バジリスクの王とドラゴン、来たる
春の戦いに向けて、準備は着々と進んでいた。
「これは上だ!」
「海岸側の食糧足りてねぇぞ!運べ運べぇ!」
「誰か手伝ってくれー!」
まず山のアースドラゴン組は、弓で空の敵を狙うのがエルフ達と弓ができるクレハなど8人。巣の周りの平地で戦うのがキース、ライナス、レベッカと俺だ。
海側のアクアドラゴン組はダークエルフとジルベルト達10人。食糧や武器供給担当がジャック達とピコ、サン、セイラだ。ピコは武器の修理や作製、サンはウルフ達を使った物資輸送、魔物の死骸回収の指示や、撃退した魔物解体だ。それ以外にセイラには治療要員として、怪我や疲労回復を担当してもらう。
西の入江には、リノと元同じ部隊の隊員で、女性のノーラを配置した。西の入江は、基本的にヨナス、カラナを護るために避難させる場所にした。リノも戦いたがったが、グッと堪えてもらった。
それ以外の元軍仲間達には、交代要員になってもらうことになっている。2人ずつくらいを交代し、休ませるのだ。そうでないと、すぐに戦えなくなる。
そして、ミュリンとネルは山の頂上で見張りと連絡を任せる。というのも、ネルが使える魔法の一つに、「拡声魔法」というのがある。この魔法を使って、敵がどの方角からくるのかを伝えてもらえるわけだが…ネルはほとんど話せないので、ネルに魔法を掛けてもらったミュリンが話す形だ。
ネルは他にも隠蔽結界という敵から見えないようにする魔法が使えたので、矢を撃つための窓や、各拠点、西の入江にかけてもらうことになっている。本当に外から見えないので、弓隊は喜んでいた。
今はピコとエイム、リリィが総出で弓矢を作っている。一万本を目指しているそうで、とにかく頑張っている。
山の拠点は昇降機を中心に、食糧庫、仮眠室、トイレを完備した。それ以外に東西南北に小窓をつけてあり、予備の窓もあるので最大8人で攻撃できる。かなり実用性があると思う。
海側の拠点は広めの空間に、トイレだけ別に作り、あとは海に入れるようにしている穴があるくらいで、戦い方の違いを感じる。
そしてついに――。
《アイツが来る》
大蛇より格上のミストバジリスクのキングがこちらに向かっているといい、初めて大蛇が滝の巣穴を出て海岸で待つ様子を認め、改めて大蛇側が格下であることに驚く。
島のみんなも、いよいよ始まるのだと緊張した面持ちだ。
海岸の霧の先に、大蛇と同じ…いやそれより一回り大きいような影が見えたと思った。だが、次の瞬間には目の前に、いた。
金色の身体、金色の瞳。大きな身体。更に、ミディくらいの金色のチビ蛇を数匹つれていた。
うちの大蛇がペコリと金大蛇に頭を下げて、金大蛇が白大蛇の顔に頬を擦り寄せている。いつもアイツとか言っているから感じなかったが、二人の間にはちゃんと愛を感じる。
《キング、うちのから聞いていると思うが…私が気に入っている人間、ウェルナーだ。私達と共に戦うなどという馬鹿な奴だ》
《…ほお。お前がそこまで言うとはな…儂はキング。ミストバジリスクの王だ。儂らの邪魔をしなければ、それでいい》
「ウェルナーだ。大蛇…クイーンには、本当に数えきれないほどの恩があるからな、微力ながら戦うよ」
キングはクイーンと違って、人間のことなどどうでもいいという感じで、心配もしなければ興味もないのだろう。なんというか、とてつもなく威厳がある。
大蛇二匹はそのまま滝の中へと入って行ったようだった。あの巣穴に二匹入れるのだろうか?という無粋な疑問を持ちながら、拠点に戻る。
拠点では、決起集会の様に全員が集まってきた。この時のために、十分計画を練って準備してきたのだから、絶対に大丈夫だ。そう信じている。
「キングが来たということは、じきにドラゴン達がやってくるだろう。みんな、覚悟を決めてくれ。長い戦いの始まりだ!!やるぞ!!!」
『おおーーッッ!!』
いよいよ、長い春が始まろうとしていたのだった。
――数日後。
穏やかな春風を感じる日だった。
白い大蛇クイーンは最近ずっと巣穴の外に出ていて、念入りに俺たちの拠点に結界をかけたり、空や海を警戒している。そして、海岸を見ながら。
《…アクアドラゴンが来たぞ。今年は多いな》
「来たか。…こちらウェルナー、アクアドラゴン到着だ。頼んだぞ」
クイーンからの言葉に、水鏡を使ってダークエルフに連絡。俺もクイーンと共に海岸へと向かう。アクアドラゴンが到着したら、姐御を呼ぶ手筈になっている。
霧をものともせず、海からぴょんぴょんと一斉に上がってきたのが、アクアドラゴンだ。濃い青から薄い水色まで、総勢7ペア上がってきている。その身体はあのフェンリル程大きく、白浜と浅瀬がギチギチにドラゴンで溢れている。
一番身体の大きいアクアドラゴンがクイーンのところにやってきた。
《クイーン、この人間達はなんなの?まさか卵を奪いに来たわけじゃないでしょうね?》
《逆だ。卵とドラゴンを護るためにいる。私の子分だ》
《…ふーん。まぁ護ってくれるならいいわ》
