カムランと島の終わり
「ウェルナー様、この島って面白いこと次々起こりますね!」
キースが笑いながらそんなことを言った。近くにいた住人達もそうだそうだと笑う。たしかに、この島に来てから色々楽しいな。
みんなで貝殻を集めたり、イカを集めたりしながら常に笑いは絶えずにああだこうだと話しているうちに、霧に大きなシルエットが見えてきた。カムランとやらを迎えに行った、姐御である。
入ってきた姐御の背には、ダークエルフ3人と、白肌エルフ2人がいた。ダークエルフはおそらくカムランとその家族だろうが、白色エルフはどうなのだろうか。見た感じ、病に侵されてはいない様子だから、ポーションが効いたんだな。
《連れてきたわよ〜》
「カムラン!!ラナ!!!」
エルフ達は一斉に姐御に駆け寄る。エルドなんか水に濡れるのも構わずに、海から姐御の背に飛び乗ってカムランに抱きついた。カムランはエルフ達がまさか生きていたとは思わなかったのだろう、本当にびっくりしていた。
カムランは見た感じ、大体ジャックと同じか上くらいの歳で、医者というより漁師らしい筋肉だ。妻の方も中年という感じであった。同じ黒い肌の産まれたばかりの赤ん坊を抱きながらも、再会を喜んでいた。
しかし、エルフ達は白色エルフ2人には全く近寄らなかった。何か因縁があるのだろうか。
「…はじめまして、ウェルナー様。私はカムラン。エルド達からあなたのことを聞きました。ポーションという薬と、治癒魔法という魔法で彼らを助けてくださったと…ありがとうございます。よもや、助からないと思っていたのに……本当に、嬉しいのです。ありがとう、ありがとう」
「カムラン、我が島へようこそ。エルド達があなたなら迎え入れてもいいと言っていたよ。信頼されているんだな」
島へ上陸してきたのはカムラン夫婦だけで、他の二人のエルフはうちのエルフ達が上陸を決して許さなかった。蛇達もちょっと嫌そうな気がする。
白いエルフ2人もエルド達が生きていたことに驚き、声をかけているが。
「エ、エルド、ルーク、ユーリ!元気そうで嬉しいぞ!」
「そのっ、元気になってよかったじゃない?」
うちのエルフ達は何も答えずに、ただ2人を睨みつけている。こっそりとカムランが、あのエルフ2人は病人を追い出せと言った人達で、自分達が病人になった途端口減らしをやめようって言ったりしたのだそうだ。エルフの村の中でも地位が高い存在なのだとか。
そんな2人がとうとう病人として島流しにあった、というわけなんだそうだ。そもそもこの二人は高圧的で、自分達を偉いと考える性格だと聞いた。なんだか自業自得だな。
もちろん俺はこの二人を追い出すつもりだ。エルフ達があんなに怒っている人を仲間にはできないだろう。
「ミディ、二人を気絶させろ」
こそりと肩のあたりにいたミディに言うと、ミディは頷いてエルフ2人の周りに霧を作った。その霧を吸い込んだ2人はガクッと力を抜き、意識を失った。
「…ウェルナー、コヤツらをどうするつもりじゃ?」
「みんなのその様子だと、島にきて欲しくないんだろ?なら、大蛇に頼んで記憶を消してもらうか意識が混乱した状態にしてもらうよ。そうしたら姐御に頼んで、なるべく遠くの海に流そう」
エルフ達は安心した様子で頷いた。そんなわけで気絶した2人を大蛇の元に連れて行き、最近の記憶が混乱する魔法をかけてもらった。エルドは更に念入りに、フレッドが使う魔法契約書をとりだして、無理矢理血をつけて契約させている。
あとは姐御に頼み、この島の真反対で海流的に絶対に来られない辺りに置いてきてもらった。船はほとんど通らないそうなので、彼らにもし運があればどこかに流れ着くか、助けてもらえるかもしれないな。
無情かもしれないが、俺が買ったポーションを飲んで回復して、殺さずにエルフの村の掟通りにしたのだから、優しい方だろう。
《はぁ〜よかったわね!万事解決よ!!もう海上はしばらくいいわ〜。アタシ、いつもの海底に戻るから、なんかあったらまた呼んでちょうだいね〜!》
なんて言いながら、姐御も海底に潜っていった。本当に姐御は頼りになる。
それからは、みんなで新しく島にやってきたカムラン家族の歓迎会を開くことになった。なんだか最近宴会ばかりやっている気がするけれど、楽しい方がいいよな。
