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姐御到来



 いよいよ冬がやってきた。秋のうちに対策を進めたおかげで、服やカイロ石で問題なく過ごせている。


「今日はライナスが担当か。よろしく頼むぞ」


「ええ。しっかり務めさせていただきます」


 キース達には開拓と警備以外に、重要な役目を任せた。火の番である。朝晩は寒くないように強火で、昼間は消えない程度に管理する。


 火の番担当はもう一つ作業がある。朝一番に熱したカイロ石を麻袋数個に詰めて、大蛇の元に持っていく仕事だ。そして夜に新しいカイロ石を持って行って熱いものと交換する。大蛇や蛇達が暖かい冬を過ごせるように。


 段々畑はミディが帰ってきたことで劇的に進んだ。ミディが岩を砕いて平坦にならし、出来る限り広い幅で作ってくれている。今ある小麦畑二面分くらいだな。ルークの指示のもと、少し傾斜をつけて水捌けまで考えているとか。


 そんな新しい平地を整備して耕すのがスイギュウの雄とキース、クレハ、レベッカだ。レベッカが牛に乗って土を掘り返している。


「あ、ウェルナー。肥料にしたいから、貝殻を細かく砕いておいてよ」


「わかった。糞はどうする?」


「なんかジャックがいうには糞と寝藁を一つに固めておくと、しばらくしたらサラサラになって肥料になるんだって。だからそっちは出来たら撒くよ」


 ルークによると、耕した土を作物が育ちやすくするために、石灰や腐葉土、馬糞なんかを混ぜ込んで寝かせておくのだそうだ。いつもながら、作物はエルフ達の方が詳しいから任せるのが一番だ。

 

 次は家畜を見に行く。家畜小屋にもカイロ石が撒かれていて、快適に過ごせるようにしているはずだ。


 ジャックが馬と牛の管理、ジャミルがリトルボアや羊小屋の管理、マーナが鶏やホロホロ鳥の管理をしているらしい。ジャンとジャコブは水を変えたり、餌を倉庫から運ぶ仕事をしている。分担しているんだな。


 狼魔物のロベルト達は、家畜小屋の周りに座って辺りを警戒していて、こちらが馬と牛、羊を小屋から出すと逃げないようにつかず離れず見張る。牛と羊を戻す時には吠えて誘導までする。


 そして鶏犬だったガロウは――厳しい指導のもと、ワンと鳴けるようになった。食事は一番最後、ボスのロベルトに吠えられて服従の姿勢をみせる。今は羊の誘導を教えているようで、甲高い声で鳴いて小屋に入れられるように頑張っているみたいだ。それぞれをヨシヨシと撫でてやる。


 台所では、ソニア婆さんとマリア、リノがいた。ソニア婆さんとマリアは昼食の支度をしている。リノはヨナスを背中に抱えて貝殻を砕いていた。いけない、俺もやらなくては。


「リノ、代わるよ。ルークに頼まれたから」


「あーそれより、エルドから貝をもらってきてくれない?まだまだ全然足りないよ」


「でも、砕く方が大変だろう?」


「フレッドの従業員さん達に任せるから、大丈夫だよ。それより貝殻!」


 早くしろという圧を感じたので、愛馬オズワルドを連れて海岸に向かう。ちなみに、新しく飼った牡馬2頭をブラウ、バロンと牝馬3頭をシロエ、クロエ、フロエと名付けた。


 オズワルドは勝手知ったる感じで、海岸へと走ってくれる。特に指示しなくてもいいのは楽でいいな。


 海岸にはエルドの姿はなく、海に潜っているのが見える。蛇達が次々に貝殻を集めてきているようだった。集まって山になっている貝殻を持ってきた麻袋に詰めていく。


「…おお、来とったんか!」


 海からザブザブ上がってきたエルドの手には、ホタテやオイスターがたくさん入った網があった。それだけでなくイカやタコなんかも入っていて驚かされる。


 昼食に帰ろう、と話していると蛇達が一斉に海の方に向いた。いつも海岸辺りでイカを狩っているチビ島亀も、海の方へ向かって泳いでいった。


 霧の中から現れたのは、なんとアイランドタートルの姐御である。


《やっほー!エルドちゃん、ウェルナーちゃん元気〜!!??》


「姐御!急にどうしたんだ?」


《んも〜色々あるのよー!とりあえずそのイカとタコくれる?》


 何か話したいことがあってやってきたらしい。エルドにイカを狩ってもらうように伝えて、俺は急いで拠点に戻る。住人とフレッド達を馬車に乗せて、改めて海岸に戻る。


 動く島ことアイランドタートルを見たみんなはびっくりしていた。ルークは即背中に乗って探索してるが。


 全員が集まったところで、拠点から持ってきた食事をしつつ姐御から話を聞くことにした。


「それで姐御、どうしたんだ?海を周遊するって言っていたじゃないか」


《そうそう、周遊してたのよ。なんだけど、アタシが海を泳いでいたらね、今まで人がいなかった岩ばっかりの島に人がたくさんいて、近づいたら攻撃してきたのよ!アイランドタートルのこと知らないのかしら!!

