはならなくなった。となると足りないのは人員で。交代要員をそちらに回すとなると、本当に戦いっぱなしになってしまう。
「西の拠点を森の拠点にするとして、リノとノーラは戦闘員として回すしかない。戦える人があと数人と、西の拠点で赤子の世話ができる人が必要だ。食糧や武器、養殖の管理ができる人と、そこの防衛要員もいる。
時間がないが、姐御と兄貴がいるから、内陸やペリネシアへの輸送が簡単だ。とにかく協力できる人を集めるぞ!」
「傭兵ギルドなら数人集められると思うが、信頼できる奴がどれくらい今手が空いてるかわからねぇ」
「乳母や煮炊きなら…おそらく、いえ絶対連れてきます。ペリネシア王国の退役軍人の方に知り合いがおります。そちらも当たってみます」
ジルベルトは兄貴に乗って、フレッドは姐御に乗って人員を集めてくれるそうだ。一人でもいい、とにかく人が必要だ。
くるーくるるーと柔らかで可愛らしい鳴き声が聞こえている。アクアドラゴンの求愛の声だ。アースドラゴン達も空を躍る様に飛んで、求愛の踊りをしている。フォレストドラゴンもきゅーきゅー鳴いて、求愛している。
大蛇の話では、求愛の声が止んで翌日に産卵するという。つまり猶予は実質一晩である。
エルフ達はフォレストドラゴンの周りに、蔦でできた足場を作った。ここに乗って戦えるようにだ。それ以外に、高い木に小さな部屋を作り、弓が打てるようにしたそうだ。
森の拠点は、リノ、ノーラ。そしてフォレストウルフ達だ。足場にフォレストウルフ達を配置してなんとかするしかない。フレッドにはペリネシア王国で人員以外に食糧を追加で買ってきて貰うので、それはそのまま西の拠点に回すことになった。
そして――求愛の声が、止んだ。
「ドラゴンが産卵したら、大蛇ふたりが巣穴から出てくる。それまでは、食事なり準備なり各自で過ごしてくれ。始まる時には鐘がなる」
それまでは全員を拠点に戻している。ドラゴンが産卵しやすい様にという配慮だ。みんな大体食事をして、携帯食糧や武器の確認をしている。
すると、リノからジルベルトとフレッドが同時に戻って来たと連絡が来た。フォレストウルフに跨がり、西の拠点へ急ぐ。
西の拠点には、15人ほどの人がいた。短時間にこんなに集まったのか?!
「おう、戻ったぜ!ギルドから新人二人、あととっくの昔に辞めたジジイ共を連れてきてやった。ジジイでも弓くらい引けるとよ!」
『ジジイとはなんだ!』
ジルベルトは傭兵ギルドから新人だという二人と、傭兵ギルドをやめてしばらく経つが、弓が得意だという老人三人を連れてきてくれた。弓の使い手は一人でも多く欲しかったので、本当に嬉しい。
老人三人は各地の傭兵ギルドの新人教育に携わっているそうだ。弓以外の武器を使っていたそうだが、弓も使えるので連れてきたそうである。いざとなったら海側にも行ってもらうか。
フレッドが連れてきたのは、メイド服を着ている老婆二人と、執事っぽい老人一人。白髪混じりであるががっしりとした体格の騎士、そしてキースくらいの年の騎士5人だ。
どう見ても上流階級というか、貴族なのだがこれは大丈夫なのだろうか?
「ウェルナー殿、こちらは以前オリ…ペリネシアの王城で働いていたパトリシア様、エミリー様、パトリシア様の旦那様で元執事をされていたスティーブン様です。……ええと、詳しくは聞かずにお願い致します。
そしてこちらが数年前に退官なさった元騎士の、アスラ様です。他の方は、アスラ様のお気に入りの騎士?だそうです。……はい、えー、こちらも深くは聞かないでください…」
「フレッドが連れてきた人だ、信頼するよ。戦力は一人でも多い方が嬉しい。本当にありがとう!貴族なのだろうが、悪いがこの島にそんなことは関係ないから、文句は言わないでくれよ」
フレッドが連れてきた人たちは、それを嫌がることもなく笑顔で頷いた。早速配置を説明しよう。
手早く事情を話し、傭兵ギルドの新人とやらは西の拠点の護衛にして、パトリシア婆さん達に煮炊きと子どもの世話を任せた。傭兵ギルドの猛者三人は森の拠点の弓担当だ。アスラ殿一行には、山の拠点で交換要員になってもらう。その間に拠点の色々を理解してもらうつもりだ。
最後に。
「…フレッド、これまでの準備を手伝ってくれてありがとう。事が済んだらすぐにまた連絡するよ。だからそれまで、安全な場所にいろ。元気でな」
「ウェルナー殿こそ、どうか、どうかご無事で。島の皆様が誰一人欠けることなく、お会いできることを願っています。本当に、本当に…生きて、会いたいです」
「当たり前だろう。死んでたまるか…ほら、早く行け。もう時間がないぞ!」
フレッドと抱き合い、別れの挨拶を交わす。事が終わるまで、フレッドとは会うことも、連絡することもできないだろう。元気でやってほしい。
当然だがフレッドは商人で、戦闘要員でもなく住民でもない。フレッドにはエーリッヒ辺りに滞在してもらい、万が一食糧が不足した場合には連絡する手筈にしてある。
西の拠点分の食糧をおろしたフレッドの船は、足速に島を離れていった。
見送ったリノはパトリシア婆さんにヨナスとカラナを任せ、スティーブンに養殖について書いたメモを渡した。水虎の食糧が足りなくなる可能性もあるので、念入りに説明している。すべて承知した、と彼らは頼もしく頷いた。
それからはスティーブン、傭兵ギルドの教官に水鏡を渡して、急いで水鏡を登録して配置についてもらい、俺は中央の拠点に戻る。拠点や人員の説明については、ジャックにまかせた。ルークは山の交代要員らしく、近づいてきた。
「ウェルナー、各員配置についた。いつでも大丈夫だよ」
「ああ、いよいよだな…」
もうすぐ夜が明ける。おそらく、夜が明けたら始まりだろう。滝の前で、大蛇ふたりが出て来るのを待ちながら、少しだけ眠る。出てくれば、眠るのは先のことになるだろう。
《ウェルナー》
そう声をかけたのは、いつもの白大蛇クイーンだ。俺を起こしたクイーンはニコッと笑って、海岸に行った。遅れて出てきたキングに、上まで乗せてもらう。大蛇が出てきたことを見つけたミュリンが、リーンリーンと鐘を鳴らした。始まりの合図だ。
アースドラゴン達は卵を守る様に夫婦折り重なって、ぐったりとしている。本当に動けなくなってしまうのだな、と思いながらアースドラゴンの長ペアの前に陣取る。それ以外にも、キースなど元部下達が巣の前でじっと待っているのがわかる。
アクアドラゴンの方も、同じように丸まって卵を守っている。絶対にドラゴンも卵も、傷一つつけずに護る。そして、大蛇ふたりもだ。
いよいよ朝日が昇って、視界が明るくなってきた。キングの身体が少し動き、僅かだが何かを話している感じがした。
カーン!カーン!カーン!
始まりの合図とは違う、甲高い嫌な音が鳴った。ついに来たか。
『西からワイバーンの群れ、多数!!』
ーー長い長い戦いが、幕を開けたのだった。




