島の秘密
水虎狩りから、一月ほどが経った。相も変わらず穏やかで、皆が健やかに過ごしている。
最近は何か手伝えることはないかを探すのに、毎日拠点と海岸を見て回っている。冬は作物の育成もユーリ婆さんひとりで足りるので、ルークやリノが巨大な倉庫を建てるために木を切っているのだが、それすらフレッドの従業員とキース達で事足りてしまう。
もう温泉から海岸までの木を切ってしまうことにしたそうで、移動しやすくしたいらしい。そこから出た木を使って倉庫と、家を何軒か建てるとかで。
ルーク曰く「また住人が増えてもいいように」と言っていた。ルークの勘は鋭いので、あり得るかもと思い始めてきた。
まずは家畜だ。リトルボアがドンドン子を産んで、もう30匹程になる。ジャックがまだ増やすというので任せている。鶏達もいっぱいいるが、これは結構食事に出てきているので、雄を間引いているみたいだ。ジャー牛は、マリアとマーナが毎日毎日たくさん牛乳を搾って、ほとんどがチーズに加工されている。
馬はというと、最近は森に放しているそうだ。オズワルドは賢いし、狼達も一緒なので、欠けることなく帰ってきている。羊はなんと買ったときには気づかなかったが、一匹の雌が子を妊娠していたそうで、夏には生まれてくるそうだ。
あとは狼だが、ガロウはちゃんと狼になった。羊を小屋に入れたり、辺りを警戒していたり…昨日は、初めてウサギを狩って帰ってきたという。ロベルト達とガロウをこれでもかと撫で撫でしてやった。
拠点の畑は、今はリーフレタスを植えているそうだ。といっても、三面あるうちの一面だけで、あとの二面は土を整え中だとか。
段々畑の方は四段目…と行きたかったが、なぜか一段目を滝側ギリギリまで広げている。大蛇がそこまでならいいと言ったからだそうだ。来年はかなりの収穫量を見込めると思う。
果樹園はリノに任せていたのだが、秋の5倍は面積が増えている。土を作っている途中だそうだが、いずれ一面葡萄畑になるとかなんとか。ちなみに養蜂は例の姐御島の蜜蜂だけだとかで、来年はなんとしても巣を移したいらしい。
次は養殖サーモンだな。ラナがカラナを背負って、小エビをやっている。サーモンは海老や蟹が好物だそうで、養殖用に沢山干しエビを仕入れてある。
稚魚もちゃんと大きくなっているようで、川の水を入れ替えて循環させている。育て方もスネイ達から教えてもらったから、問題ないという。これも楽しみにしておこう。
目の前をタヌキ一家が通った。コタももうほとんど親と変わらないし、冬毛でもふもふとしていて愛らしい。タヌキ達はキノコと川魚担当で、食べられる物を持ってくる代わりに、肉や果実をもらう。うまく共生しているようだ。
海ではオイスターとアコヤガイの養殖、それと仔虎の世話がメインだ。貝類はやはり来年に期待だそうで、そのかわり少し規模を大きくした。
何より可愛いのは仔虎達で、すっかり目を開けて誰か樽を覗き込むと、水面に上がってきて可愛い顔をして鳴く。泳ぎもスムーズになってきて、そろそろ樽は狭いかもしれない。
ミルクはもう飲まず、海老や小魚を樽に入れてやれば一斉に捕まえて食べるという。水虎っぽくなってきたな。
「あ、ウェルナー、その水虎達なのだが、そろそろ海に放してみたいと思っていてな。大規模な養殖用の網と結界の魔道具を買ってもいいか?」
カムランが海老を網いっぱいに獲ってきたようで、無造作に仔虎の樽に入れながらそんなことを言ってきた。もちろんそれは構わないのだが、すぐには無理かもしれないと言っておいた。
カムランたちはこの砂浜ではなくもう少し沖の方に養殖場を作りたいそうで、そのための足場と船着場を作りたいとか。大蛇とフレッドと相談だな。
そういえば、開戦したそうだが、今はどうなっているのだろうか。今日はみんなで会議しながら、春に向けて欲しいものを考えるとしよう。その前に大蛇から春にして欲しいことは何か聞いておかないと。
大蛇の巣穴は外より暖かく、カイロ石が室温をあげてくれていてホッとする。チビ達は大体カイロ石の麻袋の上で過ごしていて、大蛇は魔暖石の上で丸くなっていた。
