フェンリルの女王
揃った人数は総勢40人程で、それ以外にフォレストウルフ20頭ほどとアイランドタートルの姐御と姐御の弟という兄貴が参加者だ。姐御の弟という兄貴にはまだ会えていないが、姐御が海岸側で兄貴が北側を見張ってくれるそうだ。落ち着いたら背中を見せてもらおう。
戦闘要員は30人程で、あとは食糧、武器供給と治療要員となる。
今考えているのは、食糧と武器の供給方法と休憩場所だ。山の中腹にあるアースドラゴンの巣の跡がある場所辺りに一つと、アクアドラゴンが巣を作る海岸にも欲しい。
「そこの洞穴の中央の部屋から、山の中心をぶち抜いて、この中腹あたりにちょっとした空間を作ろう。そこからいくつかの弓を打てる小窓を繋げて、矢を射るようにしよう。その広間に武器や食糧、休める拠点をつくる。
問題は上下の移動だ。何かいい案はあるか?この作戦だと供給担当とエルフ達にかなり負担がかかるんだよな…」
「…それなら、わたしが昇降機を作りましょうか?」
ドワーフのピコが恐る恐るといった感じで、発言してくれた。
どんなものなのか聞いてみることにした。
「簡単に言うと…井戸のように滑車を使って、糸を引いて下から上に持ち上げる感じです。それを上下にできるようにした感じでしょうか?…スイッチを押すと動きますが、ある程度の大きさの魔石がないと数回しか使えないのですが……」
「おお!それいいじゃないか!!作成に取り掛かってくれ!必要な鉱石はフレッドに急いで買ってもらうとして、魔石はこれ好きなだけ使っていいから」
「…ヒェッ?!最高純度の魔石がこんなにっ?!えええっ?!」
とりあえず山のほうの拠点は解決だな。次は海側の拠点についてだが、ダークエルフ達曰くもう作りたいところは決めているそうで、海岸の東側の岩場と山が接している所に作りたいのだという。
この位置なら敵に見つかりにくいし、大蛇の巣穴を避けて拠点と繋げられるという。
「ここなら、海側に穴を開けておけば、いざ逃げるってなっても海に飛び込めるし、もし西の入江から船で食糧供給するとなっても、しやすいからね」
カムランたちがいいなら、それで行こう。
この穴とかについては、大蛇にお願いした。作りたい場所と設計図的なのを説明して、特に縦穴と海岸への横穴を作ってもらえるように頼んだ。
次は今の段階で仕入れて欲しいものの聞き取りだ。最近はミディをフレッドと行かせると、半日でエーリッヒ共和国まで行けるとあって、往復しやすくなっているそうである。
「銛がたくさん欲しいのぉ。あとは例の呼吸が続く魔道具と、ヘッドライトとか水中用ランタンが欲しい」
「矢の原料となる竹と矢尻になる鉱石が大量に欲しい。フレッドと一緒に行って選んでくる。ダークエルフの銛についてもわかるからちょうどいい
」
「私も滑車や板材、鉄なんかが欲しいので一緒にいきます!」
「通信用水鏡は必要だろう!」
「解体用の包丁とか、解体した素材を入れておく樽とか木箱も欲しいのですが…あとパン焼きようにレンガと薪なんかも欲しいですね」
フレッドが出たものを目録にまとめ、早々に買いに向かってもらう。少し時間がかかるそうだが、二、三日で帰ってくるはずだ。貯めていた真珠や金貨を渡したから、金銭面には問題ないだろう。実はまだ金塊10本と海から拾った貴金属があるので、資金には余裕があったりする。
俺はもう驚かないが、翌日には設計図通りに穴が開通していて、古くからの住人以外は驚いていた。そこから使いやすいように各々が調整を加えていく。
あとは何が必要かをエルド、ルーク、ジャック、キース、ジルベルト、サンと話していると。狼達が空を見上げて吠え出した。蛇達は俺たちを守るように一斉に集まってきた。一体なんなんだろうか?ミディがいないから通訳がいないのが痛いな。
「…ウェルナー、来たよ。フェンリルだ!」
「あっ!そうか!!」
北の空に、白い粒が見える。それはどんどん近づいてきて、巨大な翼を広げる狼が現れた。フォレストウルフの10倍は大きく感じる。ガロウの様に白いが、キリリとしていてガロウとは全く違う気高さがある。
拠点の真上で羽ばたいているフェンリル一体は、ふわりとフォレストウルフの前に降りてきた。フォレストウルフ達はスッと伏せをして、従順を示す。同じように伏せをして尻尾をふりふりしているのが、ガロウである。
《我が仔よ!!!》
