鬼人族の島
姐御の背中は、まずオズワルドとターシャが元気に島中の草を食べて綺麗にした。ユーリ婆さんとルークが木を移動させて苺、バナナの果樹園と畑風にしてくれた。ちなみに畑の内容は、元々生えていたトウモロコシと、じゃがいもとうちの島の至る所にあるサトイモだ。本当にそれっぽい。
ユーリは更にエルフの蔦魔法で家をいくつかと鶏の小屋を作ってくれた。住む予定はないので、ユーリ曰く数日で壊れる強度だという。ちょうどいいな。
煮炊きしている風に火を焚いてあとを付けておく。調理器具も用意して。
積荷は酒一樽、干し芋一樽、干し貝一木箱、自生していた鶏である。それ以外に麻袋に調味料少々。真珠と金貨も小さな麻袋一つ持っていくことにした。使わなそうだけどな。あとカモフラージュ用に水の入った樽二つと小舟だ。
海産物を獲るのが苦手だそうなので、網いっぱいのロブスターとホタテという二枚貝をたっぷり詰めて持っていくことにした。イカを大量に入れた樽二つも持って行くが、これは姐御用だから売らないつもりだ。
姐御の背中を調整する数日で、わかったことがある。この青灰色のモコモコ鶏は、肉としても卵としても美味しい。これはかなり嬉しい。もし売れなくても、肉として食糧になる。
そして珍妙な仔犬ことフェンリルについては、ちょっとおかしな感じだった。フェンリルというより、鶏として振る舞うのである。餌は穀物や虫、産んだ卵を代わりに温める、「コゥン」と鶏に真似た鳴き声を出す。島で飼う人馴れした鶏達を親のように思っていて、後について行く。
これは早急に犬に戻す必要がある。むしろ島にいる狼の群れに放り込む方がいいかとさえ思う。狩りももちろんしないし、臆病で大人しいので猟犬も牧羊犬にもできない状態だ。だがこのまま鶏達と一緒に居させるのは絶対駄目だと思った。
鬼人族の島で牧羊犬がいたら是非買いたいところだ。
というわけで、姐御の海状態予報が良い日にエルフ達全員を乗せて、鬼人族の島へと向かうことにした。家畜は蛇に任せて留守番だ。ちなみにフェンリルの仔犬は大蛇に預けたので、今頃説教されているだろう。
姐御によると、一時間ほどで行けてしまうのだそうで、エルドの船で半日と考えると、かなり早く泳ぐのだと知った。
「ウェルナー!これは凄いのぉ!!アイランドタートルに住みたくなる気持ちもわかるわぃ!ひゃっほー!!!」
「早いよなぁ!さすが姐御だ」
「姐御様々じゃあ!!!」
《やだぁ〜!全然本気じゃないのに〜!!本気出したら5分で行っちゃうわよ♡でもありがと♡》
さすがにびっくりしている俺と、更に興奮するエルド。姐御すごすぎる。
一時間ほどすると、鬼人族の島が見えてきた。うちの森とは違い、竹林が多くて、木が少ない。茶色、白、黒なんかの小さな粒々はもしかして全部家畜だったりするのだろうか?だとしたら相当な規模だな。
いきなり行くと驚かせるかもしれないので、ある程度近づいてからエルドに船で説明してもらいに行った。すでに鬼人族達は船着場にたくさん集まっていて、何事かとざわついている雰囲気だ。
噂に聞いていた鬼人族は2メートル以上の巨体で、筋骨隆々で槍や剣を背中に背負っている。女の鬼人族はそれよりは背が小さいが、おおむね一緒だ。胸元に毛皮があり、身体に黒い紋様が描かれている。むしろなかったらわからないだろう。
「ウェルナー!!きてもいいそうじゃぞぉ!!!」
エルドから許可が出たので、姐御に船着場に顔を乗せてもらって、鬼人族の島に上陸した。
鬼人族の集団の中から、ズイと出てきたのが牙や真珠のアクセサリーをつけた男の鬼人族だった。
「鬼人族の長様、紹介しますじゃ。まずこの人族がワシの島のボスのウェルナーですじゃ。そして以前話したワシらの島がこれで、アイランドタートルという魔物の背中に住んでおりますのじゃ」
「…鬼人族の長、ザザと申す。エルドから貴殿の話を聞いていたから、会えて嬉しく思う。そして…近くに島がないのに変だと思っていたが、アイランドタートルに暮らしているとは思わなんだ。だが、逆に安心した」