料理の準備をする間、カムラン夫婦に島の案内をする。もう最初に大蛇に会わせて、大蛇の島だから蛇を大事にしろと刷り込んでおく。エルフは蛇を食べるらしいから。
色々なものを紹介していくと、カムラン夫婦はその豊かさや仲の良さに驚いているようだった。この島では、食事も日用品も家畜も全てが共有財産で、誰もが好きに使っていい。腹が減ったら誰かに声をかけて食べていいし、欲しい物は島の全員が手に入れられる。それがすごいのだという。
「これはエルフ達の決めたことなんだ。働きに合わせて食糧を与えてしまうと、強いものと弱いものが生まれやすいから、だそうだ。だからみんな財産なんてないし、あってもこの島では意味がない。
えーと、つまり、好きなことをしていいぞ。働かなくても飯は出るし、何かしたいことがあるならみんなで相談して、許可が出れば好きにやっていい。
まぁ開拓が終わらないから働かないわけにはいかない感じになってしまっているが……」
そんなことを言っていたら、ジャコブがマリアにおやつをねだっている。それに対してソニア婆さんが、倉庫の梨かチーズを食べなと笑って許している。これがうちでは当たり前だ。
もちろん一人で大量に食べたなら怒るだろうが、三食しっかり出ているので今のところそんなことは一度も起きていない。それにエルフ達は勝手に実をつけて食べればいいし、漁をして勝手に腹を満たしている。ジャック達もミルクを飲んだりできるし、キース達には干し肉やベリー、チーズを入れた袋を渡しているので、彼らも好きにやっているのだ。
「二人には、医者ももちろんなんだがエルドを手伝って欲しいんだ。養殖できる人が今エルドしかいなくてなぁ。姐御のためにイカを集めたいし、サーモンは沢山の稚魚がいるし、オイスターとアコヤガイも増やしたいんだよ」
「もちろんです。私たちは代々薬草に詳しく産婆をしていた家系だったので、医者として病人を診ていましたが…病人が居なければ基本的に漁をしているので、そちらの方がむしろ得意なのです」
そうだったのか、と話しながら広場に戻ると食事の支度ができていた。今日はカムラン達の歓迎会だということで、魚料理がメインだ。相変わらず美味そうだ。
食べながら、どうして医者であるカムラン達がエルフの島を出ようと思ったのかという話になった。普通は医者を追い出してしまったら、病人が増える一方になるから、最後まで残すはずだが。
「…私たちは医者として、古くから伝わる口布、口洗い、手洗いを徹底的にやってきた。食事もしっかりとって、身体が弱らないようにして。だから、咳病にかかることもなく、看病できていた。
だが咳病に罹らず、咳病を治し続ける私たちに、なぜか私たちが原因だと言い始めたんだ。咳病を流行らせたとか、治す薬を自分だけ使っているとか、自分の地位を上げるために仕組んだとか…毎日言われるようになった。
そんな最中、私たちの間に子ができた。結婚してからずっと待ち望んだ子宝が、ようやく出来たんだ。だけど、子どもは弱い。産まれたばかりで咳病に罹ったら……私たちはそんなのは耐えられない。それに毎日のように責められる場所なんて真っ平だ。
だから…次の島流しで出て行こうと決めたんだ。そんな時に出会ったのが、あの姐御殿だったんだ。背中に乗せて欲しい、安全な場所に連れて行って欲しいと頼み込んだ。そして……まあ今に至るわけだね」
「なんですかそのイカれた人達は!病気は誰でも罹るもんだろ!!」
「…あの島はもう終わりじゃな。あろうことかカムランを責めるなど…地位欲と高慢さしかあの島にはないんじゃ」
聞けば聞くほど胸糞わるい話だ。看病して治そうとしてくれる人をどうして責められるのか。ありがたいとは思えないのか。フレッド達やキース達、ジャックまでもが怒っている。
「まともな人は、島流しのふりをして大体内陸の神聖王国に向かわせたよ。残った人達は…きっと永遠に同じことを繰り返すと思う。エルドの言う通り、終わったんだ」
これ以上は場が暗くなっていく一方だったので、話題をつい最近できた温泉に変えた。あとでみんなで入ろうと話た。
そのあとは二人の子がカラナという女の子で、まだ生後一月も経っていないのだという話で盛り上がった。咳病とやらには罹らずに無事にこの島に来れて、本当によかった。
新しい仲間も増えたし、また開拓を頑張ろう。