なんて会話をしている。アクアドラゴン側に敵意はないが警戒はしている感じだな。あまり近寄らない様に言っておこう。
アクアドラゴンは海藻類を巣にするそうで、あっという間に七つの巣が出来上がっていく。うまく等間隔に作っていて、こちらとしても守りやすい。
《アクアドラゴンは巣ができると、求愛の声を出すんだよ。その声が鳴きやむと、交尾して翌日には卵を産む。今年は序列が高いのが来ているから、回復まで長いだろう…む、アースドラゴンが来たな。上に行こう》
「わかった。…こちらウェルナー、アースドラゴン到着。よろしく頼む」
序列が高いというのは、強いということらしい。強い個体はそれだけ魔力量が大きいので、回復まで時間がかかるのだそうだ。
アースドラゴンは南の空からやってきた。アクアドラゴンと違い、ゆったりと飛んできている。茶色で、アクアドラゴンより大きく見える。数は4ペアだろうか。
この数は例年通りだそうなのだが、よりによってこちらも序列が高い個体がいたらしい。というか…。
《お前達、まだ仔をつくれたのか…》
《おお、蛇…オイもびっくりでなぁ。母ちゃんまだいけんのかって思った……》
アースドラゴンの長達ペアが来ているのだという。話し方からしても、相当高齢に感じる。大丈夫なのだろうか。いや、それより長ってことは、かなり回復に時間がかかるのではないだろうか。
《んで…その人間はどした?卵奪いに来たんか?》
《馬鹿いえ。逆だ。卵とドラゴンを護るために私と戦ってくれる人間だ》
《…変な人間だなぁ。自殺願望でもあるんか?》
アースドラゴンの方は警戒はしていないが、どちらかというとキングタイプだな。特に興味もないって感じだ。
うちのクイーンがアースドラゴンと話していると、するりと金大蛇キングが上がってきた。キングもアースドラゴンと挨拶していて、やっぱり長夫妻にびっくりしていた。
クイーン曰く、アースドラゴンの担当がキングでアクアドラゴン担当がクイーンなのだそうだ。簡単に言えば空担当、海担当で別れているらしい。イレギュラーに来るというファイアードラゴンも噴火口で巣を作るので、キング担当だという。
《……ん?なんだこの気配は…?》
《…儂もわからん。何か来る…ドラゴンか?》
西の方を見るキングとクイーン。俺にはまだ何も見えていないが、何かが来ているのだという。魔物にしてはドラゴンに近い魔力だという。
一緒に西を見ていたアースドラゴンの長が、気がついたようだった。
《あ〜、フォレストドラゴンじゃねか!こんりゃまた珍しい…普通は神聖王国の森、エルフの結界ん中で安全に産んどるはずだども》
《チッ…地上も護らねばならなくなったか》
《…はぁ…約定にはフォレストドラゴンは関係ないのだが…来てしまったら仕方がない》
大蛇ふたりもわからない初めて出会うドラゴンだという。だんだんと姿が見えて来ると、それが緑色のドラゴンであることがわかる。数は1ペアで、何か事情があると思われる。
とりあえず俺は急いで各拠点にイレギュラーを連絡し、産卵までに対策を考えるから後で会議する旨も伝えた。
東からやってきたフォレストドラゴン二頭は、島の前で一度止まり、アースドラゴンと大蛇ふたりのところへ飛んできた。
事情を聞いてみるとしよう。
《…この島はアースドラゴン、アクアドラゴン、ファイアードラゴンの産卵地である。フォレストドラゴンが何用だ?》
《う…そ、そのボク達神聖王国までの道がわかんなくなっちゃって…でも産卵はしたくて、どうしたらいいかあちこち聞いて…ようやくこの島で他のドラゴンが産卵してるってわかったんです!
その…今回だけですから、こちらで産卵させてください!!!》
《ドラゴンなのに道に迷うのか…?》
キングの疑問、俺もそう思ったよ。ドラゴンにも方向音痴がいるんだな。
《蛇よ、こやつらは一等若い。初産卵だろい?…うん、産むまでがちいとかかるだな。巣の作り方はわかるのかぁ?何、精霊樹の上で巣をつくる?ここにそんな木ないんだども?!》
「あー…じゃあエルフに頼んで、何本かの木を集めて巣が乗る様にしてもらうよ。というか、エルフに聞いた方が早いから、森の方に降りてくれ。エルフが助けてくれる」
《わぁ!エルフ達もいるんですかこの島!!た、助かったぁぁぁ〜!》
急いでルークやエイムに連絡して、フォレストドラゴンが巣作りできるように整えてもらうようにした。
これには大蛇ふたりも呆れていて、《このドラゴン大丈夫か?》とふたりで仲良く話している。でも追い出す気はない様で、面倒ごとが増えたけど仕方ないくらいに言っていた。
一番びっくりしていたのはエイム達で、神聖王国にしかいないフォレストドラゴンがまず旅していたことに驚き、方向音痴なことにも驚いたそうである。
そんなわけで、これですべての産卵期のドラゴンが揃ったことになる。思わぬイレギュラーがあったが、それでも防衛できると信じて頑張るしかない。
フォレストドラゴンの警備について話し合うために、拠点へと戻ったのだった。