「ザザ殿か。俺も話を聞いて、是非会いたいと思ってこうしてやってきてしまった。島のことも、突然で驚かせてすまなかった。…今日は、うちの島とザザ殿の島で交易したいと思って立ち寄ったんだ」
「それも聞いている。こちらとしては大歓迎である。是非うちの島を紹介しようではないか!」
「ありがとう。うちの島も自由に見てくれて構わないよ」
俺とザザがそう話して握手をすると、鬼人族の子供達が我先にと姐御島に登っていく。遅れて待ちなさい!なんて言いながら鬼人族の女性達が上陸していった。うちはエルドとルーク、ユーリ婆さんが鬼人族側の見学だ。
鬼人族の島は二つのコブのように小山が二つあるような形で、うちの本当の島と同じか少し小さいくらいだろうか。中央の平地に本当にたくさんの家畜がいて、コブの頂上に集落があるような感じだ。
集落は竹を使って作っているそうで、人間の家の二階建てくらいの大きさの家が特徴的だ。貨幣は知っているが無いそうで、基本的に物々交換だという。
実はこの家畜は一家畜に対して一家族が管理しているようで、ザザは一番大きい柵の家のものだから、族長なのだという。小さな柵の家畜は、若い夫婦に多く、大体女が村で家畜を管理して、男は内陸で家畜化できそうな魔物を捕まえてくるのだという。面白い文化だな。
「まず、鬼人族というのはこのように体格が大きくてな。ゆえに、人間の三倍は喰うのである。そのため、家畜を大量に増やしているのである。
それでも足りないので、あちらの段々畑で小麦とさつまいもを育てている。頂上にあるのは梅と竹で、梅は梅酒という我が一族伝統の酒を作り、竹は春になるとタケノコという若い茎が出てな。それも食糧になっているである」
「酒じゃと!?欲しい!欲しいぞ!」
「……畑と梅、竹についてはよくわかった。その…そんなことより、この家畜はなんだ?!」
家畜ゾーンをサラッと話して、畑の説明をしてくれたザザと梅酒に興味津々のエルドには悪いが、正直俺にはもっと重大なことがある。
「いやどう見ても、魔物のビッグボアじゃないか?!」
「そうだが?」
鬼人族と同じくらいの背丈のビッグボアは、内陸で何度も戦ったことがあるイノシシの魔物だ。攻撃的で、その突進は岩も容易く砕く。そんなビッグボアがざっと数百頭いる。ビッグボアとは思えないほど大人しく、世話をする鬼人族に懐いている感じだ。
「普通のサイズの家畜ではとても我々鬼人族の胃袋を満たすことは出来ない。故に考えた結果、ビッグボアの子を捕まえて人間の手で育てていったのである。人に育てられたビッグボアは従順で、家畜にもってこいだったというわけであるな。
同様に、このジャイアントラビットと、ビッグゴートも家畜にすることに成功したのである。だが見ての通り普通のサイズの家畜もたくさん飼っている」
ビッグボアのほかに、普通の牛くらいのサイズがあるジャイアントラビットというウサギ魔物と、馬くらいの大きさのビッグゴートというヤギの魔物がいる。食用ではないそうだが、鬼人族の乗り物としてバトルホースという大きな馬までいた。たしかに普通のサイズと比べるとかなり大きい。
本当に家畜の育成が上手いのだとわかったが、さすがにこんなに巨大な家畜は要らないので、普通の家畜を買うことにした。
まず、牛だ。うちにいる牛は、農耕用兼食用のスイギュウの亜種だ。(知らなかったが、鬼人族が飼っていたので説明を聞いた)
俺が欲しいと思っているのは、ジャー牛という乳牛を大量に出すように改良された品種だ。鬼人族でもミルクは毎日搾って、チーズなどに加工しているのだそうだ。20頭は居るので、番いで買わせてもらえることになった。
次に、豚だ。もちろんビッグボアではなく、そのビッグボアを品種改良したリトルボアという豚だ。なんでも、ビッグボアを育てているうちに身体が小さな個体が産まれ、その小さな個体同士をかけ合わせて出来た種なのだそう。サイズは普通の豚を一回り大きくしたくらい。
しかもその特徴が繁殖力なのだそうで、ビッグボアは子供を一頭か二頭しか産まないが、リトルボアは一度に6〜8頭も産むのだそうだ。だからか、リトルボアの放たれている柵にみっちりとリトルボアがいる。さすがに増やしすぎじゃないか?