 そんなことが三回ぐらいあって、海に浮かびたくても攻撃されちゃうかもだし、そもそも異常に船がたくさんいて、泳ぐ隙もないわよ!!》


「……あー、そうか」


「えー、ウェルナー殿にかわり私が説明させていただきます。私はフレッド。商人です。どうぞよろしく。それでですね……」


 フレッドが代わりにペリネシア王国やジャネア王国の話をしてくれた。姐御を攻撃したというのは、ジャネア王国の隠し拠点の兵士達だろう。海軍の強いペリネシア王国ではアイランドタートルを、誰もが知っていて、攻撃なんてしないからだ。


 海図を見ながら、この辺とこの辺に拠点があるとフレッドが説明していると。


《やだ、違うわよ。この辺とこの辺よ。あとそれっぽいのが、ココでしょ?ココ、ココも居たわね。あ、ここはでっかい船がいっぱいで浮上出来なかったのよね》


「なんですって?もっと詳しく!詳しくお願いします!!!」


 フレッドは俺が持っていた海図にあった拠点の辺りを指差していたのだが、姐御は器用に小さな貝殻を魔法で海図に置いていく。驚きなのは、ペリネシア王国の真後ろに拠点があることだった。どうやってペリネシアの目をくぐり抜けたのだろう。


《そういえば…どこの場所も海馬が多いのよねぇ。なんでかしら?人間を食べたいのかと思ったら、人間を乗せてたりするし、最近の人間は海馬を飼うの?》


「へ…?海馬、ですか?海馬とはなんでしょうか?」


《ケルピーっていう海に暮らす馬の魔物よ。普通は人間を惑わして食べるんだけど…》


 おそらく、姐御以外全員は気がついたはずだ。ジャネア王国が、ケルピーを家畜化することに成功したのだということに。フレッドは姐御からケルピーを見た場所、数、兵士の数、拠点の位置を細かく聞き出した。


 急いでペリネシア側に伝えないと。相手は船ではなく海底から来るのだから。


「姐御、ペリネシアまで最速で何分だ?」


《10分あれば行けるわよ?》


「頼む姐御、フレッドを連れてペリネシアまで飛ばしてくれ。緊急事態なんだ!」


 そうなのー?と言いつつ姐御は快く受けてくれた。フレッドの代わりに水鏡に魔力を通し、フレッドはペリネシア側へと繋ぎを終えた。するとすぐに姐御に乗り込んで、ペリネシアに向かった。


 なんだか怒涛だったなぁ、と思いつつみんなで食事を続けていると、フレッドは一時間も経たずに帰ってきた。なんだかフレッドも姐御も疲れているみたいだ。


 詳細を聞いてみると、ふたりは王城から脱出する様の隠し船着場から入らされ、なんとそこには前王妃様、国王陛下、現王妃様が揃って待っていたのだという。それからフレッドと姐御は海図のことから二人の関係まで、あらゆる質問攻めにあったそうだ。


 国王陛下は姐御の情報を聞いて愕然とし、姐御に助けを求めたという。だが、姐御はケルピーは美味しくないから嫌!とあっさり断った。姐御にとっては人間の王がどうなろうが、知ったことではないのである。


《アタシ達はケルピーなんて食べないけど、メガシャークって奴らが大好物だから、そっちに食べて貰えばぁ?》


 という呑気な姐御と、メガシャークなんてS級の魔物を呼び寄せたり、使役するのは無理だという国王陛下。とりあえず、フレッドは協力を頼んでもらえないか聞いてもらうことにした。


 姐御は15分くらい海を移動して、メガシャークという巨大なサメの魔物をたくさん呼んできた。


《この島の周りにケルピーがいっぱいいて困ってるのよ〜。全部食べちゃってくれる?あと〜ジャネア王国?南の方の海岸にもいっぱいいるんだって!早い者勝ちよ!》


 と姐御が言ったら、メガシャーク達は大喜びで島の周りを駆け回っているという。


「…と、いうわけで、ジャネア王国のケルピー達はほとんど食われてしまったので、海から攻める作戦は失敗になったと考えていいでしょうね。姐御様、本当にありがとうございます」


 エルドとソニアが急いで集めていたイカを姐御の口に放り込む。姐御はいいのよ〜なんて言いながらひたすらイカを食べ続ける。やっぱりイカの養殖をしなきゃいけないな。


 だがフレッドが一番困ったのは、姐御との関係性の説明だ。説明するための言い訳を思いつく前に来てしまったから、どうしたらいいか迷っていた。すると姐御があっさりと。


《友達なの〜。たまに背中に乗せる代わりに、イカをくれるの!》


 と言ったので、それも解決したのだという。姐御はやっぱりすごいアイランドタートルなんだな。


 よかったよかった、なんて住人達と笑っていると。


《あ!待ってウェルナー!!もう一つ話があるのよ!!》


 ずずいと俺の前に顔を向けた姐御は、まだ相談事があるらしい。きちんと話を聞くために、姐御と向かい合う。


《エルフの島が大変で、どうしても島から出たいって友達がいるのよ〜。背中に乗せるのはいいんだけど、そしたらウェルナー達に会えなくなっちゃうじゃない?…どうしたらいいかしら?》


 俺はすぐにエルフ達の方を見る。エルフ達はかなり嫌そうな顔をしている。病気になっていらないからと捨てた人達を、助けようとは思えないのだろう。


 しばらく悩んだエルドが。


「その友達は何という名じゃ?肌は白いか?黒いか?」


《海にいた黒いエルフだったわ。名前はーえーと、カン…カル?いやカムカムだっけ?》


「「「カムラン!!!」」」


《あ、そうそう!》


 エルフ達は口を揃え、姐御の友達とやらの名前を叫んだ。そして、エルフ達はパァッと笑顔になって頷く。


 カムランという人は、人間の職業で言うところの医者に当たるそうで、ここにいるエルフ達を最後まで看病し、最後まで口減らしに反対していた人だという。奥さんもずっと病人の面倒を見てくれていたのだという。


「カムランの家族なら大丈夫だ。心配いらない」


「そうか。姐御、ここのことは秘密にしながら…連れてこれるか?あ、一応…ポーションも持って行ってくれ。これで普通に治るから」


 と、そんなわけで姐御の友達のエルフを島に迎えることになりそうだ。









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