開戦と狩りの支度
新しくきたカムラン夫婦はあっという間に島に馴染んだ。カムランは主に海の方の養殖をやっていて、ラナの方は子育てをしながら煮炊きや薬草畑の管理をしている。ポーション作りや治癒魔法を覚えたいというので、本を渡して勉強してもらっている。
一番忙しいのはフレッドだろう。毎日のようにペリネシア王国と連絡をとり、午後からは俺や子供達への授業、夜もまた連絡をしている。最近は大きめの蛇をそばに置いて、いつでも連絡を受けたりしたりできる魔力要員までいる。
みんなそれぞれ頑張ってくれていて、開拓は進んでいる。俺は絶賛貝殻を砕く作業中だ。フレッドの護衛や航海士の爺さんと共に、毎日毎日こればかりやっている。そして細かくないと怒られるわけである。
段々畑は今三段目に突入していて、一段目はすでに肥料を撒いて土を整えていて、二段目は耕し中である。島の住人も増えたので、一段目をもう少し横に広げる話まで出ているから驚きだ。
いいことはまだある。うちの島ではデザート開発が活発になっているのである。毎日のように出るミルクは、チーズ、バター、クリームになり、卵も豊富、冬越しのために買っていた果実や蜂蜜、紅茶、カカオまであり料理し放題なのだ。
カカオからできるというチョコレートは、非常に美味しいと話題になったので、すでにありったけ植えているらしい。姐御の島にも植えてあるそうだから、やる気を感じる。
「もっと保存しやすい菓子ができないものかねぇ…」
「ミルクを入れなければ日持ちするんじゃないかい?」
なんて毎日試行錯誤しているようだ。
貝殻を砕いている俺の元に、フレッドがやってきて手伝いはじめた。すると不思議とルークやエルド、ジャック達もきて一緒に貝を砕き出した。今日の仕事を終えて、手が足りないところを手伝いに来た感じだな。
フレッドいわく新しい情報があるようで、集まっているならちょうどいいとばかりに話をしはじめた。
「先日、姐御殿にお願いしてケルピー達を駆逐したことで、ジャネア軍は一気に劣勢になりました。あらゆる海上拠点を徹底的に潰したので、ジャネア軍のペリネシア侵略作戦は失敗しました。戦争になったわけではないので、未然に防いだ形ですね。
しかし、陛下は大層お怒りで…ジャネア王国を攻め落とすことにしたそうです。内陸の三国同盟に資金と食糧を提供し、内陸と海から攻めるそうです。
そのようなわけで、明日ペリネシア王国から開戦の宣言をし、翌日に三国同盟からも開戦の宣言をするそうです。
今はジャネア王国の国民をなるべく逃すように三国が奔走しているとか……」
「そうか…俺も従軍していたからわかるが、戦争となると長くかかるからな。早く終わることを祈るばかりだよ」
「ああ…それなら、数日中にも戦争は終わると思いますよ。なにせあの秘宝を持つ陛下自らが出陣なさるのですから、下手したら数時間かもしれませんね」
「え?ど、どういうことだ?」
フレッドの話では、俺が以前見つけた失われた秘宝と同じ純度の魔石を保有しているのだという。純度の高い魔石は、魔法の威力を増強させたり、長時間維持したりできるのだという。
つまり、それをもつペリネシア国王陛下が、魔石を使ってファイアーボールを打ち込めば、首都は一瞬でなくなるのだという。恐ろし過ぎるだろその魔石。実際に撃ち込むのはアイスアローなのだそうで、王城をぶち抜くとか。
海上からでも狙えるように、何十年何百年もかけて研究していて、おそらく一撃で王城を壊せるだけの魔道具や魔法使いを揃えているとか。
「開戦の告知が届いたら即王城が破壊されるのですから、いやはや、我が陛下を怒らせるものではないですねぇ」
これまでその手段に出なかったのは、あちらの国民の避難がまだであったこと、そして魔石を使うと無くなってしまうからである。純度の高い魔石は数個しかなく、本当にいざという時に使うのだそうだ。
そういえば似たような石、この山の頂上でいくつか拾ったな。
「まあ早めに終わるならよかったよ。…そういえば、この島の山の頂上で秘宝?だったか?あれに似た石拾ったぞ。いっぱいあるから、やるよ」
今は俺の物置になっている洞穴から、麻布に入れてあった透明なでかい石たちをフレッドにやった。頂上にいけばまだまだあるしな。
