冬支度
毎日少しずつ冷えるようになってきた。たしかに雪が降りそうなほど寒くはないのだが、半袖で居られるほどではなくなりつつある。そんな朝に最初に火を焚くのがソニア婆さんとユーリ婆さんだ。だが、最近はマリアも一緒に煮炊きをしている。
この島の決まり事について説明する際に、それぞれに何がしたいか?何ができるのか?を聞いて回った。移民のジャック達は、これまで荷運びの仕事や、裁縫の内職、農業、酪農をしながら自給自足の生活をしてきたそうだった。なので、彼らには家畜の世話の担当になってもらった。
今まで世話をよくしてくれていたミュリンは、ユーリ婆さんと共にエルフとしての魔法の使い方を学ばせる。せっかく木の魔法を使えるのだから、使わないのは勿体無い。
キース達は、体力担当というか開拓担当だ。特に武力もいらないこの島では、それが一番の使い所だったのだ。
「鬼人族達の農業のやり方を見て、うちもせっかく山があるから段々畑にしようと思う」
「せっかくの森をこれ以上削りたくないよね。いい案だと思うよ」
なんて話しをルークとしていたのだ。計画としては、5段の畑にする予定だ。というのも、山の中腹にはすでに休めるくらいの空間があることは探索済みだったので、そこを一番上として、大体5段くらいかな?となったからだ。
大蛇に聞いたら、平たい場所の辺りまで行かなければ問題ないというので、やることにしたのだ。そこで活躍するのがミディやビノである。土魔法を使って、山を切り出してくれるという。まぁ今はミディはいないので、戻ってきてからだな。
そんなわけで冬の間は蛇達が切り出した山を畑にする作業がメインになるだろう。今はサーモン養殖場まで木を切って、広げる方向なのでそれを頑張ってもらっている。
そうそう、サーモンは無事に稚魚が見えたそうで、このままいけば養殖場を広げることになりそうだった。もう一匹の雌もいつのまにか岩に産卵していたそうで、慌てて雄を入れたが、稚魚になるかはわからないという。それでも、エルドが嬉しそうに新しい穴を掘って養殖場を広げていて面白い。
俺の最近の仕事はみんなが集まる中央の広場に巨大な火を焚く準備をしている。これはもちろん、寒さ対策だ。フレッドに頼んで、魔法を長時間維持するための魔道具を沢山仕入れて貰ったのだ。それは火を維持するだけでなく、それぞれの家を嵐から守るためにも必要だったのでたくさんだ。
「まぁこんなものか」
雪の降るような寒い地域では、火山石を長細く切り出して甲子になるように重ねて、その中に薪を入れておくのだという。その大きさはかなりの大きさだそうだが、うちはせいぜい腰丈くらいにしてやってみることにした。
あとは魔暖石だ。フレッドによるとボルカノでよくとれるので安いのだそうで、一番暖まりやすく厚みがあるものを、平たい板のように加工してもらってきたそうだ。早速大蛇にプレゼントした。
大蛇は石は冷たいから嫌だと言っていたのだが、一枚だけ敷いてやると暖かいと気がついたらしい。大蛇の寝床にざっと二百枚くらい敷いてやれば、大蛇だけでなくチビ達も蕩けている。
《これはすごい!暖かいな!!これなら冬でも動けそうだ》
「だろう?魔力が通っている間はずっと暖かいんだそうだ。ま、大蛇には色々世話になってるしな、絶対にプレゼントしようって決めていたんだ。他にも、カイロ石っていう火にかけるとしばらくあったかい石も用意したから、冬に寒くないように頑張るからな」
《…気にせずにいていいと言っているのに。全て私がやりたくてやったことなのだから…まあ、でも、この石は悪くない。気に入った!》
珍しく興奮して喜んでいる様子の大蛇を撫でてやって、新しい島民や冬支度の話をして。フレッドから聞いた戦争の話も少しした。
《そうか…ならば尚更この石をくれてよかったな。寒い日は私もこの島の霧を維持するので精一杯なのだ。だが今年は暖かいからな、充分にお主達を隠してやれるだろう》
「おう。ありがとな。ところで、今まで寒い時に動かなくてはいけなかったら、どうやって暖をとっていたんだ?」
《…ああ、そういえば言ってなかったか。この島は火山の噴火でできた島だからな、温泉があるのだ。毎年チビ達はそこで過ごしているんだよ。家の近くに穴を開けといてやるから、お主達も好きに使っていいよ》