フェンリルがそう叫ぶと、ガロウがキャンキャン鳴いて、フェンリルの元へと駆け寄る。フェンリルの母親はガロウへ頬を擦り寄せ、ガロウも甘えるように鳴いている。ガロウは一生懸命に吠えていて、あんなことがあった、こんなことがあったと話しているようだった。
本当によかった。ガロウはこれでようやく家族と共に安全な場所で過ごせるだろう。
その感動の場面を、フェンリルは突然終えて俺へと顔を向けた。
《…お前が、我が仔を見つけて育ててくれた人間か。我は北の雪山のフェンリルの女王である。…これまでのことは、海鳥と我が仔から聞いた。育ててくれたこと、本当に感謝する。
おかげで、死んだものと思っていた我が仔とこうして再会できた……これほど嬉しかったことはない。礼を言う。我はお前のために、できることをなんでもしよう》
ガロウが言ってた母親がフェンリルの女王って、本当だったのか。たしかにカッコイイな。
「俺たちも親に会わすことができて嬉しいよ。…むしろもっと早く連絡してやればよかったと思っているくらいだ。連絡が遅くなってすまない。
…だが、これからはフェンリルの群れで過ごすべきだ。礼とかいいから、早く連れて帰ってやってくれ。それが俺たちへの礼にしてほしい。
ああ、帰る前に、うちの大蛇に会って行ってくれ。話があるそうだから」
礼をするというフェンリルに、ますます罪悪感が増してきた。俺のせいではないが、これ以上大きくならないかもしれないことや、早く連絡しなかったことへのフェンリルの女王に対するものも、大蛇に伝えさせることも。俺にはとても伝えられないから、大蛇に頼んだのだ。
ガロウはこの島やロベルト達と離れたくないようで、オロオロして、キャンキャンと嫌だ嫌だと鳴いているようだった。それを引き離したのが、無情にもフォレストウルフ達だった。ガロウに対して全力で唸り、吠えて、出て行け!と言っているようだ。
フォレストウルフ達全員から唸られたガロウは、クゥンと鼻を鳴らして怯えながら母親に隠れた。
心を鬼にしなくてはならない。こんなことを言いたいわけではないし、そんなことを思ってもいない。けれど。
「ガロウ!さっさと出て行け!!お前みたいな弱いフェンリルは、この島に要らない!!!」
思いっきりガロウを叱りつけ、さっさと家に引っ込んだ。あれ以上そばにいたら泣いてしまう。
あとから聞いた話だが、俺に続く形で、島民たちは家や別の見えない場所に居なくなったそうだ。すると残されたのは、親のフェンリルとガロウだけになる。
《……行こう、我が仔よ》
その言葉に、ガロウはガックリとうなだれたとか。
しばらく部屋に篭っていたが、ビノが外に出ようと引っ張るので、フェンリル親子が島から居なくなったことを悟った。よかったよかった、と外に出る。
女性陣が料理を始めたようで、わいわいと何を作ろうか話している。混じって水虎の料理をねだろう。
「今日のメニューはなんだ?水虎なんかあると嬉しいが」
「しょうがないねぇ〜。水虎の煮込みでも作るかい?人数が増えたから、ステーキは出来ないよ!」
「婆さんワシはイカとタコに小麦つけて揚げたやつが食べたいぞ!あれは酒のアテに最高じゃ!」
「ちょっと!モノがないよ!食べたいなら獲ってきな!」
エルドはカムランを巻き込んで、食材をとりにいった。途中ソルも回収されたのですぐ戻ってくるだろう。
最近は住人が増えたから大きな鍋や鉄板で調理して、各自でとって好きなだけ食べるスタイルである。なので、大体スープといくつかのメイン、それとパン、デザートを作ってくれている。デザートは女性陣がどうしても欲しいから毎回あるんだよな。
料理が出来上がるのを待ちながら、ああだこうだと島のことを男達と話す。進行状態は悪くないな。なんとか間に合えばいいが。明日辺りにはフレッドも帰ってくるだろうから、そうしたら整うだろうか。
ダークエルフ達がもう戻ってきた。網にイカやタコが詰まっている。イカ揚げはたしかに美味いから楽しみだ。
「皆さーん!夕飯が出来ましたよー!!!」
ミュリンが本来牛につけるベルを、リンリンリンと鳴らしながら声をかける。これが食事の合図なのである。
鐘が鳴ったので、ゾロゾロと島中から人が集まってくる。そうしたらもうわいわいと食事や酒となり、愉快な夕飯になるのだ。
俺もいつもより酒を呑んで、ガロウが居なくなった悲しみを紛らわせることになったのだった。




