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八咫烏 ―YATAGARASU― ~邪神と巫が入れ替わる~  作者: 柴犬ジョニー


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第3章 ウェルド ・ 第2話 真具呂と志毘 ②

 俺達は戦を避けて船を進めなくてはならない。

 しかし、巻き込まれる時もある。

「敵襲―!」

 夜半に響き渡る声。ガバッと飛び起きる。

 うかうか寝ていられない。余所者も容赦なく焼き討ちに遭う。

 俺達はその場にあるものを手に取って、宿にしている竪穴住居から飛び出す。

 襲ってくる奴が敵だ。敵は簡単な防具を身に付けているけれど、甲冑と呼ぶには程遠い。大抵は腹部と背中を木製甲で覆っているだけ。武器は主に弓矢を用いる。

 俺達は寝起きで、貫頭衣のシャツと袴パンツだけだ。そして、裸足。

 剣と俺と三野と久斯、護衛達は刀剣を所持して、寝る時も側に置いている。それを手に戦う。

 一方、船乗り達は竪穴住居から農具か漁労具のモリを持ち出して戦う。

 集落の農民・漁民も入り乱れ、敵兵と戦う。女達と老人、子供は裏から逃げる。普段から訓練が出来ている。

 空は暗いが、そのうち集落の何軒かが燃え始め、松明代わりになる。

 茅葺き民家はよく燃えた。一帯がきな臭くなった。

 ヒュンヒュンと矢音が飛び交う。もうわけもわからない乱戦だ。

「我は弥の一族、藤木(ツルキ)の身だ。理由もなく殺すと言うなら斬り捨てる。覚悟しろ!」

 剣が名乗りを上げる。名乗りの後は死者が出ても責任は取らないということらしい。

 本気モードの戦闘、本物の殺し合いだ。

 暗闇から突き出される剣。

 俺は敵剣の中程を大刀でハリ、その軌道を外へ弾く。斜め前に飛び込みながら相手の頸部を斬った。

 この素環頭大刀という武器は、俺の知る日本刀の半分しか切れ味の鋭さがない。

 俺は必死で敵を斬った。暗がりの乱戦で、一対一の戦いじゃない。

 でも、手応えがあった。致命傷だと思う。

 病院は無いから、頸動脈に届けば必ず致命傷だ。

 俺は剣術を習ってきたから、むしろ手加減出来ない。簡単に一本決まってしまう。

(人を殺したかも…!)

 俺は息が詰まりそうになる。

 元居た世界でそんな殺し合いに巻き込まれたことはなかった。

 俺は鬼や邪霊を斬る為に剣術を習った。この人達に何の恨みもない。

 相手の顔は見なかった。たぶん、若い男だったと思うけど。

 俺の背中を冷汗が流れた。

「多伎! ぼっとするな! 死にたいのか⁉」

 剣に怒鳴られて我に返った。

 今は生き抜くことだけを考えよう。



 戦闘は三十分もかからず終わった。

 敵は俺達が手練れと見て、この集落から撤収した。

 俺は初陣みたいなもので、暗がりで足の震えが止まらなかった。

 集落に敵と村人の死傷者が倒れていたが、後のことは他の奴等に任せた。

 俺は小川に行って、返り血を洗い流した。



 次に寄港し、夕飯を頂く宿は、この戦を仕掛けた側・西の石城國(イハキのくに)()()()

 このクニは今回の戦に関し、三野方の援助を受けていた。

 戦争の理由は、報復の連鎖と土地の奪い合いだ。攻められた側のクニも自衛の為と言っており、双方の主張は平行線。

藤木(ツルキ)()。八雲はどっちの味方なんです?」

 苛立ち、返事を急かす若い身。

 石城の身は立派な絹の装いで木底のサンダルを履き、国主の椅子に座っている。

 剣も苦い表情。

 八雲はこれまで戦の仲介役で、中立的立場だった。

「必ず勝ち(イクサ)に乗らなくてはなりません」

 剣の側近・(タデ)が俺の耳元で囁く。

「『滄溟の鳥』の弥の者は、攻撃を受けた東のクニの言い分に正当性があると考え、三野方の者は攻撃した西のクニを推しています。古くからの付き合い、地理的な関係性もありますが、『滄溟の鳥』の面々でも意見が分かれるところです」