「たまたま今は数が多いが、明日にでも九割はベーコンにしようと思っているので問題ないのである」
「なるほどなぁ…あ、そのベーコンという食べ物がすごく美味しかったんだ。それも買えるだけ買わせて欲しい!」
「ふはは!もちろんいいのである」
他にも、ヤギ、バッファロー、アヒル、鴨などのたくさんの家畜がいる。チラッと鶏の柵を見ると…青灰色モコモコ鶏はいないな。交渉材料になりそうだ。
船着場に戻ると、ワイワイとエルフ達と鬼人族が話していた。今度は具体的な交易内容だ。
俺たちは、予定通りの品を並べて、島のモコモコ鶏を2ペア残してあとは売りたいと申し出た。そして、家畜の牛と豚、チーズとベーコン5樽と梅酒が欲しいと伝えた。更に、対価が足りなければ真珠や金貨も渡せることも伝えた。
ザザはしばらく待って欲しいといい、鬼人族達の半数以上が集落に戻っていった。残った鬼人族の女性たちが、支度をしていたという料理を振る舞ってくれる。
ビッグボアのステーキに、ジャイアントラビットのウサギパイ、ビッグゴートの煮込みなどとにかく肉の大盤振る舞い。エルドが欲しがっていた梅酒とやらも、初めて飲む酒だがとても美味かった。そしてベーコンチーズサンドも涙が出そうなくらい美味しかった。
腹がはち切れそうになった頃、ザザが戻ってきた。
「話し合いが終わったのだ。我々としては、この品々の他にそちらの島にあるトウモロコシ、苺の種か苗を貰いたいと考えている。もしそれをいただけるなら、リトルボア3ペア、ジャー牛2ペア、チーズ10樽、ベーコン15樽、梅酒3樽を渡そうと思う」
「えっ?!お、多くないか?トウモロコシと苺を渡しても、対価が多すぎると思うのだが…」
「いや、多くはない。ウェルナー殿がくれるといったブルーコーチンは、北の獣王国とフェルモート皇国にしかいない種だ。獣王国はともかく、フェルモートは今飢饉だそうだからな…ほぼいなくなったと見ていいだろう。だから、貴重な種だというのがあってな。
そして苺だ。この島には果実があまりなくてな。女達がどうしても欲しいと言ったからというのもある。
……あとは、友好の証だ。今後もたまに来てくれるのだろう?ならば、正当な対価で支払うのは当然のことである」
うんうんと笑いながら頷く鬼人族達。俺は改めて、ザザと固い握手を交わした。
それから、エルフ達が種から苗をたくさん作り出し、育て方や実の成らせ方を説明して更に収穫量が増える魔法を小麦畑にかけた。鬼人族達は、家畜の飼い方、チーズの作り方、家畜の解体方法を教えてくれて、鶏担当の家族が、よくいる白い鶏の有精卵4つをこっそりくれた。きっとブルーコーチンで地位が高まるのだろうな。
たくさんの積荷と共に、俺たちは自分の島へと向かうのだった。