「あったかいなーここは」
《…おかげ様で快適に過ごせているよ》
大蛇を撫でてやりながら、今日の島のあれこれを話す。とくにカムランたちの話については、意見を聞いておきたいと思ったのだ。勝手に作るわけにはいかないし、沖に養殖場をつくりたいからどうしようという話をした。
うーんと悩む俺に大蛇は「西の方に作ればいいじゃないか」なんて、キョトンと首を傾げた。何のことだと首を傾げると。
《……もしやお主、西の入り口を知らんのか?》
「は?」
《西の塩の土がある辺りの岩をどかしてごらん。船が出入りできる海底洞窟がいくつかある。その一つを使えばいいだろう。
ああそうだ…海岸にある船や養殖のやつは夏までそっちにうつしておいてほしい。春にアクアドラゴンが海岸で子育てするからな、邪魔になる》
「待て、待て待て、海底洞窟にアクアドラゴンだと?ちょっと詳しく頼む!春は他に何があるんだ!?」
急に飛び出してきた海底洞窟とアクアドラゴンという話題に、全く脳が理解できていなかった。ゆっくりと順を追って大蛇に説明を求める。
《春になると…まずアヤツが来る。以前話した私より格上のミストバジリスクだ。そいつがきた後、この島はドラゴンの繁殖地として毎年アクアドラゴンとアースドラゴンがやってくる。
だが…ドラゴン達は卵を産むのに力を使うので、ほとんど動けなくなるんだ。それを知っているワイバーンやらジャイアントホーク、シーアリゲーターなんかの魔物がドラゴンの卵を喰いにくるんだよ。
そんなわけで、私とソイツでドラゴン達の卵を護るのさ。年に一度の大仕事だな》
この島の周囲霧に覆われてはいるが、上空や海底までは霧が覆えないそうで、そちらから来る魔物は入ってこれてしまうのだそうだ。ワイバーンって同じ竜種じゃなかったか?
《私の母の時代にな、我々ミストバジリスクは皮が美しいと、人間達に乱獲されて数を減らしていた。とうとう百に満たなくなり、内陸では暮らせないと、仲の良かったアースドラゴンに頼み込んだ。そしてアースドラゴン、アクアドラゴン、ファイヤードラゴンにこの島を“創って”もらったのだ。
島を貰ったその代わりに、ドラゴン達の繁殖の手助けするという約定があるのだ》
まさかそんな風にこの島ができていたなんて。フレッドが以前ミストバジリスクが貴重で、滅多にいない魔物だと言っていたのは、そういうことなんだ。人間が私利私欲のために蛇達や魔物達を狩ったせいだ。
バジリスクはたまたま生き残ったが、絶滅した魔物はきっとたくさんいるのだろうな。わかってはいたが、本当に人間のそういう部分が嫌になってきたな。
《そしてドラゴン達がいなくなると、私達の繁殖期になって卵を産むわけだな。これが大体の春の恒例行事だ。
ああ、畑や拠点には私が結界を張っておいてやるから、心配するな。外に出なければ大丈夫だから》
「…俺も戦う。俺も大蛇達とドラゴンを護る。言っただろ、何があっても絶対護るって。大蛇が大事なものは、俺にとっても大事なものだから、大蛇の約定は、俺の約定でもある」
《やってくる魔物はドラゴンの卵を狙うだけあって、桁違いに強い。人間には無理だ。本当はアイランドタートルに乗って逃げていて欲しいくらいなんだよ。気持ちはありがたいが…》
「嫌だ!アンタが何と言おうと、俺はやる!!アンタに心配されるほど、俺は弱くないんだよ。それに、前に言っただろ?アンタには一生かけて恩を返すって。今年だけじゃなく、来年も、その先もずーっと戦ってやるぞ俺は!!!」
《……はあ…馬鹿め。大馬鹿だ、お前は…》
大蛇は俺の固い決心に、呆れたようにそう呟いた。そして諦めたのか、死なないように十分準備しろとだけ言った。
俺はこの大蛇とこの島が好きだ。大蛇にはたくさんのことをしてもらってきたのだから、今度は俺がその恩を返す時だ。きっと、島のみんなだって気持ちは同じはずだ。
春までもう時間がそれほどない。急いで対策を立てなくては。そんなことを思いながら、足早に拠点へと戻るのだった。