 剣のもう一人の側近・奥津(オキツ)はニヤニヤしている。

 歓迎の宴の終わった後で、剣が俺に告げた。

「のらりくらりと返事を先延ばす。強い方が片方を征服しそうなら、八雲はそっちと組む。勝負が付かないようなら、頃合いを見て仲裁する」

 まぁ、常套手段だ。停戦、そこで同盟婚などの策が取られる。

 俺は血が多く流れないことを願う。

 御屋の出口で偶然、久斯と並んだ。俺達は無言で集落の小道を歩いた。

 浜に波打ち寄せる音が聴こえてきた。戦のことを忘れ、波の音に心癒される気がする。

 久斯が淡由岐の顎を撫でた。淡由岐が久斯にも懐いていた。

 辺りを見回したら、他の奴等は俺達を抜かして先に宿へ帰った。

 他に誰も居ない。

 俺は久斯の過去について触れた。

「そう言や、久斯って筑紫(ツクシ)の生まれだろ。筑紫のどこ?」

「久斯というクニから来たから、久斯と呼ばれている…」

 人名、通り名は地名に因んだものが多い。

「三野方じゃないんだな」

「そう。奴國(ナのくに)の周辺のクニだ。奴國に属した。…今はもう滅びたよ…」

 久斯の笑みが空々しく、俺は胸が痛んだ。

 彼の辛い経験に触れたかも知れなかった。俺はそれ以上聞くことをためらった。

 でも、久斯の方が自分で話し出した。

「私が三野方に来た理由…それを誰かに話すのは…たぶん初めてだ。馬鹿みたいと思われるかも知れないけど……二十年も会いたいと思い続けている相手が居て…」

 え、恋愛の話かよ、って俺は驚いた。

 久斯もはにかむように笑い、

「…私は今でも、その生き別れになった幼馴染を探している。きっと、もう結婚して子供も産んでいるだろうけど…どうしても会いたくて…」

 言いにくそうに、でも正直に話してくれた。

 久斯が独身なのはそれが理由なのか。

 俺は彼を応援したくなった。秘密を俺に打ち明けてくれたことが嬉しい。

 噂で聞いた『久斯の黒歴史』について、本当は知りたかった。殺人、強姦、女子供まで皆殺し。そんなことは嘘だと確認したかった。

「多伎、…真具呂か()()から何か聞いた?」

 久斯は噂の出処が真具呂と志芸だと考えていた。

 鋭い彼は俺の胸中を何となく察した。

「別に…」

 俺は友達に嘘を付いてしまった。



 翌朝。

 俺はトイレ((カハヤ))に行こうとして、偶然人影を見つけ、木立の陰に隠れた。

 久斯と剣が宿の裏で言い争っていた。

 久斯が感情的になっているのなんて初めて見た。

 俺は驚いて、そのやり取りを眺めていた。

 気が付くと、林の向う側の木陰に真具呂が隠れていた。

 真具呂も剣と久斯の言い争うのを聞いていた。それも、とても楽しそうにニンマリ笑っていた。

 真具呂が不吉な死神みたいに思えた。

 俺と真具呂の目が合った。

 真具呂は俺を見て意味深長な笑みを浮かべ、足音を立てずに歩き去った。



 真具呂とよく喋るのが、久斯の噂をしていた三野の護衛・志芸(シギ)と、不良船乗りの海狭児(ミサゴ)、いかつい面構えの漕手の比良(ヒラ)()()だ。

 真具呂は息子の志毘(シビ)を無視しており、殆ど自分から喋りかけることはない。

 久斯は俺と三野、剣以外と殆ど喋らない。孤高の人という感じ。

 奥津は面白いな、全員とふざけた口調でよく喋る。

 他の護衛も護衛同士で大概、親しそうに見える。

 真具呂の息子・志毘と仲がいいのは、ツインテールの長い髪の奈目(ナメ)だ。

 奈目は十五歳。小柄で華奢で可愛らしい顔立ちで、ぱっと見、男か女か判断に迷う。

 だが、もの凄い怪力の持ち主で、女の子では有り得ない。

 髪を額中央で振り分け、左右の耳の上で束ねるのは吉野ケ里遺跡など筑紫の男の髪型だから、奈目は筑紫出身なんだろう。

 あの長い髪、潮風に吹かれて、船で後ろの席の俺の顔によく当たる。邪魔なんだけど…。

 ちなみにナメとはイルカのこと。あいつは泳ぎが得意なんだろうな。

「ホーランエンヤァ…」

 俺達は船乗りの歌を歌う。

 掛け声だけじゃなくて歌詞も三番まである。それを一番から繰り返し歌っていると、たまに七番とか言う。

 七番は知らんわ。

 漁師の歌、海鳥の歌、片恋の歌、陸地に残してきた妻と子を思う歌……。

 どれも歌詞は短い。短いけど、味がある。

 奥津が言っていたな。『滄溟の鳥』の乗組員の中にスパイが居るって。

 俺はそれとなく見回すけれども、全然わからないな。




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