フレッドはそれを見て頭を抱えて、うーんうーんと悩んでしまった。やがて死んだ魚のような目をして、それをマジックバッグに入れた。疲れているみたいだから、休みを勧めてやろうか。
結局、ルークの許可が出るまで貝殻砕きは続いて、必死にやったからかもう必要量は取れたからやらなくてよくなった。たぶん一番喜んでいるのはフレッドの従業員達だろう。
次の日からは本当にすることがなくなってしまったので、午前中はフレッドと勉強して、午後は段々畑の手伝いをして、夕方には大蛇のところでダラダラしている。ダラダラというかほぼうたた寝に近いな。
「はぁ…なんか最近俺にできることがなくてなあ……ぶっちゃけると暇だよ」
《……そういえば、そろそろ水虎が来る時期だな。今年は暖かいし体力もあるから動ける。久しぶりに喰いにいけそうだから…一緒に行くか?》
「スイコ?魔物か?」
《ツノが生えた虎の魔物だ。人間的には…シータイガーとか言うんだったか。尻尾がヒレなのがちょっと陸と違うが、魚肉というより牛肉に近くて美味い。
この時期になると、子育てをしに岩陰に集まるんだ。しばらく喰ってないからきっと大量にいるはずだ。
そうだ!エルドとカムランも連れて行こう。たくさん狩って持って帰ろうじゃないか。我が子達も喜ぶぞ!》
たぶん俺が暇だと言ったから、水虎とやらを狩りに行こうと誘ったのだと思うが、今は完全に自分が喰いたいからになっているな。しかも漁が得意なダークエルフ達を使う気で本気度を感じる。
今まで大蛇の好物を知らなかったから、なんか嬉しいかもしれない。もちろん俺は着いて行くよ、と答えた。
そういえば、漁がしやすいようにと水の中で呼吸ができる魔道具を買ったんだった。使ってみるとしよう。
《今日一度様子を見にいかせて、子が産まれていたら明日にでも行くぞ。まだ時期的に産んでないかもしれないから…その時はまた日にちを伝える》
「子が産まれる前は駄目なのか?」
《ダメに決まっているだろう。子はいずれ親となりまた増える。私だって全ての水虎を狩るつもりはない。せめて10…いや、20くらいでいい。血を絶やしたいわけではないんだよ》
「なるほどなぁ、絶滅したら困るもんな」
そうだ、と大蛇は頷いた。なんだかいいことを言っているが、よく考えたら親を殺して子が生き残る確率はそんなに高くないだろう。弱肉強食とはいえ、さびしいものがあるな。
ウキウキしはじめた大蛇と別れ、早速拠点で会議を開いた。具体的には、狩りにいくメンバー決めと、狩った水虎の持ち帰り方だ。
「エルドとカムランは…大蛇の御指名があるから、悪いが拒否権はない。ラナは子育て優先だからなしで…ソニアはどうする?」
「アタシも行くよ。この人になんかあったら困るしねぇ」
「え、私も行きたいのですけど…駄目ですか?」
エルド、カムラン以外にソニアも居てくれたら狩りや荷物持ちが楽かな、と思っていた。ただラナは子を産んだばかりで、絶対嫌がると思っていたのだが。
どうしようかとカムランを見る。カムランは普通に頷いて「大丈夫大丈夫」とか言っていて、さらに仰天である。
「ワシらは本気で漁をする時には、夫婦か家族でやるものなんじゃ。そちらの方が、挟み撃ちにしたり、追い立てたり、いざという時に片方が連れて逃げたりできるんじゃよ」
「いやカラナはどうするんだ?!」
「別にリノとユーリに任せておけばいいじゃろ?……あ、さてはお前さんワシらが死んだらどうしようと思っておるな?お前さんが一緒に行くのに、死ぬわけあるかい!お前さんは黙って狩った獲物を回収しとればいいんじゃよ!そしてワシらが怪我したら治癒魔法で治せ!!」
うんうんとなぜか四人は頷いている。それでいいらしいので、水虎狩りメンバーは俺とエルド、ソニア、カムラン、ラナになった。
狩ったものは、小麦などを入れていた麻袋を6枚縫って巨大な麻布を作って持っていくことにした。フレッドが虎ならそれくらい大きくないと入らないというから、念のため8枚で作ったやつも持っていくことにした。
俺と大蛇がいない間に何かあったら、キース、ライナス、クレハ、レベッカに島を守るように伝えた。あともし本当に異常事態なら姐御を呼ぶようにも伝えておく。
ダークエルフ達はすでに銛を砥石で研ぎはじめた。大蛇もだが、彼らもかなり楽しみにしているらしい。そんな姿に苦笑して、ポーションと息ができる魔道具を用意するのだった。