びっくり仰天である。これまでお湯をつくって身体を拭いたりしていたのは何だったのか。もっと早く教えて欲しいものだが、考えてみたら冬以外は水で十分だもんな。
大蛇をギュッと抱きしめて、また礼をした。礼をしても礼をしてもしたりないな。
拠点に帰って、大蛇が温泉をつくってくれると言うと、女性たちが特に喜んだ。もちろん俺たちもだ。男性の入る時間、女性の入る時間をわけて管理しようという話にまでなった。
「キース、ライナス、クレハ、レベッカ。四人には温泉の警備に入ってもらう。男の時間はいらんが、女の時間は必要だろう。まあ、こんな人数で不貞を働こうとしないだろうが…若い女性も多いからな」
キース達は、開拓以外の仕事ができたことが嬉しいようで、なんだか張り切っている。
そういえば、キースやジャック達はまだ大蛇に会っていなかったな。明日連れて行こう。フレッドが説明してくれていたようで、この島は蛇神がいること、蛇を大切にしなければいけないことを、ちゃんと知っているから忘れていたな。
翌日になると、早速住人達が騒いでいた。俺たちの拠点の北側の、切り立った山壁だった辺りに、大きな穴が空いていた。2メートル程洞窟が続き、その先には湯気の立つ、広い温泉があった。二、三ヶ所からチョロチョロ水が流れている。すでにチビ蛇達がスライム5匹とぷかぷか浮かんでいた。
温泉の手前は岩でできた空間があり、身体を洗ったりも出来そうだ。この辺は大蛇の配慮だろうな。ジャンとジャコブなんか目をキラキラさせて、大蛇様すごい!と飛び跳ねている。
せっかくなのでそのまま住人全員で大蛇の寝床を尋ねた。キース達とジャック達は大蛇を見て、やっぱり驚愕していたものの、俺やエルフ達が普通に触ったり会話しているからか、段々と落ち着いたようだった。
改めて礼を伝えれば、大蛇は目を細めて俺に頬を寄せた。魔暖石の効果恐るべし、だな。
そんな騒動の中、慌ててペリネシアに出かけていたフレッドが戻ってきた。フレッドもこの温泉には驚き、そしてありがたがった。冬にはありがたいよな、本当に。
海岸でキース達と積荷をおろし、馬車に詰め込んだ。また馬車三台分とは恐ろしいよ。
「ウェルナー殿…図々しいお願いで大変恐縮なのですが、ペリネシア王国とジャネア王国の一件が落ち着くまでの間、どうか私と私の従業員達をこの島に住まわせていただけないでしょうか?」
積荷を拠点に送ろうとした時、フレッドはそう言って頭を下げた。もちろん、俺は迷うことなく受け入れる。フレッド達が戦争に巻き込まれて死ぬくらいなら、この島で好きなだけのんびりしたらいい。
俺も、フレッドにして欲しいことがあるのだ。フレッドは商人として語学、算学、歴史、地理などの知識を学んでいて、とても博識だ。だから、是非俺や子供達にその知識を教えてほしいのである。特にジャミル、マーナ、ジャン、ジャコブには勉強する機会を与えたい。
そう伝えると、フレッドは強く頷き力になってくれると言ってくれた。
そして、お楽しみの温泉だ。
「ああ〜〜〜あったか〜〜」
「よい湯加減ですなぁ」
「沁みるのぉ!」
「気持ちいいねぇ」
「こらコブ!走ると滑るだろう!ミル、捕まえろ!!」
男性陣の時間になり、男達はみんなで暖かい湯を楽しむ。ジャックは髭を剃ったら、若返っていてお父さんというのがようやくしっくりきた。子供達はジャコブを無理矢理湯に入れて大人しくさせていた。子育ては大変だな。
湯に浸かりながら、情報交換できるのも良かったりする。早速リトルボアに子ができたとか、鶏が50匹を超えたとか、薬草の畑をどこにつくるとか。ちょっとした会議になりつつある。
最近の悩みは養殖と漁で、ソニアもできるが食事作りが担当で。そうなるとエルドが一手に引き受けなくてはならなくなるわけだ。うちでは現在、サーモン、オイスター、アコヤガイの養殖をやっているわけで、エルドはそれを毎日面倒見てくれている。流石に心配だ。
「こればっかりは仕方ないからのぉ。ヨナスが大きくなるのを待つしかないわい!がはは!」
「俺も頑張って漁をするから、無理しないでくれよ」
「お前さんが漁するくらいなら蛇達のがよっぽど頼りになるわい!!」
ドッと笑いが起きた。そりゃそうだ、とみんなで笑う幸福を感じながら、日々の疲れを癒すのだった。




